第12話 副将戦
佐々木由紀は照れくさそうに冷泉堂大学陣営に戻ってきた。そして、私たち全員の顔を見ると、深く頭を下げた。
「みんな、ごめんなさい!」
メンバーたちは頷くと、佐々木由紀の頭を上げさせた。そして、感動した私はごく自然に、
「お帰り、佐々木さん」
と心を込めて言った。その瞬間、佐々木由紀を除くメンバー全員、そして、松尾女史から鋭い視線とともに、
「お前が言うな」
と突っ込まれた。
久しぶりに冷泉堂大学剣道部改め剣道サークルの面々に笑顔が浮かんだ。しかし、
「副将戦を開始します」
と場内アナウンスが流れ、私たちを現実へと引き戻した。
選手たちの視線が副将のルーカスに集まる。相手のネイサン・ミラーに道場でルーカスが完敗したことをダンディーから聞いた私は不安になり、
「勝算はあるのか?」
と小声で訊いた。
「勝算か・・・」
ルーカスはぼそっと言うと、そのまま黙ってしまった。私は悟った。『勝算はないんだ』と。
ルーカスは面をかぶり、竹刀を手に取った。そして、冷泉堂大学剣道部改め剣道サー
クルのメンバーの顔を一人一人見ると、背を向けて試合場へと歩き出した。その大きな背中に向けて、松尾女史が、
「サムライになりに来たんでしょ?今がその時よ」
と声をかけた。
『サムライか・・・』ルーカスは心のなかで呟いた。
「赤、京仙院大学副将、ネイサン・ミラー選手!対しまして、白、冷泉堂大学、ルー
カス・ベイル選手!」
選手紹介が行われると、観客が大きな拍手で選手を鼓舞した。
両選手は試合場に足を踏み入れ、一礼を交わす。そして、開始線まで歩みを進め、蹲
踞した。
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