第52話


 さて、その少し前、ギルド本部と世界中のギルト支部に激震が走る。


 このランクを測る為の魔道具、実は情報量は少ないながらも、本部を中心とした魔力のネット網で、全ての魔道具がリンクしており、常に正確な判断材料の情報を、本部経由で共有していた。何処のギルドでも、振り込みやお金の引き出しが可能な理由も、その魔力のネット網の恩恵である。


 ギルドカードに割り付けた固有の魔力紋ともいうべき情報を、本部と共有する事で、各自の預金金額や、依頼等の情報の整合性を取っていた。

 よって、依頼を受けて、失敗しても報告もせずバックレて、他のギルドで別の依頼を受けようとしても、無駄なのである。


 そんな魔力のネット網に、本日の午前中、2度に渡り、許容値を大幅に超えた情報が流れ、一時的にパニック状態となった。


 原因は、ワンスロット王国のトリスター支部からの通信が原因とまでは判明し、すぐさま対策会議が本部で開かれる事となった。

(まあ、結局この会議は紛糾するだけで、大して意味のある物ではなかった。権力争いの1つの道具になっていただけである。)


 ギルドが発足し、この魔力のネット網によるランク制度が確立して、過去300年の間、いまだに裏設定に到達した者は居なかった。

 実際の所、この裏設定は、このシステムを構築した者(エルフ)の悪戯心で、「まあ、そんな奴はおらんやろーwww」と言う前提だが、


「でももしそんな奴現れたら、面白いよなw よし、全部光らせて、受付嬢を驚かせよう」

 ぐらいの気持ちで、やっちゃった物である。


 ただ、その情報を流す魔力のネット網は、その膨大な情報量を考慮されてなかった。(と言うか、そもそも裏設定を発動させる者なんて現れないと思っていた。)

 1度ならギリギリ耐えられたとしても、クールタイムが殆ど無い状態で、2度目の大量通信にって、過負荷が架かり、全情報を流し終えた後、強制切断した。

 その為、その日の夕方まで、送金や依頼達成情報の確認が、出来ない状態となってしまったのだった。


 本部の担当者(この職は今まで300年、最もギルドで楽な場所と言われていた)は、青くなりながら、百冊にも及ぶ魔力のネット網のマニュアルを倉庫から持って来て、やっと非常時マニュアルの章の強制切断時の項目を探し当てるまでに5時間を費やしていた。

 非常時マニュアルの魔力のネット網強制切断に関する対処方を見つけ、その再稼働手順に更に1時間。

 午後5時を過ぎた頃に再接続が完了した時には、本部の担当者はその場に座り込んで燃え尽きていた。


 魔力ネット網の再接続が完了した。

 溜まった通信が送受信し終わり、ほぼオンタイムに切り替わった頃、ワンスロット王国のトリスター支部のギルドマスターであるアルベルトからの報告と上申が、本部へと届く。


 内容の1つは「SSSランクのランク追加について」で、驚く事にSSランクでは完全に収まり切れない実力者への適性なランクが必要だとの上申であった。


 報告を読み始めた段階では、「何をそんなバカな事を・・・SSランクに収まらない者なんて出るのか?」と鼻で笑った。


 しかし、もう1つの内容を読んで、今度は驚きに固まる。

 本日、「新規登録者」のランク判定で、魔道具の裏設定が発動した との事。

 しかも、5歳と10歳の子供だという事。


 更に異常なのは、その子供らが、素材の売却で持ち込んだ「物」の数々。

 通常、複数パーティで全滅覚悟の伝説級や災害級の魔物を、2名のみで討伐している事。 更にその数が尋常ではない事。


 以上をもって、ギルドのランクルールに従うのであれば、本来SSランクでは収まらない内容となる と締めくくられていた。




 読み終えた冒険者ギルト統轄マスター、ハロルドは

「人はそこまで強くなれるのか!」

と呟いた。


 会議は、再び再開し、内容は2つに絞られた。

 まずは、SSSランクの増設。 これはすんなりと全員一致で通った。


 更に、ランク魔道具の更新と魔力ネット網の増強だが・・・これは意見が割れた。

 結局、300年前にこれらのシステムを開発・構築した職員・・・エルフのステファニー・ヨハンソンを本部に呼び、意見を聞くと言う事にし、会議を終えたのだった。

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