第2話 七転八倒(4)

 吉岡さんの指示通り、階段を4階から駆け降りる。四角い螺旋階段は、カンカンカンッと高い金属音を、足を踏み出すたびに周囲に響かせ、階段をくだる度に息はどんどん上がっていく。



胸が締め付けられる。言葉にならない声が、どんどん溢れて口から漏れ出す。



それは音の無い叫びだった。



階段は長く、一段、また一段と足取りが重くなる。下に行くのは、こんなにも辛いものなのか。“あの”時はあんなに早く水面が近づいたのに…



重くなった足は歩みを止め、背中から壁に這うように倒れた。地面にぽつり、ぽつりと斑点模様ができていく。現れる模様は姿を変え、幾つもの形を形成し、重なり、広がる。



 そして、耳にも阿鼻叫喚が如く無数の声も重なり、広がる。なんなのよ!これ…

そんな時、吉岡さんの言葉を思い出す。



「だめだ、動かなきゃ。だって私は動けるんだから」



立ち上がり、再び動き出す。そしてやっと1階まで辿り着いた。



そのまま吉岡さんの案内に従って左に曲がって出入口を見つけた。だけど、そこには白衣を着た男性が仁王立ちしていて、慌てて近くの背の高い観葉植物の陰に隠れる。



「だめだ、出られない」



すぐさま別の経路を考えようとするが、ここは今日初めて来た病院で経路どころか病院の構造さえ分からない。



どうしよう…とりあえずここじゃいつか見つかってしまう。どこか隠れられるところに!



その瞬間後ろから腕を掴まれた…



「よっ!」



 少し太めの枝の先に糸を巻き付け、先端に針金で作った釣り竿もどきを盛大に振り上げると、少々小ぶりだがしっかりと針金に食らいついた魚が釣れた。



「よしよし、今日のご飯ゲット」



は、そのぴちぴち跳ねる魚を見ながら昨日の事を思い出した。



「そろそろ違和感の正体に気付いた頃かな~あれ最初本当に怖いんだよね。」



わたしも体験したあの人の本音が聞こえる恐怖を思い出し、軽く身震いしたが、大きく頭を振って忘れる。



「でも、多分大丈夫でしょ。私が大丈夫だったんだから。」



私は立ち上がり、魚の腹を切る為に包丁を取りに行こうとした時、後ろでピチョンッという音がした。



「あ、あああ!今日のご飯が…」



魚の生命力を侮っていた。自力で逃げる様はまるで、鏡に映った自分でも見ているような気分になった



「もっと生きたかった、ってことか。さて、じゃあ別の食べ物でも探すかな~。」



腰まで伸びた髪を振り払って、後ろを向く。足は自然と川岸から離れ、森の中へと向かった。

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