第7話 糸
翔です。
またまた翔です。
羽根と涼太に出逢うことができたオレ。
これは、前世の記憶を持って生まれてきたオレがあいつらとは別の運命の人に出逢えた話です。
「ちわーす!
大介さーん、いつものお願いします‼」
「いらっしゃい。
はい、いつものブレンド。」
ここはオレの友達、涼太んちの喫茶店。
「あーやっぱり、大介さんのコーヒー飲むと目が覚めるなー」
大介さんはこの店のマスターで涼太の兄さん。
「目が覚めるって、お昼すぎだぞ!」
そう言いながら、大介さんが優しい眼差しでオレを見る。
「女将さんはいつものところですか?」
「そうだね。
母さんは買い出しに行くと商店街の人と話し込んでなかなか帰ってこないからね。」
「やっぱりかー
残念。今日こそは女将さんのアレが食べたかたのになー」
「翔、アレだったら僕が作ってあげるよ。」
突然、背後から涼太の声が聞こえた。
「うっわービックリした!
涼太おったのか?」
オレは、驚いて椅子から落ちそうになった。
「翔、お前ウソついているやろ!
ホンマは僕がいたこと端から気付いていたやろ。」
涼太がオレの関西弁を真似てそう言ってきた。
「イヤ、ホンマに気付かんかったんよ。
ゴメンなー
それにオレは女将さんのアレが食べたいねん。
大介さーん、ブレンドおかわりお願いします!」
大介さんがオレの飲み終わったカップにコーヒーを注いでくれるお姿。
それが男のオレでも惚れてまうくらい美しいねん。
「翔さ。
本当に失礼な奴だよな。
何かさ、翔は兄さんとときどき二人の世界に入り込むよね。
僕に気付かないとか、僕がいることを忘れるってのも、本当なのかと思って怖くなることあるからね。」
そう涼太が言うように、大介さんはオレにとって特別な人だった。
それは前世のお話。
大介さんは、前世でオレの旦那さんだった人。
オレは前世女の子やった。そして生まれたときから涼太という許婚がいた。
親同士が決めたことだけど、オレは涼太と結婚する運命なら受け入れようと思っていた。
涼太がオレのことを愛してなくても、オレがあいつらの役に立てるならそれで良いと考えていたからね。
だけど、涼太は羽根と一緒に村を出ていってしまった。
オレは大切な人を二人いっぺんに失ってしまった。
その悲しみと自分が犯した過ちで自暴自棄になっていたころにオレは大介さんに結婚を申し込まれたんだ。
オレは当時家族や親戚、村の人たちに、許婚に逃げられた可哀想な娘だと思われていた。
まあ、実際そうだったんだから、仕方ない話なんだけど。
大介さんは全部わかった上で、オレを嫁さんにしたいと申し出てくれたんだ。
唐突な話だよね。
大介さんは同じ村の生まれで、オレよりも年上で兄貴的な存在の人だった。
大介さんが嫁にしてくれると言い、親も賛成しオレもそれを承諾した。
お見合い結婚が当たり前の時代だったからね。
オレは大介さんと結婚し妻となり、子どもができ母となり、孫ができて祖母となり、大介さんを見取り、幸せな生涯を閉じることができた。
平凡な幸せかもしれない。
せやけど、大介さんの愛がオレを包んでくれたからこその波風のない幸せな結婚生活だった。
あの橋でスープを飲まなかった理由もオレが男として生まれかわった理由も今となってはわからない。
でも、オレが生涯で最も愛した人は大介さんだよ。
そして、大介さんもオレも男性として生まれ変わり、二人とも恋愛対象は女性だった。
だから、オレは大介さんを見守ることしかできないし、まだ独身で家族のために生きている大介さんが心配でならないよ。
こんなこと自分で言うのも変な話やけど、大介さん、オレ以上に愛する人を早よ見つけてや。
あなたの幸せを願っています。
「翔!兄さん!
明日は羽根が帰ってくるんだから、二人ともサプライズパーティの準備、手伝ってね。」
涼太の声でオレは我に返った。
ヤバイ!ヤバイ!
またうっかり大介さんとの思い出に浸ってしまったわー
ちゃんと返事しとかないとまた涼太に怒られるでー
「はーい!」
オレと大介さんは同時に答えた。
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