第35話 お久しぶりと初めまして

 気がつけば辺りはすっかり暗くなっていた。


 放っておくといつまでも帰ろうとしないティアロさんを、なかば強引に引きずるようにして王城へ帰った。


 とりあえず俺の部屋へ行き、ティアロさんが収納してくれていた『エルフの霊薬』の段ボールを部屋の隅に積んでおいてもらった。


 あとは夕食も戴きたいところだったが、ティアロさんにもどこか休める部屋を用意してもらいたいと思いラマニアを探していると、ラマニアの他にもう二人の人物が話をしている場面に出くわした。



「リン様、ティアロさん、お戻りになられたのですね?」


「おお、リン殿。お久しぶりです」



 ラマニアと一緒にいた二人の内の一人は、先日会ったばかりのブルウッド領の領主、ガッツさんだった。


 その隣には初めて見る男性がもう一人。


 大柄なガッツさんに比べると背は低く、年齢はガッツさんと同じくらいで四十代半よんじゅうだいなかばくらいだろうか。


 顔は………あの俳優さんに似てるな。


 二時間サスペンスドラマの主演と言えばこの人!ってくらい大御所俳優のあの人が少し背が縮んだようなイメージだ。



「リン殿、ご紹介します。こちらは私の親友でモスッド領の領主、タックス・モスッドです」


「はじめまして、鎮火の勇者様。鶏肉料理と豊かな自然でお馴染みのモスッド領の領主、タックスです」



 そう言えば前回ガッツさんと別れる時、モスッド領に出張に行くと言っていた、その時に少し話題にあがっていた人か。


 にしても、その変な自己紹介は意味不明だが。



「はじめまして、リン・ハヤセです。それとお久しぶりです、ガッツさん。今日はどうされたんですか?」



 するとガッツさん、タックスさん、ラマニアは少し気まずそうに顔を見合わせるが、すぐに取り繕ったような笑顔を浮かべた。



「いえ、実は近いうちにサンブルク王国全土の領主を集めた『領主会議』を行う事になりましてね。今日はその事前打ち合わせのようなものです」


「はあ、そうなんですか?」



 俺にはあまり関係なさそうな、お偉いさんの世界の話っぽかったので興味は湧かなかったのだが、その後に続けてラマニアが補足した。



「まだ会議の日取りは決まっていませんが、その会議にはリン様にもご出席して頂く事になります」


「えっ、俺も!?」


殿下でんか!?」



 あれ?なんかラマニアとガッツさん達領主二人とで食い違いがあるのか?



「当然でございましょう?リン様に関わる事柄をリン様のいない所で決めるわけには参りません」


「う………む、そ、そうですな……」



 俺に関わる事柄?


 その領主会議とやらの議題は、俺に関わる?


 俺がこの世界で必要とされる理由は、俺が『鎮火の勇者』だからだ。


 なら会議の議題というのも『炎』に関する事に決まっている。


 そしてこの国の全土の領主が集まるという事は………



「もしかして………」


「はい。リン様……『鎮火の勇者様』の取り合いの会議です」



 とても言いにくそうな表情でラマニアが答えた。

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