第48話 せいなるこうい

「今回の過射聖かしゃせいの原因……それは、『体位たいい』にあります」


体位たいい?それは………どういう意味ですか?」


「あー……そうですね、挿入時の体勢と言ったほうがわかりやすいですかね」



 挿入時の体勢?


 確かにあの体勢でするは初めてだったと思うけど、そんな事で変わるものなのか?


 あ、でもよく考えると後ろからの体勢でしたのは初めてじゃないぞ。


 あれは確かブルウッド領のエイノット霊園での鎮火活動ちんかつの時だ。


 あの時もラマニアの背後から挿入したはずだ。



「なるほど。では、そのブルウッド領での体位たいいを思い出してみてください」



 あ、やっぱりモフカーニさんは俺の思考を読んでいるようだ。


 言われた通り、あの霊園での鎮火活動ちんかつを思い浮かべる。


 あの時はラマニアが木に手をついて立ち、その背後から俺はラマニアの手に自分の手を添えて立った。


 そして二人の頭上で『聖塔ミティック』と『聖門ミリオルド』を挿入させたんだ。



「ふむ。やはり……。リンさん、ブルウッド領の時と今回、どちらもラマニア姫の背後からというのは同じですが、明確に違うところがあるでしょう?」



 違いと言うと………ブルウッド領の時は立ったままだったけど、今回はベッドの上で膝をついていたって事くらいだろうか。



「いいえ、違います。それはお二人が『聖塔ミティック』と『聖門ミリオルド』を出していた位置です」


「位置?」



 今回は………そうだ、俺は腹の前で『聖塔ミティック』を出していた。


 ラマニアは………その……お尻の前。


 この位置関係が問題だったのか?



「その通りです。おそらくラマニア姫も意図していなかったのだと思いますが、それによって聖交渉セクルスが本来の行為に近い体位たいいとなってしまった事が原因でしょう」


「本来の行為って言うと………?」


「えっ?」


「?」


「え………リンさん、え?あの、わかりませんか?」


「えっと………すみません、俺にはさっぱり………」


「あー………………」



 全くピンとこない俺の様子を見て、モフカーニさんは少し考える表情をしてから続けた。



「そ、そうですね、えーと、聖交渉セクルスとは元々、ある『せいなる行為』をしたものなのです」


せいなる行為………」


「字が少し違いますが………まぁ、もうその認識で結構です。つまり、先日の聖交渉セクルスの体位が本来の『性なる行為』に近い形だった為にリンさんの聖欲せいよくが暴走してしまったというわけです」


「なんとなくはわかりましたけど……つまり、お腹の辺りで『聖塔ミティック』を出してしまったのが良くなかったって事ですか?」


「はい。それとラマニア姫の『聖門ミリオルド』の位置もです」



 要するに、二人とも偶然『聖なる行為』とやらに近い体勢……体位というやつで聖交渉セクルスをしたのがいけなかったという事らしいが………。


 でも、そもそもその本来の聖なる行為とやらを知らない俺は、どうやって気をつけたらいいのだろう?



「今後はお腹の辺りで挿入しないようにすればいいんでしょうか?」


「お腹と言うか、ペ………いや、そうですね、それで大丈夫だと思います」


「わかりました!」


「ですが、先日の体位にも利点はあります。いつもより大量の鎮聖滓ザメインが出たでしょう?」


「あ、はい。確かに」


「つまり諸刃もろはの剣とも言えますが、いざという時の奥の手、切り札として使う事もできるのだという事を覚えておいてください」



 なるほど、確かに今までにない規模の『炎』が発生した時、そんな事が絶対に起こらないとは限らない。


 覚えておいて損は無いと言うか、覚えておくべきだろう。


 今回の失敗を失敗のまま終わらせない、今後のための良い経験とするためにも。



「ありがとうございます、モフカーニさん!勉強になりました」


「どういたしまして。それよりもリンさん、あなたの知識はその………」


「はい?」


「ああ、いえ。よろしければ今度、初心者向けの作品をお貸ししましょう」


「?は、はぁ、ありがとうございます」



 モフカーニさんは深い溜め息をつき、微妙な笑顔を浮かべながら俺に挨拶をすると、王城の中庭から去っていった。

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