第3話 絶体絶命のダンディー
冷泉堂大学率いる松尾女史も団体戦に出場する選手を発表した。
先鋒はダンディー霧島、次鋒は浦賀氏、中堅は木田氏、副将は私、そして、大将はルーカスが務めることになった。
メンバーから漏れたトモッチはとても悔しがったが、
「京都市大学剣道競技会には絶対出場する。だから、絶対勝ってくれ!」
と私たちを気持ちよく送りだしてくれた。
松尾女史が先鋒のダンディー霧島を呼んだ。
「いい、霧島君。相手の倉島選手は、松竹寺道場の元道場生だわ。手強い相手だけど、敵わない相手ではないわ。松竹寺にいた頃と変わっていなかったら、先制攻撃を仕掛けてくるはず。最初の一手をかわせば、勝機があるわ。あとは胸を借りるつもりで、思い切り攻めてきなさい!」
「はい!」
「それでは、京都医科大学と冷泉堂大学の団体戦を開始します。三人以上勝利したチームを勝ちとします」
私たちを体育館に案内してくれたドクターコートの男が両陣営に呼び掛けた。隣には小柄な初老の袴姿の男が腕を組んで立っていた。どうやら今日の団体戦の審判を務めるために呼ばれたようだ。赤と白の小旗を持っている。
「先鋒、前へ!」
審判が両チームに声をかける。
熊寺が先鋒の倉島に何やら耳打ちしている。話を聞き終わると倉島はダンディー霧島を見て、にやりと笑った。
緊張した面持ちでダンディーは前へ出た。
ダンディー霧島と倉島は同時に開始線の前に立った。倉島はダンディーだけに聞こえる声で、
「素人がしゃしゃり出やがって」
と言い、睨みつけた。ダンディーの竹刀を握る手に力が入る。
「今回の団体戦は一本勝負とする。両者、正々堂々と戦うように」
審判がこれから戦う二人に告げた。
「開始!」
こうして京都市大学剣道競技会の出場をかけた死闘が幕を開けた。
両陣営から先鋒を鼓舞する声が上がる。
ダンディーは竹刀を中段に構えた。一方の倉島は竹刀を頭上に掲げた。挑発的な上段構えだ。京都医科大学陣営から歓声が上がる。
ダンディー霧島は、倉島に屈辱的な言葉を浴びせられただけでなく、小ばかにしたような上段構えをされ、頭に血が上っていた。しかし、松尾女史のアドバイスを思い出し、相手の先制攻撃に備えた。
しかし、その先制攻撃はなかなか仕掛けられてこない。ダンディー霧島、そして、アドバイスを与えた張本人の松尾女史もまさかの展開に驚きを隠せなかった。ダンディー霧島の額に汗が浮かぶ。『なぜだ。なぜ攻めてこないんだ』
ダンディーの焦りを見抜いた倉島が、余裕の表情で距離をじりじりと縮め始めた。ダンディーはプレッシャーを感じ、徐々に後ろに下がっていく。倉島はさらに距離を縮め、不敵な笑みを浮かべた。
完全に自分の間合いにダンディーを置いたようだ。そして、ダンディーに向かって言った。
「どうせ松尾さんから俺の癖を聞いてるんだろ」
ダンディーの表情が固まった。
「図星みたいだな。来いよ素人、今日は俺が稽古をつけてやる」
この一言で我を忘れたダンディーは倉島の胴を狙いにいった。しかし、焦って攻撃してしまったため、案の定、ダンディーの竹刀は簡単に弾かれてしまう。態勢を崩したダンディーは無防備となった。冷泉堂大学剣道部改め剣道サークルのメンバーから悲鳴が上がる。
しかし、倉島は攻めなかった。倉島は相変わらず不適な笑みを浮かべている。
「霧島、落ち着け!」
冷静さを失っているダンディーに対して、次鋒の浦賀氏が呼び掛けた。ダンディーがうなずく。
倉島の攻めを待つダンディーだが、倉島は動く気配を全く見せない。再びダンディーは焦りを感じ始めた。倉島が徐々に距離を詰めてくる。しかし、上段に構えた竹刀はそのままだ。単純に考えれば、相手が上段構えの場合、胴は最も狙いやすい。それでも、先ほど胴打ちを軽々とかわされてしまったことが脳裏をよぎり、ダンディーは積極的に攻めることができない。
気づくと、倉島との距離は一メートルをきっていた。相変わらず薄気味悪い笑みを浮かべている。後退りを始めたダンディーとの距離を縮めた倉島は、
「来ないなら、俺からいくぞ、素人」
と言い、ついに上段に構えていた竹刀を振り下ろす。
「危ない!」
佐々木由紀マネージャーが顔を手で覆った。
倉島の竹刀がダンディーの面をとらえた。
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