第183話


迎えが来るまでの間、ここでの開店の話をしていると、宿舎のドアがノックの音が聞こえた。

どうやら、お迎えの人が来たらしい。


3人で表に出ると、兵士2名と執事の格好をした人が、頭を下げていた。

迎えに来た人は、突然アレスター商会の店舗が無くなり、新しい店やカフェが出来ていて、驚いていたようだった。


馬車の中で、領主館までの道のりで、

「ヨーコさん、さっきの砂糖の7トンだけど、隠し金庫からのお金で充填するから、経理上はそれでも問題ないよね?」

と聞くと、


「ええ、問題ないです。」

との事。


「どうせ、この町で搾り取っただろうお金だし、ここで還元しておかないとね。」


「ああ、そういう意味だと、塩も・・・還元しとくか?」


「あまり、やり過ぎると、向うの顔を潰す事になるので、塩は良いんじゃないでしょうかね」

とヨーコさん。


「なるほど、そういう事もあるか。了解。じゃあ砂糖だけって事で。」

と納得する海渡。



「うーーん・・・じゃあ、ヨーコさん、ここの特産物とかって、知ってる?」

と聞くと、


「ここは、小麦や野菜類ですかね。あと、ミルクとかもありますね。水が豊かなので、主に農業、畜産業が主体です。」


「トリスターは? 農業とかってどうしてるんだろ?」


「畜産業はありますけど、農業は殆ど貿易に依存してます。小麦とはほぼ100%貿易です。あそこは小麦とかには不向きなので。」


「じゃあ、ここの小麦や野菜を買って、トリスターで売るってのはどうなの?

ここにもメリットあるし、トリスターにもメリットあるんじゃない?

あとは、小麦から小麦粉を作る際の脱穀や精製を、うちの魔道具で行えば、真っ白な小麦粉に出来ると思うんだよね。

全てを上質な小麦粉で輸出すれば、ここにもメリットあるんじゃないかな?

同じ値段で、上質な小麦粉が手に入るなら、ここの小麦粉を欲しがらない?」

と聞いてみると、


「ふむ・・・それは一考の余地ありですね。

しかし、随分、テリラス領に肩入れしますねww 気持ちは良く判りますけどw」


「だって、アルマーさんは別としても、ドラーツ公爵とか見ちゃった後だからね。領民の為に頭を下げ、領民の事を優先して、一番重篤な自分の娘を後回しにして、自腹で塩を配ろうとするような貴族様だよ?

そりゃあ、肩入れもしたくなるのが人情だよねwww」


「激しく同意しますw なかなか珍しい領主様ですよ。」

とヨーコさん。


「しかし、水が豊富なら、米も作れば良いのになぁ・・・」

と言うと、


「ああ、お米美味しいですよね。あれは水が豊富じゃないとダメなんですかね?」

とヨーコさん。


「うん、稲作って言う言い方をするけど、水田といって、畑ではなく、水を張った畑で栽培するんだよ。(多分・・・この世界でも?)だから水が豊富じゃないと難しいんだよね。

美味しい水の出る土地では、美味しいお米が採れると言う話もある。前に聞いた話では、水加減が結構大変で、それによっても味が全然変わるんだって。」

と殆ど元の世界で見聞きした話をする海渡であった。


「なるほど。コーデリア王国の名産?ですよね、お米。

彼方から経験者とか指導に呼べれば、可能性あるかも。」

とヨーコさんが考える。


「ふむ、その手もあるのか。

今度サチーさんに聞いてみようかな。

コーデリア王国もお米作っては居るけど、余っている風ではないからね。

お米って寒さに弱いイメージあるから、北の方だと難しいんじゃないかな。

あと、暖かい土地なら、コーヒーとかできればなぁ・・・ 滅茶滅茶爆発しそうなんだけどね。」

とテリラス領の発展の可能性を探る海渡とヨーコさんであった。


そんな会話の中、馬車は領主館へと到着する。


馬車の扉が外から開かれて、馬車から降りた。

すると、ビックリする事に、騎士団やメイド、執事が通路の脇に並び、深々と頭を下げている。

ちょっと慣れない状況に、固まる海渡・・・。


「・・・・こ、これは??」


すると、奥から、ジャックさん、奥様、息子さん、娘さんが、玄関まで出て来て迎えられた。


「あまりの待遇に、ちょっと驚いてしまいました。今日はお招きいただき、ありがとうございます。」

と3人で頭を下げる。


「いやいや、君らはテリラスの恩人だからな。しかも私の家族の恩人でもある。これでも感謝を表し切れないぐらいだよ。」

とジャックさん。


海渡は恐縮しつつも、

「もう、みなさんの体の方は大丈夫ですか? 一応回復したとは言え、暫く寝込まれた後は、徐々に体を慣らさないとダメなので、ご無理はなさらないで下さいね。」

と心配で釘を刺す。



「初めまして・・・ではないですが、自己紹介させて頂きます。

ジャックの妻のエリザと申します。

この度は、息子と娘を救って頂き、本当に感謝しております。」

と深々と頭を下げるエリザさん。


「初めまして。長男のクリスです。領民、家臣、家族を助けて頂き、ありがとうございました。」

とクリス少年(今の体だと、年上なんだけどね)。


「は、はじめまちて、アリスです。

4歳です。病気をなおしてくれて、ありがとうございまちた。」

と舌っ足らずな可愛いアリスちゃん。

(1歳年下だが背の高さは同じくらいなのかw)


「あ、申し遅れました。

先ほどは緊急性もあり、自己紹介がおくれまして、申し訳ありません。

カイトともうします。

こちらは冒険者のパートナーでフェリンシア、こちらは当方の『さえじま商会』のNo.2にして秘書長のヨーコと申します。宜しくお願い致します。」

と3人で頭を下げる。


「まあ、こんな所ではなんだから、支度が終わるまで、応接室へ」

とジャックさんの先導で屋敷の中へと入るのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る