恋とJRと。#21

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2007年夏、私は『ある人のブログを読んで、恋愛三部作を書こうと思った。(正確には、書き留めておこうと思った)』そうです(笑)。

これはその第一部。別ブログからの転載です。

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7月1日、日曜日。私は、JRに乗っていた。


たま~にJRに乗るのは、大好きだ。2時間弱の小旅行。iPodのヘッドホンを耳につっこんで、考えごとをしながらボンヤリと景色を眺めてると、普段は味わえないゆったりとした気分になれる。


しかし、この日。

行き先がまったく同じだったためか、私はちょっと切ない気持ちになっていた。

4年前のある夏の日。やっぱり、私はJRに乗って同じ町に向かっていた。大好きな人に会うために。

すべてがキラキラと輝いて見えた。それが、いわゆる最後のデートになるとは、想像もしていなかった。


楽しい一日が終わって、去りがたい思いで改札をくぐって振り向いた私に手を振ったその人は、とてもやさしい笑顔をしていた。次に会う約束もしていた。

だから、それからちょっと経って「地元に別の人ができた」と聞かされた時は、驚いた。驚いたけど、いかにもあり得るとも思った。物理的な距離が、心理的な距離に影響する。わかりやすい話だ。なぜか、「彼にとって、よい話だ」とさえ思った。

改札で見た笑顔が、最後になった。


突然、終わった。だから、心の準備がなかった。

忘れようとして、ずいぶん努力した。落ち込まないように、いつも何かに痛いくらい熱中しようとした。心に浮かんでどうしようもない時は、相手が幸せになることを喜ぼうとした。本当にいい人だったから、それは難しいことではなかった。ゼッタイに幸せになってほしかった。でも、自分の悲しい気持ちも、拭えなかった。


そのころ、ずっと聴いていた曲がある。「What a Fool Believes」をドゥービー・ブラザーズバージョンで。そして、エルトン・ジョンの「Your Song」。どちらも、その人がカラオケで歌っていた曲。それから、「The Rose」。これは、私が歌った曲。

これらの曲を聴くのを、長い間やめられなかった。


2007年7月1日。あれから3年と10カ月が経っている。

iPodには、「What a Fool Believes」も「Your Song」も「The Rose」も入っていない。ヘッドホンからは、「Desperado」なんかが流れてくる。


あの、最後のデートとなった日、駅のホームに行き先として表示されている地名が意味ありげに光って見えた。きっと、もうすぐそこに住むことになる。人生は思いがけず転換する。そういう名前の町に自分が住むなんて、考えたこともなかったのに。

なじみのなかった土地に住むということが、すべての象徴のようだった。一人が二人になる。人生が変わる。新しい始まりは、新しいところで…。


結局、そうはならなかった。

でも、そうはならなかったことも、今はいい思い出だ。あのあと、彼が結婚したことを聞いた。


彼とのいろんな出来事は、まるで1枚のパノラマ写真になったみたいに、心の中の棚に置かれている。

そこには、ほかにもいろんな写真がある。時々、ふと眺める。特に、こんなふうにボンヤリと車窓の風景をやり過ごしてる時なんかに。

今、それらの写真の中には、見るとちょっと切なくなるものはあっても、泣きたくなるものは1枚もない。


駅に着くと、あの時と同じ改札に、結婚してこの町に住んでから1年になる女友だちが、明るい笑顔で立っていた。

彼女が案内してくれる彼女の町へ、私は新鮮な気持ちで歩き出した。

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