第376話


異世界6ヵ月と24日目・・・4月16日。


目まぐるしい日々を過ごした為、気が付けば、季節は春半ば。

綺麗な桜の花を見る事が無いのは残念だ。


ここ、王都の宮殿の10階の自室で日の出の少し前に目覚め、屋上のラピス庭園の上がり、御来光を拝みながら朝のコーヒーを1杯飲む。

この場所は、ここ王都では、その高さ故に、真っ先に日の出が拝める場所である。


当初より拡張された第一地下訓練場に行くと、弟子達が、訓練をしている。


「おはようー!みんな!!」


「「「「「「「「「「ボス、おはようございます!」」」」」」」」」」


海渡とフェリンシア・・・そして最近はステファニーさんも加えた3名で第7期生の魔法訓練を行う。

第7期生の前で、飛行魔法のイメージを説明する。

全員が飛べる状態にするのが今朝の目標である。


「尚、慣れるまでは、魔力残量を考えて飛ぶ練習をするようにな! 高高度で魔力切れを起こすと、墜落して死ぬ事もあるから、低空でコツを練習するように。」

と大事な注意事項を伝える。


ちなみに、魔力の鍛え方は、既に国民に広めており、魔力感知や魔力操作そしてその派生系である身体強化、身体加速、クロックアップまでの教科書は、さえじま商会を通じて、低価格で出している。

もっとも、当初は文盲率が高過ぎて、幾ら為になる本を安くだしても、普及しなかった。

そもそも読めないのであれば、納得である。

と言う事で、海渡が取った策は、教育番組を全国に配信したのだ。

また各都市で、国民全員に骨粉入りハチミツ水を配った結果、文盲率が激減し、某かの損傷で目が見えなくなった人、又は7歳未満の子供以外は全員が文字を読める様になった。


文字が読める様になり、知識欲が高まった国民は、さえじま商会が販売し、奇跡と約束を実現し続けている国王様の推奨する本を買い求め、更に国力を底上げする事になった。

小学校では、四則演算や分数、少数を教え、その利用法として、面積の求め方等まで教える様にしている。次世代は明るい。



朝の訓練が終わり、一旦10階に戻って、朝風呂に入る。

朝風呂に入っていると、しみじみと、この宮殿の作りを失敗したと痛感する・・・。


10階の風呂には、誰も居ないのである。

トリスターの頃が懐かしい・・・orz

何階か4階の従業員用の大浴場に入っていたのだが、他のスタッフに、「流石に王様はこちらには・・・」と言われ、今度は10階の風呂に弟子達と入って居たら、「他への示しが付きませんから・・・」

と窘められてしまったorz


と言う訳で、前の様に、「兄貴!」と言うラルク少年との湯船での会話が無くなってしまったのであった。



しかし、食事に関してだけは、妥協して貰い、みんなと同じ大食堂で和気藹々と食べている。

やはり、この風景でないと、食べた気がしないよね。

宮殿スタッフや、兵士、メイド、大臣、文官、ごちゃ混ぜの中でワイワイと食べる事で、意外な情報が入って来たり、色々な商品のヒントが出たりと、有益(と言って説得)なのであるw



さあ、今日は、待ちに待った『建国記念祭』午前10時には、各国の王様や招待客らが押し寄せて来る。

旧貴族街のエリアに大きな迎賓館を建てたので、王族以外の招待客はそちらにお泊まり頂く事となっている。

王族は9階と8階のゲストルームにお泊まり頂く予定。



王都も各都市も街中はお祭りムード一色である。

各国から、商人も集まって来ている。

既にどの宿も満杯状態で、急遽古い従業員宿舎を出して、暫定の宿を作ったぐらい。



朝食後、一応正式な服装に着替え・・・

「うぁ~ お似合いです! 素敵ですよ!!」

と言うメイドの言葉をバックに自分の姿を鏡に映し、微妙な顔をする海渡。


「あぁ・・・何かこれって完全に七五三の子供じゃん・・・ それに何、このヒラヒラの付いたシャツと、この昭和臭漂う半ズボンは? 完全に嫌がらせか!!」

と激オコ中の海渡。


海渡はメイドを下がらせて、自分で持って居る中でマシな物をチョイスし、着替えた。

「ふぅ~。これなら失礼にはならないよな? 後であの服を調達した奴を見つけ出してヤル!!!!(怒」

と鼻息を荒くしながら、部屋を出たのだった。


10階のリビングで待って居ると、フェリンシアとステファニーさんが、ドレス姿で現れた。

「わぁ!!! 2人とも滅茶苦茶綺麗だよ!! 美少女が超絶美少女に、美人エルフが超絶美人になってるよ!!」

と思わず本音で褒めてしまい、「あっ・・・」と照れる海渡。


「うふふ、ありがとうございます。」とお淑やかなフェリンシア。

「うちも、着飾ると、満更ではないやろ?」と頬を赤らめながら目を逸らすステファニーさん。


「うん、本当に2人とも綺麗だね。 うう・・・それに比べ俺は・・・~~」

と出された服の事を嘆く海渡。


せっかく着飾っているのに、涙を流し、腹を抱えるビューティ・ペア。


「しかし、多分・・・それ悪気は無いんとちゃうか?ww 多分・・・www」

とまだ笑ってらっしゃる。


「・・・はぁはぁ・・・お腹が・・・。 で、でも、今のその服って見た事ないデザインですね。何か凜々しくて素敵ですよ。」

とフェリンシア。


「ああ、これ? これは学生服とか学ランって言う服のデザインだね。」

と海渡が言って作らせた、シルクスパイダーの生地の濃い紺色の学ラン。

靴は黒のエナメルっぽい光沢のある靴にしている。(ちょっとだけ上げ底になっているのは、シークレットだwww)

まあ、靴を脱いでしまうと、長ズボンだけに、『殿中でござる!!殿中でござる!!』になってしまうのも秘密。

少年の可愛い背伸びと思って貰いたいw


執事長がやって来て、

「海渡様、皆様、そろそろ到着のお時間です。」

と知らせに来てくれた。




着陸態勢に入った飛行機を見ると、ワンスロットの紋章が入っていた。

屋上の飛行場で出迎え、握手をしながらご挨拶。


「ワンスロット王様、お久しぶりです。 お元気そうで何よりです。 長い旅、お疲れでしょう? 式典が始まるまで、暫し下の部屋でお寛ぎを!」

と海渡が言うと、


「おーおー! カイト王・・・ いや調子出ないのう。 カイト君、久しぶりww まあ知らぬ中では無いし、今まで通りで良いんじゃないかのぉww」

と一気に崩して来たw


「あー、そう言って頂けると助かります。 もう何が嫌って、こう言う堅っ苦しいのが嫌ってのもあって、当初から色々回避してたんですがね。

なかなか、執事長殿が厳しくて・・・ww」

と海渡が嘆くと、みんなが笑っていた。



エレベータで降りて、9階の風呂やゲストルームを案内し、リビングでコーヒーを出して談笑する。


「いやぁ~、噂には聞いておったんじゃが、これは凄いのぉ~。これを一晩で建てたのか!!」

と大絶賛の王様。


まあ、ベースとなる総合型宿舎があったからと言うのと、超ハイスペックな棟梁達が居ますからww」

と海渡が笑う。


「あそうそう、建国の際には、人員をお貸し頂き、ありがとうございました。お陰様で何とか3ヶ月で物になりました。」

とお礼を言うと、


「あー、それな、普通3ヶ月とかじゃ無くて、下手すると世代を跨ぐからな? お主の基準がズレてるだけじゃから。

そうじゃのう・・・もし仮に、うちがここの半分を統治するとなると、20年は軽く掛かっただろうし、こんなに栄えてもいないじゃろうて。」


「うむ・・・でも、最初は2ヶ月ぐらいを狙ってたんですよ? まあ途中で色々欲を出して一気にやっちゃったので、余分に1ヶ月掛かりましたけど。

その分、これから好き勝手やらせて貰う予定ですよw」

と予定を思い浮かべてクックックと笑う海渡。


「あ、そろそろコーデリア王が到着される様なので、また後ほど。 では時間までごゆっくりと。」

と言って、足早に3人は屋上へとんぼ返り。


コーデリアの機体が・・・~~(ry


コーデリア王を9階のゲストルームのリビングに案内し、今度は獣王のお出迎えに向かう。


「よぉ!カイ坊!! 久々じゃねぇーか! どうだ? プリシラとは宜しくやってっか?」

と飛行機を降りて早々に、親指を人差し指と中指の間から出して、いきなりシモネタで攻めて来る獣王www


「いやぁ~、相変わらず、お元気そうでwww そのノリ、安心しちゃいますw ああ、傭兵の件、本当にありがとうございました。お陰様で何とか今日の日を迎えられました。」

と華麗にスルーしてお礼を述べる海渡。


「いや、こっちこそ、カイ坊の商会が出来てからな、国内の景気が良くなってよぉ! 前年の2倍だよ2倍!! すげーよなww」

と喜んでいた。


「だからよぉ! いつれも俺の事、『お義父さん』と呼んで良いからな?」

と言いながら、バシバシ背中を叩いて来た。


「ちょっwww か弱い6歳の少年をバシバシ叩かないで下さいよww」

と笑う海渡。


すると、獣王の陰から、

「カイ兄たま、酷いです、フェスを全然お迎えに来てくれません・・・」

と更に成長したフェスちゃんキターー!


「あ、フェスちゃん、大きくなったね!!」

と驚く海渡。

それもそのはず・・・秘密で少し背伸びしている海渡の目線とほぼ変わらない・・・いや、少し見下ろされている!?


「そうなのです!フェスは頑張りました!!!」

とドヤと胸をはっている。 あら可愛いww


そこへ、プリシラもやってきて、久々の家族団らんとなった。

海渡らは、他の準備があるので、と退散し、リビングでグッタリ。


「だ、ダメだ・・・こう言うの本当に苦手。まだ獣王の対応の方が楽だわ。 早く冒険に出ぇーー!!」

と小さく叫ぶのだった。




式典の時間となり、宮殿内に設けられた特設ステージへと向かう海渡ら一行。

同じく、同席される3国の王族の皆さん、

特設席には、アルマーさん御一家や、サンドラさん、サチーさん、統轄マスターのヘンリオットさん、教会本部の司祭長のセイジさん、テリラスのジャックさん御一家等等、沢山の賓客が揃っている。


ファンファーレとオスカーさんによるアナウンスが流れ、式典が開催される。


まずは、海渡から・・・


「今日のこの日をみんなで迎えられた事を、本当に嬉しく思う。 今日のこの日は、女神様のお導きや、国民全員の努力や献身もあるが、ここにご招待した、ワンスロット王国、コーデリア王国、サルド共和国の王様や貴族の方々、兵士の方々、その国民、全てのお陰である。

本当に皆さん、ご助力ありがとうございました。そして、今日改めて、良き隣人であるこの3カ国と恒久的な同盟と平和条約を結びたいと思う。

さあ、みんな、今日は一日、タンカー・ホエールやサンド・ワームの肉でも食って、楽しんでくれーー!」

と締めた。


海渡らと弟子ズで大量に仕留めているサンド・ワームとタンカー・ホエールの肉は、この日に食べて貰うべく、各都市や集落レベルまで行き渡る様に、配布してある。

また、屋台や飲食店でも仕入れられるように、市場に安く出した。

結果、期間限定ではあるが、伝説のグルメ魔物やお伽噺に出て来る肉が食えると、国外からの客が殺到している訳である。

ふっふっふ・・・狙い通りだなw



「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「うぉーーーー

ーーーーー!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

と地面を揺るがす歓声。


「日本万歳! カイト様万歳!」

と徐々に声が上がり、


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「日本万歳!

カイト様万歳! 日本万歳! カイト様万歳!

」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

と万歳コールが巻き起こった。

来賓の3カ国の王様が短めのスピーチでお祝いを頂き、式典は終わりる。


空には、ジャンセンさん率いる、航空部門のパイロットによるアクロバット飛行が行われ、日本の国旗をスモークで空に描いて行く。

そして、空に花火が上がり、観客は大興奮。

そう、ジャンセンさん達が忙しい合間を縫って、この日の為にと訓練していたのである。



「いやぁ~、なかなか派手じゃのぉ!」

とワンスロット王。


頷くコーデリア王。


王様と側近達は、別室の会議室で、同盟と平和条約の調印を行う。


サラッと調印が終わり、歓談タイムとなった。


「いやぁ、本当に最初から手を退いて、カイト君に任せて大正解だったなw うちじゃあ、こうは出来ないよ。しかもこの短期間でww」

とコーデリア王。


はっはっは・・・と笑いながら同意するワンスロット王と獣王。


「まあ、タイミング良く、最初に膿を遠慮無く全部抹消したのが良かったんだと思います。あとは本当に人材の援助・・・これに尽きますね。

とにかく、これからも、争い無く、皆さん宜しくお願い致しますね!」

と海渡も笑顔。



ホールは立食パーティー会場になっており、招待客全員と色々と談笑をして廻る海渡ら3名。

オスカーさんやヨーコさんも彼方此方で挨拶をして廻っている。


ジャックさんの所では、アリスちゃんにとっ捕まって、散々文句を言われ、困る海渡。

ジャックさんは苦笑いしてるだけで、助けてくれなかった・・・。


「カイト君は、今日だけだけど、俺、毎日君の事で攻められてるからね?」

と渇いた笑いを滲ませるジャックさん。


援軍を求め、ビューティ・ペアの2人に目をやると、凄い勢いで上品に食べて食べまくっている・・・。


あー、着飾ってもそこは譲れないんだね?

と納得し、諦める海渡だった。

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