第68話

 次は商業ギルドである。


 馬車に乗り、商業ギルドについての情報を聞く。

 ここの商業ギルド自体は特に問題ないのだが、1つあるとすると、今王都から、件の塩を牛耳っている商会のトップが来ているらしい。

 まあ、何かと鬱陶しい奴なので、出来れば今日は見られない内に済ませたいと言うぐらいの話だった。


 商業ギルドに到着し、アルマーさんがギルドマスターと約束があると、受付嬢に告げる。

 お待ちしておりました。とギルドマスターの部屋へ通される。

「私は、ダリルと申します。当支部のギルドマスターをしております。領主様とは2度目ですね。こちらの方は初めましてですね。」

と温和そうなオジサンが挨拶する。


「久しぶりだな、ダリル殿、今日はこちらのカイト君の登録にやってきた。宜しく頼む。」


「初めまして。ご紹介に預かりました、カイトです。本日は宜しくお願い致します。」

と頭を下げる。


「ほう、まだ幼いのに、中身は随分と、しっかりされてますね。では、こちらの申請用紙にご記入をお願いします。」

と用紙を出された。


 新規商業ギルド会員申請書

 屋号:さえじま商会

 代表者:カイト

 年齢:5歳

 出身:

 商会本拠地:トリスター

 開始時預り金:

 その他:


「すみません、この預り金と言うのはなんでしょうか?」

と聞くと、

 謂わば商売時の資本金と保証金を合わせたような物で、預けた金額の100倍までの取引が可能らしい。

 もし、年間の取引で預り金の100倍を超えるような場合、次年度の申請時に超えた分を補正申請すれば大丈夫らしい。

 また、初年度はこの預り金がスタートランクを決める物となり、次年度以降は売上もランクに関係するらしい。

 また、ランクによって、ギルドに払う年間純利益に掛けるロイヤリティが割引されるらしい。


 ランク   年間ロイヤリティ  預り金

 Dランク・・・純利益の8%    金貨5枚~

 Cランク・・・純利益の7%    金貨50枚~

 Bランク・・・純利益の6%    白金貨1枚~

 Aランク・・・純利益の5%    白金貨5枚~

 Sランク・・・純利益の4%    白金貨10枚~


 また、大口の取引には、ギルドカードによる振り込みや受取が可能。金額は何時でも最寄りのギルドで引き出せる。


「と言う事で、預り金は幾らにされますか?」

とギリオードさんに言われ、


「では、これぐらいでどうでしょうか?」

と、白金貨10枚を出してみた。


 ギリオードは、まさか海渡自身がそのお金を出すとは思っていなかった。出すにしても金貨5枚が良い所だろうと思っていた。

 ところが、海渡自身が懐から取り出したのは、金貨ではなく、白金貨10枚 日本円で換算すると、10億円である。


「失礼ですが、何処か名のある商会の御子息か、貴族のご令息でしょうか?」

と海渡とアルマーを交互に見て聞くギリオード。


「いえ、ただの平民です。単純に冒険者やってまして、素材を売ったお金が予想以上に入りまして。その一部ですよ。」

と答えておいた。まあ、これだけが全てではないが、嘘でもない。


「なるほど」と言いつつも、納得できない感じで返事が戻ってきた。


「あと、本日、当商会のトレードマークの申請もお願いしたいのですが。」

と言うと、マーク申請の用紙を出してくれた。


 そこへ、先日考案したトレードマークを拡大して複写した。(魔法で)


 ちょっとビックリされつつも、申請も無事終わった。

 マーク申請代金の支払いも終わり、一通りの説明を受け、商業ギルドを後にした。


 何事も無くホッとしてギルドを出て馬車に乗り込んだ。


 馬車が出発し、入れ違いに別の馬車がギルドの前に止まった。

 馬車から降りた人物・・・これが正に先ほど話題に出ていた、「鬱陶しい奴」ことアレスター商会のトップのデニッチ。

 デップリとしたお腹に脂ぎった顔。頭は禿げあがり、歩く姿はガマガエル。綺麗な女性にとっては歩く災難。

 欲しいと思うと執念深く、あの手この手でで絡め取られてしまう。

 取引先の商会や店は、彼と打ち合わせする際は、女性を隠してしまう程である。

 そう言う奴なので、妻や愛人は30人を超える。


 そんな奴に合わずにスルー出来た訳だ。

 幸運な事に、絶妙なタイミングで難を逃れた海渡達だった。


「さて、次はカイト君に渡す商業街の土地と建物だな。なーに、すぐに着くよ。 ほら着いた♪」


「近いですね!ww」

と海渡も爆笑する。


「ギルドってのは、大体が町が出来る時に計画的に、都合の良い場所に置かれている。商業ギルドが商業に向かない所にあったら、不便だからね。

 つまり、商業の中心に商業ギルドはある。魔道具ギルドは魔道具屋が多い場所かつ、商業ギルドから遠くない場所。冒険者ギルドは門から近く、武器屋や魔道具屋、宿から遠くない所にある。

 で、この場所だが、丁度、商業ギルドと魔道具ギルドの中間位、冒険者ギルドからもそれ程遠くない距離にある。絶好の場所なんだよ。さあ、降りて降りて!」

とアルマーさんが説明しながら、海渡を急かす。


 海渡とフェリンシアは馬車から降り、その敷地と奥にある建物を見た。商業地区と言う事で、目の前の通りには、ズラっと商店や食堂等が並んでいるのだが、何故かここ50mぐらいは、塀に覆われている。


 普通なら、店の2~3軒はあっても不思議は無いスペースである。塀の真ん中に門があり、中に15m程進むと、更に横幅が80mぐらいに広くなり、立派な屋敷と庭があった。

 つまり、この敷地は、凸型の形をしていて、上の出っ張り部分がメインの通りに面している約幅65mで、その出っ張りの奥行きが25m、下のデカイ部分は横90m 奥行65m と言うサイズ。


「ここ、場所は良いんだけど、変な形だからね。安く売るのも癪だし、かと言って変な奴には売りたくないし・・・。と言う事で、こんな物でよければ、是非ともカイト君に有効活用して欲しいんだよ。

 実はね、ここなんだけど、あの例の鬱陶しい奴が目をつけててね、再三譲れと言われてて、断っても断ってもしつこくてね。早く他の人へと渡したかったんだが、信頼出来て、尚且つ有効活用出来る人じゃないと意味無いから、悩みの種だった場所なんだよね。 と言う訳さ。」

とアルマーさん。


 なるほど、例の鬱陶しい奴も狙ってた場所かwwww

「なるほど、そう言う面白い場所なんですね! いやぁ~楽しいな! それは是非とも宜しくお願い致しますww でも、本当にタダで貰っちゃって良いでしょうか? 資金的には十分あるので、多分適正価格をお支払い出来ますが・・・」

と、心配すると、


 顔の前で手をヒラヒラと横に振り、

「いやいや、本当はここだけじゃあ、お礼にも足りないぐらいなんだから、気にしないでくれ。」

と笑っていた。


「じゃあ、ここをお言葉に甘え、頂きます。上手く有効活用させて頂きますね。」とお礼を言った。


「でも、ここを有効活用するにも、商会を運営するにも、5歳の私だけでは、無理ですね。誰か優秀な表の顔・・・番頭さん?や秘書のお姉さんとか、信頼出来る人を雇わないとなぁ・・・」

と呟くと、


「うむ・・・有用で信頼のおける人材だか・・・何人かは心当たりがある。本人次第ではあるが、紹介出来るかも知れない。」

とアルマーさんが、思いを巡らせながら言った。


「ちなみに、質問なんですが、この国における子供の教育と言うのは、どうなってますか? 小学校とかはあるのでしょうか?」

と海渡が聞いた。


 ---つまり、初等教育で算数や国語等の基礎教育がないと、なかなか人材確保するのは厳しいだろうと思った訳だ。---


「小学校? 学校は裕福な商人の子供か、貴族の子供しか通わない(通えない)。まあ通える様な家の子供の大体が既に学校に行く前に、家庭教師等で読み書きや、簡単な計算は出来るようになっているがな。あとは、教会でやっている孤児院の子供には、シスター達が時間を見て教えたりしているがな。」


「なるほど、つまり義務教育の様な初等教育制度は無いと言う事ですか・・・。 だとすると、この国の文盲率はかなり高いという事ですね・・・。 子供は将来の領地や国の宝ですから、義務教育で2年でも教えるだけで、かなり優秀な大人が増えるんじゃないですかね?」


 大学院まで行き、勉学の土台となる基礎教育の重要さを知る海渡ならではの実感だった。

 ふむ・・・孤児院か。


「孤児院は何歳まで居れるんでしょうか?」

と海渡が聞くと、


「本来なら成人となる15歳まで と言いたいところだが、孤児がかなり増えてしまって、定員一杯で、12歳ぐらいで出て行く感じになっている。」

と心苦しそうにアルマーさんが答えた。


「孤児院を出た子は、どうするんでしょうか?」

と海渡が聞くと、


「運の良い一部は商店や商会に、他は冒険者になるのが多い。後は・・・流れ流れてスラムの住人になり、悪事へと染まっていく事が多いようだ。対策は色々考えているんだが、決定的な結果に結びついていないんだよ。」と。


 更に、

「特に女の子は、騙されたり攫われたりして、悪人どもの餌食になる事が多い。本当に悲惨で何とか防止したいと考えているのだが、今は2週間程前の『青い炎の柱』事件で、北の城壁の警備とかに人員を割かれてていて、領内の警備が手薄になっているんだよ。

 更に領内の村や町の女子供を優先で、避難誘導させているから、一時的ではあるが、これから仮設の住居や食料の確保で、余計に大変なんだよ」と・・・。


 あっちゃー、それってほぼ、俺のせいじゃなか・・・ うーんどうしよう・・・ と背中に嫌な汗をかく海渡であった。


「なるほど、大体の状況を理解しました。ありがとうございます。」

とお礼を言いつつ、今後の予定と、しでかした『青い炎の柱』事件の収集方法を模索するのであった。


「対策と言うか、収束に向けたお手伝いが出来るかも知れません。前にお伝えした通り、絶海の森の中の異変についてですが、私達の住んでいた集落が襲われた以外は、特に変化がありませんでした。

 とは言え、私が森から来たと言う話は、内密になってますし・・・例えば、私達に何回か期間をあけて森の内部の偵察や調査の指名依頼をギルドに出して貰って、『異変も変化も無い』事をSSSランクの冒険者と言う立場を利用して、証明する方向と言うのは? ついでに、岩塩確保してきますし。」

と打診してみた。


 すると、アルマーさんは、パァーっと明るい笑顔になり、

「それだ! それは良いアイディアじゃないか。それであれば、納得の行く収束になるかもしれない。まあ、実際に異変があったら、それはそれで問題だが」と。


「異変あった場合は、私達も全力で協力しますから。」

と付け加えた。


 海渡は、内心で『よし!何とかなりそうだ』とガッツポーズをしていたのだった。

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