第149話 第一の喇叭ちゃん
「殺っちゃいます? 殺っちゃいます?」第一の喇叭ちゃんとやらが、ぐいぐいと冬蜻蛉に迫っている。
目と口を見開いた冬蜻蛉。迫ってくる第一の喇叭ちゃんから後退りしているのが見える。完全に、ドン引きしたのが伝わってくる。
──まあ、初めてあんなのに出くわしたら誰でもああなるよな。しかしアクアといい、モンスターカードって地雷ばっかなの? さっさと送喚させなきゃ。
俺は急ぎ冬蜻蛉の隣へと降り立つと、第一の喇叭ちゃんとやらを出来るだけ刺激しないように、声をかけようとする。
「ふゆ……」
「いぇーす。沈黙の承認、いただきましたー。さあ、やっちゃうぞー」と俺の話し出しに上書きするように捲し立てる第一の喇叭ちゃん。そのまま片翼の翼を広げ一気に上空へ。
あ、これ。ダメなやつだ。
残された俺と冬蜻蛉は目だけで、共感する。
「逃げるぞ!」「うん!」と冬蜻蛉がホッパーソードを俺に放る。
俺がホッパーソードを掴んだときには、すでに歩道橋から冬蜻蛉は飛び出していた。まっすぐ、ネカフェのある方を目指して。
俺は装備品だけは回収せねばと、冬蜻蛉と逆方向へ歩道橋から飛び降りる。
──放置はまずい。敵に使われる可能性が……。あったっ! あれだな!
まっすぐに離脱を図った冬蜻蛉と、余計なしがらみにとらわれた俺。
命運をわけるのは、いつだってこう言った小さなしがらみ。
俺が新たに鳩もどきから現出した装備品に手を伸ばしたちょうどその時だった。
最初の一つが落下してくる。
それは、燃えている氷。
大気中を燃えながら落下してきたそれは、一筋の炎の軌跡を空中に描く。
それを皮切りに、無数の氷のつぶてが、炎を纏って落下してくる。
それ自体が凶器となり、空を舞う鳩もどきに襲いかかる。
燃える氷の直撃を受けた鳩もどきが、そこかしこでばっと燃え上がっている。
しかしそれは、燃える液体がまとわりつき、燃え続ける、といった感じではない。どちらかといえば、ガス爆発のような様子。
俺は燃える氷を回避しながら、その様子を見て逃げようと試みる。嫌な予感がするのだ。
──これ、もしかしてメタンハイドレートの雹なのか?
俺のその嫌な予想が的中してしまったのか。ただの燃える氷以上の危険がすぐそこまで迫ってきていた。
息が。苦しくなって来たのだ。
市街地を覆う広範囲で降り注ぐメタンハイドレート。落下の衝撃で割れたそれは、一気に、爆発的に燃え上がる。
そうして消費される、酸素。
街全体を覆うほどのメタンハイドレートの燃焼は、その地に生きるもの全てを殺し得るほどの酸素濃度の低下を引き起こし始めていた。
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