第3話 突入

ニューヨーク市とニューヨーク市警察合同の発表が行われる午後八時まで、あと十分しかない。


宿泊客の避難完了の報告を受けた父とトビー・ベイル、そして、武装したニューヨーク市警の四名の警官は、テロリストが宿泊している部屋のドアの前に来た。


ホテルの従業員に扮したトビーがドアをノックする。

「お客様、ルームサービスのお食事を用意しました」

部屋の中から聞こえてくる足音が徐々に大きくなる。


トビーは拳銃を構え、父は竹刀と同じ長さに伸ばすことが可能な特注の警棒に手を伸ばした。


ドアを開けたのは、赤ん坊を抱えた若い母親であった。

「ルームサービスなんて頼んでませんわ」

トビーは慌てて拳銃をしまい、父は警棒から手を離した。トビーは警察手帳を見せ、部屋の中に入った。父とニューヨーク市警の警官も続く。

「ちょっと、何なのよ?」

赤ん坊を抱えた母親が叫ぶ。


部屋をくまなく探したが、他には誰もいなかった。トビーは顔を青くして、

「嵌められたか」

と言った。絶望感が漂っている。父は腕時計に視線を落とした。

「まずい、あと五分で発表が始まる。行くぞ!」

父とトビー・ベイルは慌てて部屋を出た。


その時、後ろにいたニューヨーク市警の四名の私服警官の一人が、

「止まれ!」

と叫んだ。トビーと父が振り返ると、四名の警官は拳銃をトビーと父に向けていた。一人は無線を耳に当て、仲間と連絡を取っている。

「ああ、大丈夫だ。FBIには邪魔させない。十五階で食い止めておく」

トビーが腰の拳銃に手を当てようとすると、一番右にいた長い顎ヒゲを蓄えた警官が

「おい、妙な真似をするな!銃を捨てろ!」

と言った。額には脂汗が浮かんでいる。

「さしずめ、お前らは麻薬組織のシンパだな。ヤク漬けか?」

「うるせぇ!さっさと銃を捨てろ。お前もだ!」

長いヒゲの男は父にも銃口を向けた。


父とトビーは目配せをすると、同時に静かに床に銃を置いた。そして、ゆっくりと腰を上げながら警棒を抜き、四名の警官に飛びかかった。


トビーは父の剣さばきを目の当たりにして以来、父から剣術の手ほどきを受けていた。警棒の扱いも拡大に上達していた。

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