第148話 新たなカード

 歩道橋の上の冬蜻蛉と、目が合う。


 ばっとジャンパーをはね上げるように開く冬蜻蛉。

 まるで、くじゃくが羽を広げたかのようなカラフルな姿。

 バサバサとした後、その手には、俺が忘れたホッパーソードが握られていた。

 そのまま大きく手を振るう冬蜻蛉。


「わざわざ届けてくれたのか、冬蜻蛉。危険な真似をしたなっ。……これも俺がスキルの使い方を教えたせいか。あっ」


 俺が叩き落とした鳩もどきが、冬蜻蛉の頭上へ。

 しかし、様子がおかしい。どうも羽をやったのか、ほぼ落下していくだけの鳩もどき。

 俺は、これならいけるかと、カニさんミトンから酸の泡を撃ち込む。

 無事、鳩もどきへ命中。


 ──よしっ! 良かった。酸の泡、散々避けられていたからどうなるかと思ったよ。


 冬蜻蛉の頭上数メートルの高さで、黒い煙となる鳩もどき。

 それは、俺が狙っていた装備品化スキルの発動。この難局の打開に向けて、逆転の目をかけていたもの。さっきまでは。


 しかし、冬蜻蛉が来たことで、状況は一変した。


 黒い煙がまとまり、装備品として現れた何か。それは冬蜻蛉の頭上を越え、歩道橋の向こう側へと落下していく。


 そして、さらにそれと同時に、黒い煙からこぼれるようにして現れたものがある。一枚のカード。


 冬蜻蛉のちょうど手元へとひらひら舞い落ちていくそれを、冬蜻蛉は器用にホッパーソードを握ったまま掴む。


「もしかして、モンスターカードっ!」俺は嫌な思い出が甦る。あれ以来、意識してツインテールウィップを使ってこなかったのも、例の件があったから。


 ──アクアの時と同じなら、鑑定しなきゃ、召喚の文言はわからないはず。


 そう、思っていた。

 手にしたカードを裏返し、目の前まで持っていった冬蜻蛉が、何かを呟き始めるまでは。


 その様子に、沸き上がる焦燥感。俺は全速力で冬蜻蛉の方へと向かう。


「冬蜻蛉っ!! ストッ」


 俺の伸ばした手の先、叫び声の途中で、冬蜻蛉の手にしたカードがぐにゃぐにゃと動き出す。


 真っ白な鳥の羽のようなものが、カードから飛び出したかと思ったら、カードを包み込むようにして球状になる。冬蜻蛉の手から飛び上がった、それ。


 白光一閃。


 羽で出来た玉が、羽を持つ少女の姿を取る。


 真っ白な髪に、真っ白な肌。そして何よりも目立つ、白銀色の片翼の翼。その少女が片手で天に指し、声高々と宣言する。


「いえーい。貴方の世界にエントロピーを御届け。第一の喇叭ちゃん、来ちゃいました~」

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