第265話

異世界2ヵ月と27日目。


いつものように、日の出前に目覚めた海渡は、地下工房に降りて、1日経過したドローンからの地形データの収集具合を確認する。

トリスターや王都から放出したドローン達は、ワンスロット王国の国土90%ぐらいのエリアをデータ収集完了していていた。


コーデリア王国の王都から飛ばしたドローン達は、扇状に広がりつつ、王都の先1500kmぐらいまでを完全に収集完了。


サルド共和国側は、同じく放出地点から東へ扇状に1500kmを収集し、幾つかの集落?や街を発見していた。

街道と呼べる物も幾つかあり、そのデータも入っている。


さて、問題のゲルハルト帝国であるが、絶界の森の最東端から同じく1500kmぐらいまでを完了していた。

幾つかの都市と、一際桁違いにデカい都市(帝都?)があった。

「ふむ・・・これがおそらく帝都だよな? なるほど、ワンスロット王国の王都の3倍ぐらいありそうだな。」


ドローンの製造ラインから更に5000機のドローンを取り出して、ゲルハルト帝国の各都市の観測モードに切り替えて、3000機を飛ばした。

残り2000機はゲルハルト帝国とワンスロット王国とコーデリア王国の国境へと1000機づつ観測モードで飛ばした。


「よし!これで準備の漏れは無いよな?」

とニヤリと笑顔を浮かべつつ自問自答する海渡。




ちなみに、先日飛ばした地形データの収集用ドローンには、都市を見つけた場合、適当な位置で、魔動波ビーコンを投下するようにプログラムされている。

つまり、カチコミの場合、その魔動波ビーコンの下へとゲートで繋げれば、好きなだけ奇襲する事も可能と言う用意周到ブリであるw

これらの周到ブリは、海渡が小学生の頃から通っていた道場に起因する。

元々剣道をやる為だったのだが、行った道場が剣道ではなく、実戦の剣術、忍び、サバイバル、必要武器の製造、戦術までを叩き込む実戦流派であったからだ。

『殺(や)るからには生殺しではなく、二度と反撃を考える事の無いように徹底的に!』と言う事を仕込まれた結果である。

まあ、常識で考えるなら、「小学生に何仕込んでくれてんねん!!」って話なのだがw




進行状況に満足した海渡は、部屋へと戻り、目覚めたフェリンシアと共に屋上で朝の鍛錬を行う。


横で見ていたレイアは、その激しい攻防に驚き、

「いやぁ~、あっしは本当に親分らと戦わなくて正解だったっす。あの時の自分、GJっす!!」

としきりと呟いていた。



鍛錬後の朝風呂を堪能し、ステファニーさんを起こして、大食堂へと向かった。


今日の朝食はコーデリア組に配慮してか、洋食系と和定食の選択式となっていた。

3人は迷わず焼き魚に大根おろし付きの和定食を選択した。


コーデリア組も順調に研修をやっているらしい。

部位欠損のあった元冒険者達も、全く問題無く動けると喜びながら朝食を食べていた。


食後のコーヒーを飲み終わると、海渡とフェリンシアは冒険者ギルドへと向かったのだった。




早朝の街を歩いていると、方々の屋台から声が掛かる。

どうやら、ワイバーンの一件が広まっているらしく、皆口々にお礼を述べて、いつも以上にオマケを付けてくれる。


海渡としては、美味しい素材であるワイバーンを倒し、食材と素材ゲットだぜーー!って乗りだったので、多めのオマケに申し訳ない機分だったのだが、フェリンシアはホクホク喜んで食べていたw

多めにお金を渡そうとしたのだが、皆頑なに受け取って貰えなかった・・・。

なので、お礼を言って、ありがたく受け取る事にしたのであった。



ギルドに到着すると、入り口付近まで大混雑。


「この時間帯って殆ど来ないから知らなかったけど、こんなに混雑してるんだねぇ~」

と他人事の海渡であったが、実はこの混雑の原因が、海渡の出した依頼に起因していたらしく、壮絶な取り合いとなっていたらしい。


受付嬢のアニーさんがプヨプヨと浮かんで居るレイアを見つけ、海渡達の下へと人混みをかき分けてやって来た。

「おはようございます。カイトさん、フェリンシアさん。混雑していてすみませんね。」

と苦笑いしている。


「おはようございます。この時間帯ってこんなに凄いんですね!? ビックリしましたw」

と海渡が言うと、


「いえ、普段はこんなに混雑はしないのですが、その・・・カイトさんの依頼にこれだけ群がってまして・・・。

トリスター支部始まって以来の争奪戦になってしまってます。」

と情報が。


「マジですか・・・、うーーん、じゃあ追加で解体依頼出しましょうか? 多少報酬は落としますけど。」

と打診すると、


「本当ですか! それだと本当に助かります!!」



と言う事で、急遽解体依頼を追加することにした。

先に決まっているワイバーンをギルド裏の訓練場に一定間隔で出して行き、その他の魔物(オーク、ミノタウロス、カモフラージュ・カウ、昆虫系・・・)を500匹程分類して取り出した。

更に色々な魔物が入る大きさの入り口を持つ所有者フリーのマジックバッグに、5000匹程入れて、アニーさんに渡し、

「これを全部の解体を何日かにで構わないので、解体依頼お願いします。あと空のマジックバッグも渡して置くので、そちらに解体の終わった物を入れていって貰えますか?」

とお願いし、報酬は、相場より高めで設定して貰った。


すると、フェリンシアが

「あーーー!海渡だけズルイです!! 私のも混ぜて下さいよーー!!!」

と更に5000匹程マジックバッグに追加してしまうw


合計1万匹・・・未曾有の解体依頼にアニーさんだけでなく、ギルド職員全員が大わらわ、冒険者達は大喜び。

この1万匹の内、海渡らが使わない素材の半分は取りあえず、ギルドの買い取りに回して貰う事にした。




この海渡の出した依頼により、トリスターの冒険者の間で後々語り草になる『解体バブル』が1ヶ月以上続く事となり、冒険者の年末年始の高額安定収入となった。

中には、他の街から聞きつけてやって来る冒険者まで出たらしい。


ギルドに買い取って貰った大量の素材を求めて、トリスターには大量の商人が集結し、更にバブルを盛り上げた。


後にアルマーさんから、

「カイト君~! また定期的にアレ頼むよぉー!!」

とお願いされたのだった。(税収が凄かったらしいwwww)


また、時間経過しない海渡のマジックバッグが運用面で評価され、ギルドマスターのハロルドさんのお願いで、今回貸し出しした大型のマジックバッグを売る事になったのだった。

トリスター支部から王国の全支部へ報告が広まり、更にコーデリア王国の本部と全支部、後にサルド共和国のの全支部が、このマジックバッグを使用する事になり、それだけで大変な収益を上げる事となったのだった。




ギルドを後にした、2人と1匹は教会へ寄り、女神様へご挨拶をして、現状の報告を行い、孤児院にお土産の差し入れと寄付を行った。

初めて食べる『きな粉餅』に大喜びの孤児達を見てホッコリとしたりした。


その後、ドミニクさん&ドリンガの武具屋に寄ってお土産のお酒を渡し、コーデリア王国のドラクさん(冒険者向け服屋のドワーフのおっちゃん)の話等で盛り上がった。

尚、ドリンガさんには、お酒以外に、お米やコーデリア王国の食品を渡したら、泣いて喜ばれた。


ああ、やっぱりドワーフもそうなのね・・・と納得した海渡だった。

今度から、定期的に補充してあげよう。




そしてやっと屋敷に戻った海渡は、自動餅つき器を作る為に地下工房へとやって来た。

フェリンシアとレイアは、託児ルームに行って子供らと遊ぶと別行動になった。



地下工房に降りると、

「おかえり~♪」

とステファニーさんが笑顔で出迎えてくれた。


「ただいまですw 今から自動餅つき器を作ろうと思ってます。」

と言うと、興味津々で、横で見て良いかとお願いされた。


うーーん、目で追える速度でやると、時間かかるけど、まぁ良いか・・・


と言う事で早速試作に入る事とする。


まずは筐体となるケースをステンレスで作成し・・・


「ああーー!ちょっと待ってーー! カイト君、どうやってそのケース作ったん?」

と初っぱなから質問が入る。


そこで、ステンレスインゴットから光魔法のシールド使った型へ圧縮して熱したステンレスを流し込む方法を分かり易く説明する。

これに造形スキルが生える事までを説明。


ステファニーさんも火魔法と光魔法を使えるらしいので、造形スキルを取得出来るように、レクチャーする。

元々エルフは魔法に長けた種族らしく、精霊魔法とは別で、多くの人が色んな属性の魔法が使えるらしい。

人族だとそこまでの適正が無い事が多いらしく、2種類の属性を持っていれば御の字と言うのが一般的な話だとか。




光魔法のシールドで簡単な雌型と雄型を作り、そこへ充填するように熔解した金属(今回はステンレス)を注入し、圧力を掛けさせる。


「ねえ、何で圧力?を掛けるん?」

と汗を掻きながら、操作しているステファニーさんが疑問を投げかける。


「簡単に言えば、その方が強度が出るからですよ。」

と説明を始める。


「金属って水と違って固まってますよね? でも温度を上げると水みたいに流れる柔らかい物になる。水は冷やすと氷になって堅くなる。

つまり温度によって状態は変わる訳です。水も金属も拡大して見ていくと、分子と呼ばれる目に見えない塊と言うか粒になるんですが、

これは一定の距離をお互いに保つ感じで固まっています。圧力を掛けると、その距離が縮まるので、例えば、10個の分子が入っていた所に20個の分子が入ったりします。

そうすると、密度・・・同じスペースで2倍の分子が入る事になるので、その分強度が上がるのですよ。」

と説明しながら、大豆を容器にいれてる。


「今この大豆を分子として考えると、凄く隙間が空いてますよね? これを圧縮すると・・・ほら、ミッチリと隙間がなくなり、サイズ自体は小さくなりましたよね?

これと同じ様な事を金属でやってる訳ですよ。鍛冶屋さんで金属を叩いたりしてますよね? まああれは他にも意味があるんですが、金属を叩いて圧力を掛けて、強度を出している訳ですよ。」

と言うと、


「ほぇー! 驚いたわぁ!! そないな事、考えた事も無かったわぁ。」

と驚いていた。


そして、同じ工程を何度も繰り返しやらせていると、

「あ!造形スキルと鍛冶スキルが生えたわww ついでに錬金スキルと光魔法のレベルも上がった♪」

と喜んでいた。



海渡は、そんなステファニーさんを見つつ、本来の目的である餅つき器の作成を進める事にする。

まずは、餅米スロットから、餅米を計量して水に浸すパーツを作成する。

光シールドで作った蒸気を通すザルの上にその餅米を均一に乗せるパーツを作成する。

圧力を保ちながら蒸気で蒸すパーツを作成する。

光シールドで作った臼でおこわを突くパーツを作成する。

出来上がった餅に片栗粉を吹きかけるパーツを作成する。

魔動CPUを各パーツに接続し、水晶記憶体に処理プロセスのプログラムを書き込む。


「うん、試作品出来たな。」

と呟き、磨いだ餅米と水と片栗粉をそれぞれのスロットに投入する。


「なるほど、そないな感じで魔動CPUを使うんねんなぁ。なんとなく理解したわ。」

と感心するステファニーさん。


「面白いでしょ? じゃあ、テスト起動してみますねw」

と海渡が試作品を起動する。




30分後・・・「チーン」と言う音が鳴る。


「つき上がったみたいですね。」

とアイテムボックスから取り出したテーブルの上に片栗粉を撒いて、自動餅つき器の蓋を開けて餅を取り出して置いた。

せっかくなので、2人で小さい小餅に丸めておいた。


「さてと、気分を切り替えて、時短の機能を追加して再度テストかな。」

と早速自動餅つき器の改良に取りかかる。

といってもいつものように、1時間を1分に短縮するので、手慣れたモードを追加するだけ。


改良後、再度時短モードでテストを行うと、30秒で「チーン」と鳴り、ホカホカの餅がつき上がった。


「凄いなぁ~、時短モード♪ これ、時空間魔法でやってるん? いやぁ~時間短縮するって発想は無かったわぁ。」

とステファニーさん。


「時空間魔法は結構色んな魔道具に使えるんですよね。魔道具だけでなく、建築なんかにも使えるし、かなり便利ですよ。」

と色々説明すると、


「ほな、うちも時空間魔法を利用しよか・・・。」

と考え込んでいた。

多才なステファニーさんは、時空間魔法の適正も持っていらっしゃるそうで。


なので、流れで、『ゲート』を教えたら、何回かトライする内に、使えるようになった。


「ひゃっほーーー!! うち、魔法の天才やんかww まさか、こないにすぐ使えるとは思わへんかったでw」

と大喜びして変な踊りを披露していた。

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