第157話 迫りくるは

 月明かりの中、巻き上がる砂ぼこりで、その姿は明確にはわからない。


 辛うじて二足歩行なのは、何となく見てとれる。


 ──これまで動物系ばかりだったのに、ついに人型が出てきたか。それにしても弾き飛ばされている、ぷにっと達の挙動が変だ。まるで重力が……


 ちょうど雲が月にかかる。そこでハッとする。このままだと、あの敵はネカフェまで確実にくるだろう。


「江奈さんは、子供達の所へ!」


 一緒になって新たに出現した敵を睨んでいた江奈さんは、無言で頷く。二丁魔法拳銃をホルスターにしまい、地面へ降りる梯子に足をかける。


「朽木、負けないでよっ」と、江奈さんが梯子を降りながら。


「ああ、任せて。冬蜻蛉の手がかりも、必ず」と、俺は近づく敵の姿を睨みながら。


 雲から月が現れる。

 もうネカフェの外壁、目の前まで迫った敵。

 急停止し、一層激しく砂ぼこりが舞う。


「ぷにっと達、ストップ!」俺はぷにっと達に制止を叫ぶ。


 砂ぼこりが晴れ、月明かりのした、現れたのは二足歩行の猫だった。足元には真っ黒な革靴。


「やっぱり。それは冬蜻蛉にあげたGの革靴。……革靴をはいた猫?」


「お前が朽木とかいう魔法使いかにゃ?」と、革靴をはいた猫が人の言葉を話す。


「確かに俺は朽木だが、職業は冒険者だっ!」と俺は壁の上から叫び返す。猫に魔法使い呼ばわりされるのは謂れはないと、思わず声をあげてしまう。


「そうかにゃ。まあ、どっちでもいいにゃ。それよりも我のあるじさまからの伝言だにゃ。少女は無事に保護している。仲間になる気があるなら歓迎するにゃ、とのことだにゃ」と革靴をはいた猫は、誰かの声真似風に話す。


 ──いきなり手がかりきたぞっ! 無事に保護されている、か。言葉通りには信じられないが……。それに、普通に考えたらこいつも、そのあるじさまって奴も、白蜘蛛って奴の仲間だよな。


「お前が履いている、その革靴! それは冬蜻蛉の物だろう!」と俺は確証が欲しくて煽りぎみに聞いてみる。


「そうにゃ。今は少女の扱いは捕虜だから武装解除は当たり前にゃ。少女がどうなるかも、お前の返答次第にゃ」


 ──結局、脅迫か。白蜘蛛のやっていたと思われる事から考えても、こいつらも同類だろう。


「そんな脅迫されて、俺が仲間になると本当に思っているのか?」と思わず素直に疑問に思ったことを訊いてしまう。


「我は別にどっちでもいいにゃ。あるじさまは白蜘蛛を倒した実力を買っているらしいけどにゃ。断るなら殺して装備品を奪うだけにゃ」と爪を出し入れしながら応える革靴をはいた猫。


 ──白蜘蛛を殺したことを知られているのか。この革靴をはいた猫は本当にどっちでもいいと思ってそうだ。さて、どうする。こいつ自身は好戦的っぽいが、あるじさまとやらの言い付けは守るんだろう。仲間になる振りだけでもしてみるか? その方が冬蜻蛉に辿り着くのは早そうだが……


「ちなみに俺がお前達の仲間になったとしてだ。俺にも仲間がいるんだが、その安全も保証してくれるんだよな?」


「いんにゃ。仲間になれるのは朽木と冬蜻蛉だけにゃ」と応える猫。


 ──ああ、こいつ、ダメだ。


 俺はそこで気がつく。目の前の相手が、例え人のように二本の足で立ち。人のように言葉を話すとしても。


 決して相容れない存在であるということに。


 その見た目ではない。心が、化け物なのだということに。


 俺は壁から飛び降りる。途中で飛行スキルを発動。勢いを殺し革靴をはいた猫の前に降り立つ。


「俺の返答は、こうだ、猫」と抜き放ったホッパーソードを革靴をはいた猫の鼻先に突き付ける。


「大人しくその革靴を返して冬蜻蛉の居場所を言えばよし。さもなくば、力ずくだ」


 にやーと嗤う、猫。


「やってみるといいなにゃ。使

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