第44話 別れの前夜

 ラマニアが俺以外と聖交渉セクルスを………?



「そんな………ヴィアンテ様!わたくしはもう、リン様と鎮火活動ちんかつはできないのですか!?」



 初めて見る、ここまで狼狽しているラマニアの様子に、ヴィアンテ様も優しくなだめるように諭す。



「落ち着くのだラマニアよ。無論ずっとというわけでは無い。ビロープ領以西りょういさいの地域で新たな門の乙女が見つかるまでの間だ。門の乙女は鎮火の勇者と違い、すぐに見つかるであろう」


「そ、それは……」



 たしかに、俺がこっちの世界に来てから門の乙女に出会ったペースを考えれば、1~2週間もあれば一人くらいは見つかる気がする。



「気持ちはわかるが、この世界に来たばかりのコウガのサポートはお主が適任なのだ」


「わかりました……」



 とても残念そうな表情をしながらラマニアは承諾した。


 そんなラマニアの様子を見てコウガ君が口を開いた。



「あの……なんかすみません。僕のために………」


「あっ、いえ!私のほうこそ申し訳ありません、コウガ様!ご不快な想いをさせてしまい……」


「いえ、本当にいいんですか?」


「もちろんです。コウガ様の鎮火活動ちんかつをしっかりとサポートしてみせます!」



 ラマニアは先ほどまでの態度を改め、コウガ君の手を握って頭を下げた。


 確かにコウガ君の立場からすれば申し訳ないと思うか、人によっては気分を害したかもしれない会話だったよな。


 このタイミングで「申し訳ない」と思えるコウガ君は大人だ。



「コウガ君。俺もこっちの世界に来たばかりの時は………いや、今もだけど、ラマニアにはとても助けられたんだ。わからない事とか色々と相談するといいよ」


「はい!僕も頑張ります!」



 今度は俺がコウガ君と握手を交わす。



「よし。ではコウガとラマニアは明日ビロープ領へ出発だ。今夜はゆっくり休むがよい」


「はい!!」


「ヴィアンテ様はどうされるんですか?」


「私はまた地球へ行き勇者探しだ。だがその前に一度モフカーニに顔を出しておこうかの。あ、それと………」


「それと?」


「社長にも挨拶をしておかんとな……。しばらく撮影もできぬし。この間行った時に言っておくべきだったわ」


「ああ、あの人………」



 俺以外の面々は顔に『?』マークが浮かんでいる様子だったが、ヴィアンテ様が「大した事ではない」と言って誤魔化した。


 俺とコウガ君は一緒に夕食をとり、ラマニアとティアロさんは自室に戻った。


 そしてヴィアンテ様は例の社長さんの会社へ行くと言って街へと出かけるのであった。





 夕食を終えた俺とコウガ君もそれぞれの部屋へと戻った。


 部屋に戻った俺は、明日はコウガ君とラマニアの出発を見送らないといけないし、今夜は早めに休もうと思ってベッドに入ったのだが、なかなか寝付けなかった。


 さっきのラマニアじゃないが、俺としてもやはり今までずっと一緒だったラマニアと少しの間とはいえ会えなくなる事に、何とも言えない寂しさのようなものを感じていた。


 この世界を守るため必要な事だというのに………。


 そんな事を考えていると、不意に俺の部屋のドアをノックする音が聞こえて身を起こした。



「はい?」


「リン様、ラマニアです。まだ起きていらっしゃいましたか?」


「ラマニア?」



 訪問者はラマニアだった。


 俺はベッドから立ち上がり、部屋のドアを開ける。


 するとそこには寝間着姿のラマニアが立っていた。


 初めて見るラマニアの寝間着姿に一瞬ドキッとした。


 そんな動揺を悟られないよう、できるだけ平静を装いながら会話を続ける。



「ど、どうしたの?」


「あの………リン様、お疲れかとは思いましたが、お願いがあって参りました」


「うん………何?」



 ラマニアは言い出し難そうにモジモジとしていたが、意を決したように口を開いた。



「私と………聖交渉セクルスしてくださいっ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る