第26話 ヴィアンテ様の裏の顔

 エルフ!?


 今ヴィアンテ様はエルフって言ったよな!?



「この世界って、エルフが存在するんですか!?」


「何だ?意外か?」


「意外と言うか………はい」



 毎度の事ながら、この世界にはあまりファンタジーっぽさを感じないだけに、まさかここにきてファンタジー要素全開な単語を耳にするとは思わなかった。



「さすがに出発は明日で良いだろう。ラマニア、クィエール駅までお主とリン、二人分の列車を予約しておくのだ。私とリンはこれから少し出かけてくる」


「は、はい、畏まりました。ところで、どちらへお出掛けに?」


「なに、エルフの聖地へ行くのに手ぶらで行かせるわけにもいかんのでな。エルフ達への手土産を調達してくるだけだ」


「左様でございますか。では私は列車の手配をしておきますので、お気をつけて行ってらっしゃいませ」



 そんなわけで、俺とヴィアンテ様の二人でキーストの街へと買い物に出かける事となった。


 そもそもエルフへの土産って、何を買うつもりなんだろう?


 俺にはさっぱり見当もつかないが、俺の前方をゆくヴィアンテ様の歩みには一切の迷いが無い。


 そして10分程が経った頃、ヴィアンテ様は一棟の汚いビルの前で足を止めた。



「ここ……ですか?なんかとてもお土産が売ってそうな雰囲気じゃないんですけど」



 そんな俺の呟きには反応せず、ヴィアンテ様はいきなり変身をした。


 今までのヴィアンテ様は俺と同じくらい、十代の後半くらいの外見だった。


 それが変身後はもう少し年齢が上がり、二十代前半くらいになった。


 例えるなら、女子高生が女子大生になったくらいの変化だった。



「なんでわざわざそんな微妙な変身を……」


「黙っておれ。あ、そうそう。今から私の名前は『ヴィレリア』だからな」


「ヴィ、ヴィレリア……様?」


「『様』もいらん!どうしても呼び捨てしにくいなら、せめて『さん』にしろ」


「ヴィレリアさん………」


「よし。では中に入るぞ」



 ヴィアンテ様……じゃなくて、ヴィレリアさんは随分と堂々とした様子でビルの中に入ってゆく。


 階段で4階まで上がると、ボロボロなドアの横に、これまたボロボロなプレートが掛かっていた。


 プレートには何か書いてあるが、俺には読めない。


 ヴィレリアさんは全くためらう事なくドアをノックし、中から返事が聞こえるより早くドアを開けた。



「こんばんはー、社長いるー?」


「おや、ヴィレリアちゃんじゃない。こんな時間に珍しいねぇ」



 ヴィ、ヴィレリアちゃん?


 まがりなりにもこの世界の女神様をちゃん付け?


 ヴィレリアさんから「社長」と呼ばれた四十代後半くらいの強面こわもてのオジサンはやけに親しげだ。



「ん?そっちのボウヤは?」


「ああ、私のイトコなの。それより社長、こないだの新作って、もうできてる?」


「ああ、できてるよ。お姉さんと妹ちゃんのもできてるけど、持ってく?」


「本当?じゃあ、まとめてもらってくね♪」


「OK。ちょっと待っててね~」



 そう言って社長さんとやらは奥の部屋へ入って行った。


 この二人の会話が全く理解できず室内をキョロキョロと見回していると、壁に3枚のポスターが貼ってあるのを見つけた。


 相変わらず文字は読めないが、そこにデカデカと写っている写真には見覚えがあった。


 いや、見覚えなんてレベルじゃない。


 その実物が今、俺の目の前で、俺に笑いかけながら手を振っているのだから。


 3枚のポスターの真ん中は間違いなくヴィレリアさんだ。


 だが、その両隣のポスターの女性にも見覚えがある。


 と言うか、それぞれ外見年齢の違うヴィアンテ様だ。


 左側は二十代後半くらいの色っぽいお姉さん。


 右側は中学生くらいの小柄な女の子。


 するとヴィアンテ様(ヴィレリアさん)が小声で俺に説明してきた。



「もう気づいてると思うけど、これ全部ア・タ・シ♡左から順に27歳、24歳、20歳って設定だから♡」



 左の二人の年齢は妥当なところだが、一番右はどう見ても無理があるだろ!


 心の中で突っ込みを入れていたその時、社長さんが戻ってきた。



「お待たせ~。はいこれ!ウチの看板三姉妹の新作だよ~」


「ありがと社長♡」



 そう言って社長さんが手渡したのは、俺の世界のDVDかブルーレイのような、三枚のパッケージだった。



「看板三姉妹………?」


「ん?何?もしかしてイトコのボウヤ、知らないの?」


「あの、えっと、は、はい」


「ふっふっふ~、君のイトコの美人三姉妹、長女のヴィダリア、次女のヴィレリア、三女のヴィロッタは、この業界じゃトップの人気を誇る売れっ子なんだよ」


「この業界………って?」


「あ~ごめん社長。この子にはまだ仕事のこと、詳しく言ってなかったんだ」


「なるほどね。じゃあいい機会だ、その新作三本、家でゆっくり見せてもらいなよ」


「は、はぁ」


「じゃあ社長、今日はこれで」


「うん。今度の企画の時もヴィレリアちゃんのお気に入りの男優カレ、スケジュール押さえとくから!」


「ホント!?絶対だよ!」


「任せといてよ!だからヴィレリアちゃんもさぁ、こないだお願いした三姉妹共演の企画の話………」


「ん~~、それはお姉ちゃんとヴィロッタがOKしないとだからぁ」


「わかってる!それとなくお願いしてみてよ!ね?」


「あんまり期待しないでよね。それじゃ」


「うん、よろしくね」



 二人の会話に全くついていけないまま、このビルでの滞在は終わった。


 外に出たところで改めてヴィアンテ様に説明を求めた。



「え?今のやり取り見ててわからなかったの?」


「はぁ……つまり、グラビアアイドルみたいな仕事をしていたって事ですか?」


「グラビア………よりはもうちょっと、て言うかもっと過激なやつなんだけど」


「?」


「わかんないならもういいわ」



 ヴィアンテ様は「はぁ~」とため息をつきながら俺にさっきの新作とやら三本の入った袋を差し出す。



「あの、これとエルフの方達へのお土産とどんな関係が?」


「どんなも何も、それがお土産。エルフの聖地へ行ったらそれを渡せば大丈夫だから」


「よくわかりませんけど……わかりました」



 頭の中に多くの疑問が残ったが、こうして俺とヴィアンテ様の『お土産調達ミッション』は終わったらしかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る