第113話 ぷにっと軍団

「ぷにっと注入っ!」


 俺はぷにぷにグローブを当てていた車から手を離す。

 少しのタイムラグの後、ぼふっという音が聞こえそうな感じで、それは飛び出してくる。


 現れたのは、金属質な見た目で、ファルトと同じ姿をした存在。言ってみれば、ファルトのメタリックバージョンだ。


「よしっ。じゃあ君はあっちの集団と一緒に壁作りに参加してくれ」


 俺はあれからぷにっと注入を、色々な素材に対して行っていた。

 どうやら固形物ならなんでもぷにっと注入出来るようなのだ。自動車にぷにっと注入すると、だいたい車一台で六回ぷにっと注入出来る。そして六体の「ぷにっと」が生まれてくる。

 ああ、「ぷにっと」というのは、ファルト達の仮の名称だ。何もないと不便だったのだが、いい名称が何も思い浮かばず、そのままとりあえず「ぷにっと」と呼ぶことにした。


 色々試して、わかったこととしては、イドの消費はやっぱり結構ある。しかし、イド・エキスカベータを使用していれば回復が追い付く範囲の量。

 それをいいことに、すでに数えきれないぐらいのぷにっとが周囲で立ち働いていた。


 ぷにっと注入して生まれたぷにっとは、その元の素材に準じた体をしている、みたいだ。しかし、完全にその物ではないっぽい。

 ファルトがゴムみたいな弾力があるように、さっき自家用車から生まれたぷにっとは、触ると柔らかい金属といった感触がする。自動車の部品の一部なのだろう。パイプとかが浮き出しているのだが、それも少し弾力がある。


 そして、素材によって、ぷにっと達の性能に、微妙に差があるのだ。

 ファルト達、アスファルト製のぷにっとは、その体の色と見た目が道路その物のため、道路に伏せるとかなり見つけづらい。

 初めてファルトが本物の犬のように四つん這いになり、さらに伏せをした時は思わず二度見してしまった。よくよく見ればバレバレなのだが、ぼーとしていたら気がつかないレベルの同化っぷりに思わず感嘆してしまった。


 町並みの中で、移動可能エリアで考えると、道路の占める割合というのは当然かなり高い。そういうと意味で、ファルト達は隠密行動がなかなか得意なようだ。

 その特性を活かして、ファルトをリーダーに、周囲の探索へ出てもらい、水と食べ物を探してもらっている。ちょうどあちらの見える青黒い一群が、皆アスファルト生まれのぷにっとだ。

 そうしていると、早速、見つけた食品を見せに来てくれる。


「おおっ! レトルトカレーじゃん! こっちはパウチされたパックご飯っ。素晴らしい組み合わせだ。ファルト、わかってるねー」と持ってきたファルトの頭をごしごし撫でる。


「ばうっ!」


 ──すごい、とても一人で探していた時の比じゃない効率の良さだ。惜しむらくは戦闘が苦手、というか攻撃手段がほぼないことだよな


 と、俺はファルトの手や口を見ながら考える。犬のような顔をしているがその口に牙はないのだ。手足も、爪がなくてまるでぬいぐるみのよう。物を運ぶには十分だが、ぬいぐるみのような指は武器をしっかり持つのも難しい様子。


 そんな俺の考えをよそに、撫でられて満足げに探索に戻るファルト。彼らを見送り、視線を移す。


 あちらの一群は、自動車から生まれたぷにっと達。彼らはどうやらファルト達より力が少しだけ強いようだ。どういう仕組みでそうなのかは、よくわからない。

 今現在、ネカフェの壁の補強をしてくれている彼ら。俺は始めて自動車からぷにっとを生み出したときのことを思い返して思わず苦笑してしまった。

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