第23話

 海渡が広域魔法の「火災旋風」を発動した直後の事である。


 海渡が現在居る、この森の名前を「絶界の森」と言い、そこに住む魔物の強さと数で、広大な面積は、人を寄せ付けない魔の森となっていた。


 幾度か、軍隊と冒険者の精鋭による討伐隊を編成し、大規模討伐を試みたのだが、周囲のどの国も壊滅状態で僅かな生存者が、ボロボロで帰ってくるぐらいだった。

 その生存者からの報告は、森の周辺の4か国を震え上がらせた。

 そしていつしか人を寄せ付けない「絶界の森」と呼ばれるようになった。


 時は遡り、海渡が討伐後の風呂を楽しむ2時間程前。

 絶界の森の南側に面する、ワンスロット王国の辺境都市トリスターの領主の元へ、兵士が飛び込んで来る。

 辺境伯であるアルマー・フォン・トリスター39歳、ワイルド系な風貌に引き締まった肉体を持つ、兵士からの報告を聞き、慌てて北側の塔へと昇り、城壁の遥か遠くに見える

 絶界の森を眺めた。

 報告通りにそこには・・・これまで見た事のない、巨大な青白い炎の柱が渦巻いており、雲にまで達していた。丁度ここからも見えるユグドラシルの木の近くだった。


 アルマーは直ぐさま、全兵士に召集を掛け、スタンピード等の非常事態に対応できるように準備させる。

 同時に王都へと伝書と早馬を使った2通りの手段で、報告と指示を仰ぐ。

 また、辺境都市トリスターより、北側に位置する町や村に伝令を送り、非常事態に備え、女子供は出来る限りトリスターへ避難するようにと、指示を出す。


 辺境に位置する都市トリスターは、王都から遠く離れた辺境ではあるものの、他の貴族の治める領地に比べ、絶界の森から溢れる魔物と、豊富な魔素による影響で美味しい農産物の宝庫であった。

 冒険者が狩って来る魔物の素材や魔石、美味しい農作物、魔素が多く含まれた鉱山資源等で、田舎ではあるが、栄えていた。


 よって、人口も他の領主の治める領都より、2倍程多い、2万5000人が住んでおり、城壁の中は可なり過密になっていた。その為、急遽避難してくる北側の避難民約3300人(最終的には4800人)の収容先を確保すべく、広場や公園等の空きスペースにテントを貼り、安全と判断されるまでの3か月間を過ごす事となる。

 後に「炎の3ヵ月事件」と呼ばれる出来事。

 これの原因が、一人の5歳児の仕業と知るのは、まだまだ先の事である。


 絶界の森の北側に面する国の名は、コーデリア王国といい、広大な面積を保有するが、その半分は、非常に寒く、1年の半分は雪に埋もれている。

 その大半は山間部となり、農業は壊滅的だが、豊富な鉱山資源を産出している。またその鉱山資源を使い、ドワーフの名工が沢山いる事でも有名であった。


 絶界の森に面する農作可能な南側にコーデリア王国の王都やその他の貴族の領地が集中していた。

 その王都の王城からも青白い炎の柱が目撃され、王はすぐさま、全貴族に招集をかけ、1週間程会議が続いた。

 忠臣による「遷都」案さえ出た程であった。

 しかし、王都の国民を国民を守る為に、各貴族の兵士を2ヵ月間に王都に在中させ、防御に当たらせる事に決まった。


 絶界の森は横に広い楕円の様な形をしており、東側に面するゲルハルト帝国と西に面するサルド共和国は、隣接する面積が小さい事と、絶界の森の中心から離れている事で、あまり騒ぎにはならなかった。


 さて、東側のゲルハルト帝国だが、非常にやっかいな国で、この国を治める皇帝は、内政を固め、国民を幸福にする事なんかには、全く興味が無く、ただひたすら周辺国にちょっかいを出し、気に入らないと難癖をつけ、戦争を仕掛ける困った国である。条約を結んでも、皇帝の気分次第でゴネて有耶無耶にし、賠償金を取ったり、賠償金のお替りを要求したりと、やりたい放題。


 そんな帝国が、国境を接する隣国のパニックを見過ごす訳がない。

 すぐさま、ワンスロット王国のトリスター領方面と、コーデリア王国の国境を領土とするロンダリオ辺境伯の領地へと、二局面作戦を展開するも、小国相手ならいざしらず、この世界の四大国相手に、そんな無茶は通用せず、反対に押し返されて、領地が減るという、ざまぁな結果となったのだった。


 しかし、思わぬ敗退に喜んだのは、何と、ワンスロット王国に占領されたゲルハルト帝国国境付近の国民。

 圧政から解放され、帝国支配下の時の3倍も栄えるのであった。


 この帝国の支配下から逃れ発展していく様を見た帝国民は、如何に今まで嘘を信じ込まされていたのかを知り、帝国の衰退を加速させる。


 コーデリア王国の支配下に組み込まれた占領地も同様だった。

 重税から逃れ、国民の子供なら誰もが通える3年制の学校も立ててもらい、文盲率が激減する。

結果、より商業も発展し、活気に溢れた都市へと変わっていった。


 絶界の森の西側に面するサルド共和国だが、国民の大半が獣人と分類される多種族で構成されており、王制ではあるのだが、風潮が呑気で良く言えば緩い、悪く言えば適当な運営で、回っている不思議な国家だった。

 獣人の平均寿命は人族の寿命より長く、身体能力は人を遥かに超え、敵にすると怖い存在なのだが、発情期が存在し、年中OKな人族に比べ、圧倒的に人口が少ない。

 また種族別で集落を作っている事が多く、一回の出産で2人~4人産むが、1回産むと、10年程インターバルを挟むので、爆発的に増える事が無い。


 更に、戦闘向きな身体能力を持つが故に、無茶な討伐や戦闘をしてしまい、若くして亡くなる男児が多く、慢性的に女性の方が多い。性別人口比率は、男30:女70で、一夫多妻制が常識となっている。

 ちなみに、この獣人達は、女神ジーナのお気に入りで、特に力を入れて遺伝子を作られたらしい。(特に毛並みと耳と尻尾に)


 まあ、呑気な民族性だけに、青白い炎の柱を見ても、「お!綺麗だねぇ~」ぐらいで終わってしまったのだった。


 これが、海渡の今いる絶界の森の、主な周辺国の状況である。

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