第131話 反省と新たな仲間達
「さて、朽木。いえ、朽木さん」と目の前にいる江奈がわざわざ俺の名前を言い直す。
「はい、なんでしょう」俺は慎重に言葉を選びながら答える。
「これは、どういう事か、説明してくれるわよね?」
江奈の視線の先には、ネカフェの外でぷにっと達と遊ぶ、ホームセンターから逃れてきた子供達の姿。互いに名前の紹介はしたのだが、ぷにっと達の姿にそわそわしていた子供達はいつの間にか離脱。そして唯一、江奈の前に俺だけが取り残され、今に至る。
「実は……」俺はホームセンターがゴブリンの巣になっていたこと。火をかけ侵入したこと。子供達を見つけたことを洗いざらい聞き出されてしまう。
「なるほど、ね」大きくため息をつく、江奈さん。
「それは確かに放ってはおけないわね。でも、朽木、私たちの今の状況、わかってるわよね?」
俺は江奈さんからの呼び掛けがいつもの感じに戻って、こっそりと安心する。さん付けで呼ばれ始めた時は、これまでに無いほどの威圧感を放っていた江奈さん。
しかし、もともとが可愛いもの好きな江奈さんのこと。子供達を突き放すようなことはないと言う俺の期待は裏切られることはなかった。
「状況、か」俺は一度、頭を整理しようとそこで言葉を切る。
ふと、先程までぷにっと達と遊んでいた子供達を見てみると、なにやら飲み食いしている。
どうやら、ぷにっと達がネカフェから持ち出してきたようだ。俺が倍加のスキルで増やした物やら、見たこと無いものもある。
──あれ、ぷにっと達、ネカフェの中にも出入りしているのかな?
ちょっとその時だった。ファルトを先頭にぷにっと達がとことこと、こちらへ歩いてくる。ファルトの背後にいるぷにっと達は食料らしき物を抱えている。
「あっ、ファルト! その食料って……」
俺はちょうどお腹が空いていたこともあり、気が利くなーと感心しながら手を伸ばす。
しかし、そのまま空振りする俺の手。
ぷにっと達は、缶詰やらビニールに包まれた食料やらを地面に置くと土を被せ始める。
そしてファルトがこちらを向いて、耕すようなジェスチャーをする。
「……倍加のスキルを使って欲しいのかな」手を伸ばしたままの姿勢で問いかける。
嬉しそうにうんうん頷くぷにっと達。
俺はこっそりため息をつくと、妖精の鍬を取り出し、地面へ。
ぶわっと音を立てて、倍の数に増える食料。
すぐさまぷにっと達が地面から掘り起こす。
俺のズボンの裾を引っ張られる。
どうやら別のぷにっと達が、次の食料を隣の地面に植え終えたらしい。
俺は体を捻ると、次はそこへ、妖精の鍬を振り下ろす。
またまたぶわっと増える食料。
くるくると駒のように立ち働くぷにっと達。
その様子を物凄くいとおしげに眺める江奈。
俺は取り敢えず江奈からの追求が止んだことにほっとしつつ、今のうちにと考えをまとめながら、ぷにっと達が求めるままに、機械的に鍬を地面に突き刺し続けた。
果たしてどれくらい鍬を振るったか。オドの強化された俺でもさすがに少し疲労を感じた頃。ようやくぷにっと達の食料攻勢が終わる。
最後にぽんっと俺の手のなかに渡される缶詰め。
俺は缶詰めをしまうと、ずっとぷにっと達を眺めていた江奈に声をかける。
「江奈さん、江奈さん」
「っ! 何かしら、朽木」
「今の状況、の話しだけど」
「あっ! そうね」と、そこで、ふらっとよろける江奈さん。
俺は咄嗟に江奈の肩を掴み、支える。手から伝わる江奈さんの体温が、高く感じられる。
「一度、ネカフェのブースに入ろうか。落ち着いて話した方が良いだろうし。歩ける?」
「大丈夫、一人で行けるわ」と、俺の手をそっとどける江奈。俺は冬蜻蛉に、子供達の気がすんだら、ネカフェのブースの空いている所を使うように告げると、ふらふらとネカフェの中へ向かう江奈の先回りをしようと急いだ。
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