第165話 園内
ゲートを抜けると、そこは野生の王国だった。
二足歩行の小動物が歩き回り、開け放たれた檻を自由に動物たちが出入りしている。
二足歩行も、四足歩行も、それ以上の足で歩く動物たちもいる。
「ちょっと! 足邪魔よ。どけてちょうだいっ」足元から甲高い声。
「あっ、ごめんなさい」俺は思わず足をどける。下を見るとミーアキャットの一団が通り過ぎて行くところだった。
良く見るとその背中に、人の口がついている。
その背中の口でペチャクチャと互いにおしゃべりをしている。どうやら先頭のミーアキャットが俺に声をかけてきたようだ。そのまましゃべりながら立ち去っていくミーアキャット達。
ぽかんとそれを見送る俺。
「ホッホッ。朽木竜胆殿ですかな」再び声をかけられる。今度は名前も呼ばれて。俺は警戒気味振り向く。
そこにいたのは、亀とウサギのあいのこのような生き物だった。
上半身が亀。下半身がウサギのその謎生物が、俺の返事を待っている。
「そうですが、そちらは?」俺は、丁寧な呼び掛けに、とりあえず敬語で返しておく。例え敵だとしても。
「これは失礼しました。
「え……。はい」と、あまりにもそのまんまの名前に、戸惑う。
そんな俺の反応を気にした風もなく、兎兎亀が話し続ける。
「象右頭から連絡があったときは驚きました。よくぞいらしてくださいました。我が主の元まで、この兎兎亀が案内致しますね」
──連絡? そんな素振りは全くなかったが……。何か特殊な能力か何かかな。まあ、すんなり通れたけど、あのゾウとキリンはちゃんと門番としての仕事をしてたって訳か。しかも俺が門を通ってほぼ即時のこの対応。
と言って俺に背を向け歩き出す兎兎亀。
俺はその甲羅に覆われた背を見て迷う。
──素直について行くか、否か。悩み所だな。この対応だと、銀斑猫が俺たちの事を伝えているのかどうか良くわからない。ただまあ、ここが敵地なのは最初からわかりきっている事だしな。一番警戒すべきは罠がある可能性、か。
俺はここで兎兎亀を攻撃するリスクを考える。周りは今は襲ってこないとはいえ潜在的には敵ばかりな訳で。素直について行くことにする。
俺が覚悟を決めて一歩踏み出した時だった。兎兎亀が背中を向けたまま話しかけてくる。
「ホッホッ。それが賢明ですな」と、まるで俺が攻撃するか検討していたのがばれているかのように。
「我が主は強者には寛大なのですよ」と脈絡もなくそんな事をいい始める兎兎亀。
「……つまり?」と俺はホッパーソードに手をかけながら応える。
「なに、戦闘に関しましては十二分に証を立てられてます。ただ、この兎兎亀もただ案内するわけにもいきませんで。それでどうかこの老いぼれにも、一つその力を見せて頂きたく思いましてな」
「もし、断ったら?」
「ホッホッ。残念ながらすでに始まってましてな。残念ながらお断り頂くのはちと難しいかと。もちろん、この状況から脱して見せて下さっても、合格とさせて頂きますよ」
俺はその言葉に、最大限の警戒をしながら辺りを見回す。
──状況から脱っせない系の何かか?
辺りを見回した俺は驚く。あれほどいた動物達の姿がない。それどころか、いつの間にか動物園内とは似ても似つかない、山のなかにいた。
「ホッホッ。さてさて、それでは始めましょうか」
というの間にか姿が見えなくなっている兎兎亀の声だけが辺りに響いて消えていった。
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