第10話 約束の場所

「ねぇ、母さん。

 本当にもう帰ろうよ。」


「うん、わかってる。」


「母さん、さっきから返事ばかりで、ちっともわかってないよね。」


「うん、わかってる。」


 今日は幼稚園の入園式の次の日。

 朝、涼太が幼稚園の門の前で行きたくないと泣き出したもんだから、母さんはかれこれ1時間も幼稚園の外から園の中の様子を伺っている。

 しかし、ここからじゃ涼太の姿は全く見ることができない。


「母さん、心配なのは俺も同じだよ。

 でも、そろそろ店の準備もあるし、帰ろうよ。」


「はっ!店の準備‼

 えっ、もうこんな時間!

 ちょっと大介、あんた学校は?」


「俺は母さんが不審者で通報されたら困ると思って帰れなかったの。

 学校は遅刻だけど今から行くから。」


「そうよ。母さん店があるから大介はちゃんと学校行きなさいよ!」


「…。」


 俺は走り去ろうとする母さんに声をかけた。


「母さん、涼太と約束したお迎えの時間だけは忘れないでくれよな。」



 数時間後。

 幼稚園のお迎えの時間。

 涼太が母親を見つけ

「ママー」

 と駆け寄り抱きついた。


「涼太、幼稚園楽しかった?」


「うん!たのしかったよ。

 ぼく、やくそくしたからね。

 あしたもようちえんくるよ。」


「誰とお約束したの?

 先生?お友達?」


「はね!」


「羽根?」


「うん!

 ぼくのはねだよ。」


「涼太の羽根?」


「ぼくのおともだちのはねだよ!」


「羽根のあるお友達がいたの?」


「はねはおともだちのおなまえだよ。

 

(でも、ぼくはねがおそらからふってくるところみたけどね。)」


「お友達のお名前が羽根ちゃんなのね。

 涼太は羽根ちゃんと何して遊んでいたの?」


「それはママにもヒ・ミ・ツなんだよ。

 早く明日にならないかな。

 楽しみだなー」




 翌朝。

 幼稚園の門の中から手を振る羽根。

 それに、気づいた涼太が手を繋いでいた母の手を離し翔けだした。







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i l y 永遠に翔 @ao627

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