第86話 流されて

 江奈とミズ・ウルティカの姿が見えない。


 周りを見回す。

 どうやら今居る場所は、半球状のドームのようになっているようだ。そこの側面の壁には、ひと一人ぐらいの大きさの無数の穴。

 穴の所々から、水が吹き出しては止まっている。


「いてて。あの穴のどれかから、流されてきたのか? これはまた厄介だろ……」


 流されている間、もみくちゃにされていて、すっかり方向感覚が狂ってしまった。自分がどの穴から流されてきたのかすら、さっぱりだった。


 俺は落下した際に打ち付けた腰をさすりながら、立ち上がる。

 周囲を調べ始める。


「穴しかない。しかもどれも上向き。おわっ」


 ちょうど覗き込んでいた穴から、突発的に吹き出す水。

 危うく顔面で受けてしまう間際で、何とか頭を引っ込め、回避する。


「あっぶなっ」


 跳ね返った水がチェーンメイルのはしを濡らす。


「うん? この臭いは……」


 俺はチェーンメイルの濡れた部分を嗅いでみる。


「げっ、油だよ、これ。もしかしてここ、上っていくと油まみれになるのか。それで万が一、火とかつけてくるトラップとかあったらって、想像もしたくない……」


 俺は穴を調べるのを諦め、部屋の中央に戻ってくる。


(どうしよう。下手に動くと合流出来なくなりそうだ。でも、江奈さんたちが無事だとも限らないところが……)


 打開策を求め、ステータスを開く。腕装備は新しく手に入れたダークバングルにしておく。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 氏名 朽木 竜胆(クチキ リンドウ)

 年齢 24

 性別 男

 オド 24

 イド 20


 装備品 

 ホッパーソード (スキル イド生体変化)

 チェーンメール (スキル インビジブルハンド)

 ダークバングル (スキル 陰魔法)

 黒龍のターバン(スキル 飛行)

 Gの革靴 (スキル開放 重力軽減操作 重力加重操作)


 スキル 装備品化′ 廻廊の主権

 召喚顕在化 アクア(ノマド・スライムニア) 送喚不可

 魂変容率 17.7%

 精神汚染率 ^D'%

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「この、陰魔法、使えないかな……」


 スキルを持っていると何となくわかる使い方に従って、魔法を発動しようとした時だった。

 背後で響く、何か湿ったものが落下した「べしゃっ」という音。


 とっさに振り向く。


「ミズ・ウルティカ! 良かった無事で……」俺はその尋常ならざる様子に思わず言葉が途切れる。


「くち、き、りんど……に、げ……」目の前のミズ・ウルティカの苦しげな声。しかし、それとは裏腹に、彼女の発する殺気が、膨れ上がる。



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