第5話 取材
試合を終えた私は冷泉堂大学剣道部改め剣道サークルの陣営に戻った。メンバー、そして、冷泉堂の関係者から大きな歓声が上がった。
途中で私は最前列に陣取っていた学生たちと勝利のハイタッチを交わした。その中にはキスバーガーで私とルーカスに貴重な情報を与えてくれたマッシュルーム君の姿もあった。
勝利した私のもとに、テレビ局の女性のレポーターが向かってきた。テレビカメラを担いだスタッフも慌てて後を追いかけてきた。するとカメラを担当するスタッフの脇から立派なヒゲを蓄えた小柄な男性が姿を現し、名刺を私に押しつけた。
「『今日の京都、明日の京都』という番組のディレクターの小平です。インタビューさせてもらいますね。いいよね?はい、ケイちゃん、よろしく」
と、私の返事を聞くこともなく、ケイちゃんと言われた女性のレポーターにマイクを渡した。
もちろん、断るつもりはさらさらなかったが。
「次はいよいよ決勝ですね、大将」
私は勝利者インタビューに答えるアスリートのように、爽やかに当たり障りのない受け答えをしようとしていたが、私の隣に無理やり入り込んだダンディー霧島が、レポーターのマイクを奪い、
「まぁ、武田君は今まで世界中を逃げ回っていたんで、これぐらいしてくれないと困りますよ」
と言った。事情を知らないレポーターは、訳のわからないことを言う、この闖入者の出現に困り果てている。しかし、ダンディーの暴走は止まらない。
「しかし、私、不肖、霧島修平が、この剣道部改め剣道サークルをまとめてきました。決勝戦も私が中心となり、全力で戦う所存です。ちなみに私の座右の銘・・・」
と言ったところで、ルーカスがダンディーの首根っこをつかみ、見えないところへ連れ去った。
「ああ、ええと、それで決勝戦はどのような展開になると思いますか?」
レポーターは、ルーカスからお仕置きを受けているであろうダンディーの断末魔のような叫び声に気を取られながらも、本来の仕事を再開した。
「そうですね。京仙院大学には優秀な選手がたくさんいるので、胸を借りるつもりで戦いたいですね。でも勝つのは・・・」
といったところで一息置き、ここぞとばかりに髪の毛をかきあげ、「武田信夢率いる冷泉堂大学だね」とカメラ目線で答えようとしたが、ルーカスから解放されたダンディーが再び画面に割り込み、
「是非、霧島修平に注目」
と叫んだ。
最大の見せ場を台なしにされた私は怒り狂い、カメラの前でダンディー霧島と取っ組み合いの喧嘩を始めた。
小平ディレクターから溜息とともに、「このVは使えねぇな」という声が聞こえ、撮影クルーは引き上げていった。
テレビクルーが去ると、ダンディーは私の胸倉をつかみながら防具の返却を要求した。私は控室で返すと怒鳴り返したが、ダンディーは私の提案をのまなかった。
そして、私は勝利の余韻に浸ることなく、不承不承防具を脱がなければならなくなった。
冬の屋外で私は裸同然の恰好にさせられた私を見て、ダンディーが、
「君の運があれば僕も勝てるんだけどな」
と、まるで私の勝利が運によるものだと言わんばかりの暴言を吐いた。
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