炎上勇者の鎮火活動

太堂寺姫子

第1話 炎上、そして召喚

 俺の名前は隼瀬倫はやせりん、18歳のどこにでもいる普通の高校生だ。


 今時の普通の高校生らしく、普通にスマホも持ってるし、普通にSNSもやっている。


 普通の高校生が普通にSNSやってる程度なら、そうそう『炎上』する事なんて滅多に無いのだが、まさか自分の身に起こる事など無いだろうと思っていたその『炎上』が起こってしまった。


 きっかけは雨の日の学校帰り、自宅の近くの道端で捨て猫を見つけた事だった。


 可愛い仔猫だったし、できれば拾ってあげたかったけど、ウチは親が猫アレルギーだから飼う事ができない。


 なので仔猫の入った段ボール箱の傍らに傘を置いてやり、『ウチは親の都合で飼えないので、誰か拾ってあげてください。場所は……』というメッセージと一緒に画像を投稿したのだった。


 普段の俺の投稿なんてほとんど人の目にとまらないのに、この投稿に限って瞬く間にRTされまくり、人生で初めて『バズった』。


 そしてそれだけでなく、数えきれないほどのメッセージが送られてきたのだが、そのほとんどが批判的なものばかりだったのだ。



『今時こんなの嘘くさい』


『カッコいいとか言われたいんだろ?』


『どうせ自演』


『ネタの為に自分ちの猫を雨の日にこんなとこに置いて写メってるなんて最低だな』


『マジ?通報しました』



 もちろんこんな批判コメントばかりじゃなく、ちゃんと理解をしてくれているコメントもある。


 だが割合にして8:2で批判のほうが多い。



「なんでだよ……俺、そんなに間違った事したか?」



 そう口走りながら、その理由はわかっていた。


 からだ。


 親がアレルギーだから猫を拾えない高校生という真実よりも、SNSで目立ちたいから自作自演をした痛い奴、のほうが面白い。


 そんな批判コメントがリアルタイムで積み上がっていく光景が面白い。


 そしてもしも本人がムキになって反論でもしてこようものなら、さらに面白い。


 彼らの心理は容易に想像ができたので、反論するのはやめておいた。



「はぁ……いつも炎上してるタレントとかって、こんな気分だったんだな……」



 つい数日前までは「一度炎上してみるのも面白いかも」なんて思った事もあったけど、今となってはそんな事を考えていた自分を呪いたい。



「くそっ!炎上なんて最悪だ!炎上させて喜んでるような奴らも大嫌いだ!!」


『よくぞ言ってくれた。では、力を貸してもらおう』


「へ?」



 いきなり頭の中に女の声が聞こえたかと思った瞬間、気付くと俺は真っ白な何もない空間にいた。


 そしてさっきの声の主であろう、美人の金髪お姉さんが現れた。


 見た目の印象では二十代半にじゅうだいなかばくらいの若さに見えるが、そもそも『年齢』という概念を超越した貫禄のようなものを感じる。


 長いウェーブのかかった美しい金髪に、白くてヒラヒラとしたドレス?のような、ちょっとアジアンテイストの装飾のある衣装。


 まさに美術の教科書にでも載ってそうな、絵画の世界の女神様がこの世に現れたかのような姿だった。



「な、な、な、なんですかこれ!?あなた誰!?ここどこっ!?」


「驚かせてしまい申し訳ない。私はシェインヒールの女神、ヴィアンテ。そなたに我が世界、シェインヒールを救う勇者となってもらうため召喚した」

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