第137話 冬蜻蛉の願い
「朽木、お願いがあるの」と真剣な表情の冬蜻蛉。薄汚れていた埃も落とし、ぼさぼさだった髪も江奈が整えたのだろう。冬蜻蛉はすっかり年相応の少女の見た目となっていた。相変わらず、ジャンパー重ね着だが。
「僕も、ぷにっと達と物資の調達に行きたいんだ」と、俺のそんな感想に気がついた様子もなく、いいつのる冬蜻蛉。
俺はその思い詰めた様子が気になる。
それもあって、何と答えるべきか、迷う。
──ここでダメだと言うのは簡単だし、常識的に考えてモンスターの跋扈する所に、冬蜻蛉を行かせるのは危険すぎる。ただ、本人はそんなの当然、認識しているはず。何も考え無しに言っているとは思えないんだよな。取り敢えず手段と理由、きいてみるか。
俺はあまり他の子の前では話さない方が良いかと、ネカフェのオープン席の方へ冬蜻蛉を誘う。
隣り合って座ると、俺は椅子を少し冬蜻蛉の方へと向け、口を開く。
「さて、冬蜻蛉。どうして探索に出たいか聞いてもいいかな?」
「僕、思ったんだよ。僕にも力があればって。僕は妹の仇も取れなかった。朽木が来てくれなかったら、あのままきっと僕も、皆も……」とそこでうつむく冬蜻蛉。
「だから、お願い。一生懸命働くから。探索頑張るから。僕に、戦い方を教えてください」と深々と頭を下げる冬蜻蛉。
俺は思わず、きょとんとしてしまう。
──えっ! 思ってたのとだいぶ違うんだけど……。実はかなり衝動的な子なのか、冬蜻蛉って? そういや包丁片手に白蜘蛛に突撃しようとしていたもんな。普段、小さな子達の面倒見ている姿ばっかり見ていたから、俺が誤解していたのか。
俺は改めてまじまじと冬蜻蛉を見る。こちらの返答をじっと真剣な瞳で待つ冬蜻蛉。
──年相応っちゃ、年相応、なのかな。これぐらいの少女のことはよくわからないけど。しかし困ったぞ。取り敢えず、探索に出るのが目的じゃないっぽいけど。問題は俺に、戦い方を教えられるかって所だよな。……いや、無理だろ、これ。
俺は時間稼ぎに状況の整理をはかってみる。
「冬蜻蛉は、戦えるようになりたいってことでいいんだよね。特に探索に行きたい訳じゃなくて?」
「戦えるようになりたい。それに探索にも行きたい。役に立ちたいから」
──おうっ、そうきたか。……どうしよ。
内心頭を抱える俺。
「探索だけど、少なくなったとは言え、モンスターが出るかもしれないよ。危険だ」と軽くとめてみる。
「大丈夫。逃げ隠れするのは得意だから。それにぷにっと達より、僕の方が動ける」と胸を張る冬蜻蛉。
「いや、そりゃぷにっと達は動き、のんびりしているけどさ。ぷにっと達がやられるのと、冬蜻蛉が殺されるのじゃ全く違うよ」
「……ぷにっと達も生きているんでしょ? 江奈が言ってた」と不思議そうに首をかしげる冬蜻蛉。
俺は思わず言葉につまる。確かに倍加のスキルの対象になるのは植物と非生物だけ。それを信じるなら、ぷにっと達は生きていると言ってもいいかもしれない。
「わかったよ」と、押しきられるように答える俺。
「やった」と喜ぶ冬蜻蛉。
「ストップストップ! 戦いかたは、どこまで出来るかわからないけど教えるよ。でも、探索に出るのは俺が大丈夫だって認めてからだから。いいね?」と、俺は釘だけは何とかさしておいた。
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