第17話 決起大会

 都と俺は祭りの日からもやもやとしながらも、ぎこちなく暮らしていた。


 もうすぐ8月も終わる暑い日、都の造園仲間が集まってキャンプ大会が行われた。都の家の前の広場で毎年行われているそうだ。ネコはさっさとどこかに行ってしまった。あいつは近所でちゃんとエサを貰えるだろう。賢いのだ。

 毎年行われているそれは、『俺たちの夏休みも終わるし、これを機に9月からの仕事を頑張ろうぜ!』という趣旨のゆるい決起大会だった。皆がテントを張ってここで泊る。ログハウスの前に形の違うたくさんのカラフルなテントが張られている景色は不思議だ。

 円造さんがいるので、浩も参加する。浩は俺と一緒にテントに泊まるのだ。修学旅行も行った事のない俺はすごく楽しみにしていた。

 都は田山先生の教え子の女友達と一緒にログハウスで寝る。彼女は先生が亡くなったショックからだいぶん立ち直り、ぼんやりふさぎ込むことも少なくなった。先生は持病があり、以前から発作が起きては何度も救急車で運ばれていたそうだ。都も先生の病気を知っていたから覚悟は出来ていたのだろう。


 バーベキューの用意を二人でしながら俺が、

「都にも女性の友達がいるようで安心した」と生成色のTシャツにカーキのハーフパンツを着た都に言うと、

「もう、バカにして!」と言って俺のお尻を優しくった。手がふさがっているからだ。その様子があまりに可愛いので俺は困る。誰もいないし抱きしめてキスしたくなるじゃないか。それから…と考えてはっとする。

 毎日大好きな人とこうやって近くにいられるのは嬉しいが、このままでは自分を止められなくなるのは時間の問題だ。俺は一人前になるまでは都に手を出さないと決めている。彼女から離れたくはないけど、修行に出る日程を9月の早めにしてもらおう。

 都の迷いも感じている。血はつながってないとはいえ、弟だ。10も年が離れた弟と…、という事実が彼女を混乱させているように見える。

 とにかく俺が早く一人前になるしかない。


 お昼のバーベキューがゆるゆると始まる。現場の余りの煉瓦レンガで作った即席そくせきの大きな焚火台たきびだいの上に鉄板や網を敷き、どんどんお肉を焼いていく。肉が焼ける匂いが細胞レベルから欲望を掻き立てる。皆肉食なので野菜は申し訳程度に網の隅にひっそり置いてある。さすが外仕事の人間の集まりって感じだ。

 誰かが音楽をかけ始めた。こういう時は山奥が便利だ。トランスやらロック、オルタナ、POP,アニメ、ゲームなど雑多な音楽のミックス。誰かがこの日のために選曲アレンジして持ってきたのだろう。大人になってもこんな風に楽しいことがたくさんできるのだと俺が感動していると、

「変な人ばっかで面白いでしょ。みんな楽しむことに命をかけてる。だから一所懸命仕事ができるの」といつの間にか隣に都がいて言った。ネコみたいだ。

「あのさ…ここはもうゲンちゃんの家だ。辛くなったらすぐに迎えに行くから戻っておいで。絶対無理しちゃだめだよ。いつでも電話してきていいから」と言って、スマホを俺に渡した。

「え?」

「これ、私からの就職祝い。メールとか電話、してもいいかな?」と恥ずかしそうに言った。

 もちろんだ。毎日、毎時間でもして欲しい。

「うん…ありがとう」

 俺たちが何も言わず二人して赤くなってもじもじしていると、

「おまえんら、付き合ってんの?」と円造さんがニヤニヤしながら横にきて質問した。

「えっと…まだ付き合ってはいない、かな?」と俺に都が伺うように聞いた。違う。俺は…。

「おい、ゲン!ミーコは昔からすんげ鈍いんだよ。ちゃんと大きな声でここで宣言しろ!」と円造さんが付き合ってないと言われて複雑な表情になっている俺に言った。そうだ、俺は…決めたんだ。

 俺は皆の方を向いて肺に大きく息を吸い込んだ。

「都は…俺の恋人だ!一人前になってここに戻ってくるから…だから、その時は…その…結婚して、一生そばにいてっ!!」

 俺は今まで出したことのないほどの大きな声で宣言したので、思わず咳き込んでしまった。苦しくて涙がにじむ。周りがシンとなっていたが、しばらくして、

「おー、若者にふさわしい宣言だった!よし、ミーコはおまえのだ。認定!!」と円造さんがよく通るいい声で全員に聞こえるように言った。(なんと彼は声もいいのだ!悔しいことに歌も聞き惚れてしまうほど上手いのだ…)

 拍手が起こる。浩が嬉しそうに俺をみて親指を上に立てた。俺は泣きそうだ。都を見ると、もう少し泣いていて、恥ずかしそうに俺の顔を見て「ありがとね…」と言った。俺は思わず彼女を抱きしめた。都の心が柔らかくなったのを感じる。俺の気持ち、伝わったようだ。


 それからその場は宣言の場となり、次々に酔った大人が音楽に負けない大声を張り上げた。内容は笑えるものから真剣なものまで様々だ。こんな面白い人がたくさんいる世界ならもっと好きになれる。

 浩の宣言がトリを務めた。

 最高の庭職人になる!と顔を真っ赤にして大声を張り上げた。カッコいい、さすが俺の友達だ。円造さんは嬉しそうに彼の背中をバシバシ叩いた。

 二人いいコンビになりそうだね、と俺が思っていたことを都が言った。通じ合っている。そういえば最初から都とはそういう感覚があった。


 俺と都の恋人宣言は一部の男性の心を砕いてしまい、

「来年はもうこれんかもしれん…」と冗談半分でお酒を飲みながら残念がっているごつい人もいた。ガタイが良くても告白は勇気がなくて出来なかったのだろう。

 都の良さをわかって狙っていた男性もいるのだ。円造さんに乗せられて勢いで宣言したけど、良かった…と俺は思った。

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