第285話


異世界3ヵ月と2日目。この世界の暦では12月22日。


今年も残すところ、あと僅か。

なんとしても、12月25日のユグドラシルの実の採取は忘れ無いようにしないとだな。


と言うか、日本の頃は、全ての予定やヤル事リストは、スマホやPCで登録したりして、クラウドで管理していたからなぁ。

早めにスマホやタブレットの代替えの様な魔道具を作らないと、メモ書きだと、書いた事を忘れちゃうんだよね。


・・・等と日の出前に目覚めて、ベッドの上に起き上がって考えていた。


訓練にはまだ早いので、地下工房へと降りて、自動車のパーツや組み立て具合を確認した。

既に、支店へ配布する73台とアルマーさんの分の10台は組み上がっており、残りの王宮に納める分を組み立て中だ。

パーツ残量は十分なので、あと数時間で王宮納品分も仕上がるだろう。


タブレットの件で思い出したついでに、大型の自立飛行型ガラスディスプレイを作成する事にした。


カメラ部分は、バックモニターや、デジカメで作った物を流用出来るので、大型のドローンに大型のガラスディスプレイを取り付け、魔動ネットワークで映像を垂れ流せば良い予定。


さて、ディスプレイサイズだが、70~100mの上空にあっても見えるサイズとなると、最低でも8m×5mぐらいで大丈夫かな?


試してみないと判らないので、取りあえず、作ってみた。

デジカメで撮った画像を、表示し、広い工房の端に置いて、逆サイドの端へとやってきた。


「うーん、これじゃあ、ちょっと小さいな。」


と言う事で、気持ち良く、2倍のサイズで16m×10mに変更してみた。

今度は十分にハッキリ見える。


さて、これを何機作るか?だが・・・50機×2戦線の合計100機にする事にした。

1機に付き、ディスプレイは2枚左右の側面に30°傾ける感じで取り付ける事にする。

よって、ガラスディスプレイは200枚が必要となる。


一つ不安なのは、強度的な問題で、一応光コーティングで強化はしているのだが、構造的な強化にはならないので、余り薄くは出来ない事。

が、しかし、今の俺には何て言っても、あのタンカー・ホエールの骨の粉がある。

これを少量混ぜてみれば強化されるんじゃね? と考えている訳だ。


と言う事で、早速手動で強化(タンカー・ホエールの骨粉入り)ガラスをさっきのと同じ厚みで作ってみた。

配合率はザックリ1%にしてみた。


まずは、表示テスト。

同じ映像を表示してみたが、遜色は無い。


そこで、智恵子さんに強度をお尋ねしてみると、


『通常ガラスも光コーティングしてるので、通常ガラスよりも強度が出ています。

しかし、骨粉入りの強化ガラスですが、魔力・・・つまり映像を表示している時には通常ガラスの100倍以上の強度が出ていますよ。』

との事。


よし、じゃあ、これで良いか。

さて、肝心のドローンだが、よくよく考えると、葉巻型の一般的な飛行船形状にすると、風の影響受けやすそうだよなぁ。

実際時空間魔法で重力制御すれば良い訳だし、気室のガスで浮力を得る必要は無いから、サーフィンボードみたいな薄べったい形状にするか?


取りあえず、横幅12m、長さ24mの巨大なサーフィンボード形状のモックアップを作成する。

厚みは流用も考え、一番分厚い部分で3mに設定し、底の部分はフラットにして、逆観音開きの開閉式にした。


あと、フロント1つ、リヤに2つのランディングギアを搭載する事にする。

一応、基本は自立飛行や遠隔操作だが、簡素なコクピットを前方に作る事にして、ガラスを填めるスペースを作成する。

更に両サイドと後部にハッチ用の切り込みを入れた。内部は下部50cmの空間にガラスディスプレイを格納する2階建てにし、フラットな床にする。

羽だが、今回は根元から動く後退翼で1.5mの物を前後左右に4つ付けて、魔動ジェットエンジン用は羽と一体型にした。

垂直尾翼も同様に根元から動く後退翼で1.5mの物を取り付ける事とする。

現在はモックアップなので、各翼は別体パーツとして作成している。


「うむ・・・一応形にはなったな。どちらかというと、飛行船というより、エイの変形バージョン? いや、ヒラメかww」



丁度良い時間になったので、部屋に寄って、フェリンシアと合流して屋上へ訓練しに行く。

すると、一足先に素振りをやっているラルク少年が居た。


「あ!兄貴、フェリンシア姐さん、おはようございます!」


「お!おはよう。朝から精が出るなw」


「おはようございます。海渡から凄い才能を秘めてるって聞いてますよ?」

とフェリンシアもご挨拶。


せっかくだから、海渡とフェリンシアで順番にラルク少年の稽古を付ける事にする。


『おい、フェリンシア! 判っているとは思うけど、十分に手加減して、怪我はさせないように頼むね!!』

と伝心で一応念を押しておく海渡。


『ふふふ、それくらい、判ってますよw 海渡は本当に面倒見が良いですねw』

とフェリンシアが伝心で笑っていた。


フェリンシアは2本の木刀を出して、ラルク少年と対峙する。


「お! 姐さんは二刀流ですか!!」

と驚くラルク少年。


「ふふふ、手数で押していく感じが性に合ってましてw」

とフェリンシア。


『はじめ』の号令と共に、まずはフェリンシアがスローペースで連撃を仕掛ける。

防戦一方のラルク少年に対して、容赦の無い(実際は目に追えるスピードとなる様、相当に容赦してるのだが)舞うような斬撃を繰り出している。


ラルク少年は、海渡のアドバイス通り、身体強化と、身体加速を全開で使っているようだ。

昨日より、目に見えて動きが良い。


「ほう!昨日より、動きが良いな!」

と海渡が褒めるが、30連撃を耐えた所で、木刀が手から弾かれ、フェリンシアの木刀が顎の下で止まっていた。


「うう、参りました。」

と手を擦りながら、ラルク少年が負けを宣言する。


怪我は無いようだが、手が痺れている様子。


「どうだい?二刀流の手数は凄いだろ?」

と海渡が言うと、


「はい、次から次へと斬撃が来るので、反撃に出るタイミングがありませんでした。」

とラルク少年。


「そうだな、二刀流相手に相手のペースに巻き込まれると、自分が2倍速くないとダメだから、同じ速度の場合は、相手のペースを崩さないとダメだ。

攻撃の手数が多い二刀流だが、片手で1本の刀を持つから、一撃一撃の力は両手で持つ一刀流より弱い。だから、一撃に必殺の殺気を込めて、相手のリズムを壊し、体勢を崩してやれば良い。

それぞれ、自分のスタイルに合った自分のペースに相手を巻き込む事を考えて戦う事が重要だ。」

とアドバイスを出す海渡。


そこで、ふと骨粉を思い出し、飲ませて見る事にした。

ハチミツ水に小さじ1/4を混ぜ、コップを渡し、飲ませると・・・


「うぉーーー! 力と魔力が漲っている感じがします!」

と興奮する海渡。


そこで、海渡は聖魔法を習得させようと、

「良いか全身に魔力を回して、体を癒やすイメージを魔力に乗せてごらん。ほら、ラピスの湯に浸かってる時の感じ。」

更に、

「人間の体って、目で見えないぐらい小さい細胞と言う物が集まって出来ているんだよ。疲れると細胞の中に疲れた時に堪る成分があって、それを取り除くと疲れが取れるんだよ。そして新鮮な空気を体中に行き渡らせるイメージを持つ事で疲れも、肩で息をするような状況も取れる筈だ。」

とザックリとした説明をする。


10分ぐらい唸りながら、やっていると、

「あ!」

と小さく叫んだラルク少年の体が、薄く光った。


「兄貴! 聖魔法の適正が増えました!!!!」

とラルク少年。


「おお!取れたか!! おめでとう! それなら、そのうちにヒールも使える様になるぞ! よし、訓練再開だ!」

と言って、フェリンシアと再戦開始。


さっきに比べ、更に動きの良くなるラルク少年。

段々と、普通の人では目で追えないスピード領域に入っている。

最大級の手加減をしているとは言え、フェリンシアの連撃のリズムを壊し始める。


良い感じになってるなw


「もっと早く動け!もっともっと!!」

と海渡が発破を掛ける。


「おお! スキルLvが上がりました!!」

と言いながら、更に加速するラルク少年。


「ううう・・・そろそろ私もスキル使わないと拙いかも・・・」

とラルク少年に押され気味のフェリンシアが漏らしている。


「一撃一撃に力を込めろ!そして素早く!!」

と檄を飛ばす海渡。


「カン!」

と小気味良い音と共に、フェリンシアの連撃が跳ね返され、フェリンシアが大きくバックステップで間合いを取った。


「ふぅ~、なかなか今の一撃は強烈でしたよ!」

とフェリンシア。


「よし、じゃあ、ソロソロ交代で、次は俺とラルクだなw」

と海渡も木刀を取り出す。

フェリンシアは、木刀を仕舞い、ラピスの泉の水を飲んで休憩。


「いくぞ!」

と号令をかけ、海渡が一気に縮地で踏み込み、ラルク少年の懐へと入る。


「え?」

と叫んで、瞬時に大きくバックステップするラルク少年。


「ふふふ、驚いたか? 今のは縮地と言う技だ。」

と縮地のやり方を教える海渡。


しかし、追撃の手は緩めない。


一撃一撃を昨日の1.5倍くらいの力で打ち込んでいる。

「カカカン」と木刀同士がぶつかる連続音が重なって聞こえている。


「よし、もっとペースを上げるぞ!」

と更にスピードを上げる海渡。(勿論、身体加速スキルは使ってない)


時折、縮地を織り交ぜ、ペースを乱す事も忘れ無い。

「うう・・・やりずらいですーー」

とうめき声を上げるラルク少年。


しかし、先ほどからチョイチョイ、何か縮地をやろうとしてるのが、見え隠れしてるんだよねww


「魔物相手の場合は今のままでも良いが、相手が知能のある魔物や人の場合、馬鹿正直に打ち合うのではなく、フェイントを入れたり、速度の緩急を付けたりして、不意を突いたりしないとダメだぞ!」

と速度を上げながらフェイントを入れて一撃を入れる海渡。


寸止めで、海渡の勝ち。


「なかなか良くなったな。身体加速もかなり上がったようだが、今度は、頭の回転・・・考える速度も上げるイメージも付けて魔力を回してごらん。」

と言うと、


「そうなんですよ、スピード上がると、なかなか思考が追いつかない感じで。」

とラルク少年。


ラピスの泉の水を飲んで一休みして、海渡と再戦。


いきなり、最後のペースで開始する海渡。

サイドステップで躱しつつ、胴を狙って来るラルク少年。

海渡はヒラリと躱して、斬り込む。

また、先ほどと同じような木刀同士の連続音が鳴り響くが、海渡がチョイチョイフェイントやリズムをずらしたりしている。


「お!今のフェイントは中々良かったぞ?」

と微笑みながら、打ち込む。


その時、ここで初めてラルク少年の縮地が成功し、海渡の懐に入って来る!


「お!縮地を物にしたかww やっぱ凄いな、お前w」

と海渡が喜ぶ。


中身の濃い5分の中で、更にラルク少年のペースと一撃の重さが変わった。


お、更にギア(Lv)を上げたな?

しかも、クロックアップスキルが生えたのか? スピードに加え、様々なフェイントを駆使しだす。

「おお! 良いぞ良いぞ!!w」

と海渡が叫ぶ。


海渡も更にスピードアップして、横に回り込んで首筋に木刀を止めた。


「うう・・・参りました。」

とラルク少年。


「いやぁ~、昨日今日の2日だけで、かなり進歩したなぁ。凄いぞ! 最後の方、クロックアップって言うスキル生えたろ?」

と聞くと、


「へへへ、流石兄貴っす! 何でもお見通しっすねw」

と笑うラルク少年。


「よし、今日はここまでだな。」

と3人で風呂に向かうのであった。

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