第170話 焦燥

「ええい、一体全体、何がどうなっとるんだっ!」と巨大な腕をした男が怒鳴り散らしている。


 男の視線の先には、縮こまるようにして佇む、異形の動物達。


「百紫芋百紫芋ヒャクシウ様、それが何故このようになってしまったのか我々にも……」一匹の小型の象が答える。動物園の門に居るのと同種のそれは、動物園内に居る他の同族達と通信しつつ、百紫芋に答える。


「だいたい、銀斑猫はどうしたんだっ! あれだけの戦力を連れて出発したのだぞ! 軽く都市の一つや二つ、落とせるだけの戦力だっ。 しかも銀斑猫には鹵獲したスキルつきの装備品まで貸したというのにっ」


 と、その巨大な腕を振り回しながら吐き出すように叫ぶ百紫芋。まるで不安を怒りで覆い隠そうとするかのようなその振る舞いに、周りに侍る異形の動物達も不安な様子を隠せない。


「その朽木竜胆という魔法を使うという男、一人で来たと報告があったから、兎兎亀を向かわせてみれば、なんなんだあれはっ」


 と、窓に近づく百紫芋。その視線の先には無数のぷにっと達が動物園を順調に蹂躙していく様子が見える。


「兎兎亀様の幻覚は破られてしまったのかと……」と、別の取り巻きの動物が答える。


「そんなことは言われんでも、わかっている! それよりも、あれだっ! どう見ても、たかだか、動物型のゴーレムだろ? なぜ、小生の最高傑作達がああも容易く負けるのだっ」と頭をかきむしる百紫芋。


 沈黙を貫く取り巻き達。

 その沈黙を破るように、小型の象が、声を発する。


「百紫芋様、敵がここ、管理塔まで来たと……」


 ぎりっと歯軋りのような音。


「なら迎え撃てよっ!」と言葉使いまで乱れる百紫芋。取り巻き達は無言で顔を見合わせると、我先にと、部屋から飛び出していった。二頭の動物を残して。


 ◆◇◆


 俺はその様子を窓の外に隠れて伺っていた。


 ──あぶなっ。見つかるかと思ったよ。でもまさか、こんな一番目立つ所に居るものなんだね。ぷにっと達の奔流に押し出されるようにして来てみたら、まさかの大当たりか。


 俺は自分の幸運に驚いていた。とはいえ、ここは動物園。人が居住出来るような建物は数個しかない。しらみ潰しに当たっていればそのうち見つけていたのは確実だった。俺が自分で思うほどツイていたというほどのこともない。


 ──しかも他の動物達が、ほとんど出ていったよ。今が、チャンスだよね、これ。


 俺は飛行スキルと重力軽減操作の併用でへばりついた窓の上の壁から、再びそっとホッパーソードソードの刃先を伸ばす。そこに室内の様子を写して確認する。


 ちょうど百紫芋というここの主とやらは背中を向けている。みていると、なにやらごそごそとしている。


 俺が何しているんだろうといぶかしんでいると、くるりとこちらへ振り変える百紫芋。その手には、冬蜻蛉から取り上げたのだろう、第一の喇叭ちゃんのモンスターカードが握られていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る