第5話 勝利に浮かれる男

ダンディーの勝利が確定すると、冷泉堂大陣営から大きな歓声が上がった。敗れた倉島は茫然自失となり、試合終了後の礼もまともに行うことが出来ず、仲間に抱えられるように退場した。


予想外の勝ち星を上げたダンディーが冷泉堂大学の陣営に戻ると、歓声とともに手荒い歓迎を受けた。佐々木由紀マネージャーが笑顔でダンディーを褒めると、ダンディーは見ているこっちが恥ずかしくなるほどすっかり相好を崩した。


「いや~、皆さんの応援のおかげですよ」

佐々木由紀の前では一応謙遜しているが、一度私とルーカスの方を見ると、どうだ見たか、と言わんばかりの所謂ドヤ顔を見せた。『調子に乗るな』と言うメッセージを込めて、私はダンディーの肩を叩きながら、

「よくやった。B・I・S・H・I・R・Iの特訓のおかげかな」

と言ってやった。


冷泉堂大学剣道部改め剣道サークルの面々は、私の発言の意味が分からずに困惑した。ルーカスは必死で笑いを堪えている。団体戦に出場しないトモッチこと葛城智彦が腕を組んで、


「何の暗号だい?B・I・S・H・I・・・」

と謎解きを始めると、慌ててダンディーは話題を変えた。

「さあ、団体戦はまだ始まったばかり。みんな頑張ってくれよ」

この声が聞こえたのか、審判は、


「次鋒、前へ!」

と団体戦の再開を告げたのであった。


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