第45話 リテーレ領とゲレーダ領

ゲレーダ領とリテーレ領との領土戦争が終結してから一週間の時が経った。

この一週間、俺はフィーリスを基点に戦争の後始末に負われていた。


「えーっと、賞与の配当はこれで終わりっと……!」

「次は軍部からの補充品の決済がありますから、お願いします」


ドサッとルカが机の上に書類を載せる。


「え、えーっと……まだこんなに……?」

「仕方が無いですよ。戦後処理なんてこんなものですから」


ルカは苦笑いをしつつ、空になった箱を執務室の隅に積んでいく。

戦後処理は捕虜の処遇や軍備の損害に対する補充、功績を挙げたものに対する賞与などなど……その主旨も多岐にわたっている。それに加えて、この戦争は終わっているようで終わってないことを告げる報告書も入っている。


それは言うまでも無い。ゲレーダとの戦争で巻き込みを画策したものの、失敗に終わったアンカルの領の動きを告げる報告書だ。


俺の予測どおりアンカル領内は権力が強かったアルビレスが行方不明になり、リテーレ軍がアンカル領内に駐留しなかったため、内乱に発展しているらしい。


「そういえば、ミレットはもうあっちに行ったんだよな?」

「ええ。あの子は西の砦を基点に部隊の再編、育成を行っているはずですよ」


ミレットは西のアンカル領内の動きに備えて警戒に当たっている。すぐにどうなるというわけではないが、下手すればこっちに攻め入ってくる可能性もあるからだ。


本当なら戦力が崩れているうちに火の粉を払う如く、進軍する方がいいかもしれないが、今はゲレーダ領との長期戦で疲弊している兵士、それから領民を休ませてやるべきだと考えていた。


下手に今、戦端を開けばエプリスに裏から突かれかねない上に、領民に一揆でも起されたら溜まったものじゃない。故に今は内政に力を入れている。


現に今、経済長官であるミルドには人脈をフル活用してゲレーダとリテーレの地で農産物がどれだけ取れるのか測量をお願いしているところだ。これは収穫量を計算するという役目もあるのだが、税を『モノから貨幣』に変えるための策でもある。


もちろん、領民の間で否定されたら取り止めも考えてはいるが、事実、生活の中で使われているのは硬貨だ。ならば、納税を硬貨にチェンジすることも可能なはずだ。それに一個人から徴税をすることで納税額の改善もできる。


「(しっかし、まぁ、課題が山積みなんだよな)」


俺は書類を眺めながら方々に思考を巡らしながら捕虜の名簿に目を落とす。

戦争の後、捕縛したゲレーダ領の領主、トリー・ゲレーダは奴隷商に引き渡され、農場で働かされているらしい。


ミルドはトリーが働かされている様子を見てきたようで、「滑稽だった」などという感想を俺に零したほどだ。結局、悪いことをすれば自分に返ってくる。

それが今頃、良く分かっているだろう。


一方でレオル・エバースはルカによって『何人たりとも殺してはならない』というサクリフアイスをかけられた上で魔術道具にあたるスクロールや魔術石、ポーションといったものを作らせているらしい。とはいえ、ルカの心は俺が思っている以上に優しく。そして、強かった。


ルカは無理難題を投げる一方でレオルに魔術を教えて欲しいと頼んだそうだ。

もちろん、未だにルカは納得など出来ていないと語っていたが、それでもルカは、レオルに教えを請いだ。


その理由は、こうだった。


「希望や理想があっても力が無ければ何も出来ないですから……使えるものは使おうかなって、そう思っただけです」


俺はその言葉を聞いてルカが前に進んでいることを嬉しく思ったのだった。それともう一つの問題だったマレルとルカの関係が改善したように思えた。


あの戦いの後、マレルに呼ばれてルカが軍本部に出向いてから二人とも表情が変わった。何というか、今までの上司と部下という雰囲気から家族のような優しい雰囲気を多くみるようになったのだ。


もちろん、ルカとマレルが何を話したのかは分からないが、マレルが抱えてきたもの、ルカが抱えてきたモノをお互い、たくさん言い合ったのではないかと俺は思う。でなければ、あんなに他所他所しかった二人がこんなにいい雰囲気を出せるわけがない。


「(まぁ、何はともあれ、関係が良くなったのは本当にいいことだ)」

「どうかしましたか?」

「いいや、何でもないよ。こっちの書類、終わったからよろしく」

「はい!」


こうして、今日もまた一日が過ぎていくのだった。



         第一部 リテーレ領とゲレーダ領、完。

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