第81話 天井
俺は今、飛行スキルを使い、怪しいと思ったポイントに来ていた。
江奈達は近くの地上で待機してもらっている。
(そろそろだ。後はまっすぐ上空に行くだけ。他の場所では、一定の高度までしか上がれなかった。このフロアはそういうものっていう認識付けをしたかったんだろうな。)
俺は上昇を開始する。
だんだんと昇れなくなる高度が近づいてくる。
(逆巻く蒼き螺旋の番人のスライムも天井に張り付いていた。召喚の文言によれば、アクアの生まれは巨樹の葉の滴的な何か。それに羽根つきとかげへの嫉妬じみた嫌悪。俺と飛んでいた時はそこはかとなく楽しそうな雰囲気もしたしな。多分、空とか、天井という物に執着があるんだろう。)
他の場所の限界高度を抜ける。
「やっぱりっ!」
天井が見えてくる。
俺は、飛行スキルと重力操作スキルを併用し、そのまま天井に足から降り立つ。
逆さ向きのまま、ゆっくりと辺りを見回す。
一見、仕掛けのようなものは見当たらない。広さは直径数十メートルぐらい。例の靄が壁のようになった円形の空間。
見ていた靄が、だんだんと黒くなっていく。
「!」
次の瞬間、無数の小さい黒いスライムが、靄を突き抜け現れる。円周の全ての靄の中から俺目掛けて飛んできた。
(避けきれないっ)
俺は円形状に泡魔法を張ろうとするが、カニさんミトンを外したままだったことに気がつく。
「あ、やばっ」
俺の全身に、無数の小さなスライム達が叩きつけられる。鈍い打撃音が、連続して奏でられていく。
爪先から頭の上まで、全身打撲状態になりながら、何とか意識だけは手放すまいと踏ん張る。
腕をクロスし、頭部だけでも守ろうとするが、左右に後ろからも容赦のないスライムの本流。
目のすみに、俺にぶつかり、運動エネルギーを失った黒いスライムが天井から下に落ちていくのが見える。
しかし、ほとんどのスライムはまた靄の中へと消えていく。
一瞬の静寂。そしてまた、靄が黒く染まる。
その一瞬の間の間に、イド生体変化で全身を硬化させ、キズも出来るだけ癒す。
これまでの敵とは違い、致命傷にはならない攻撃だが、嫌がらせとしては一級品。
そうしているうちに、黒いつぶつぶスライムの奔流、第二波が襲いかかってくる。
硬化した皮膚で先程よりはダメージが軽減。
しかし、気を抜けば意識を刈り取るぐらいの威力は、まだある。
そうなれば、地面まで真っ逆さまなのは確実。
おれは必死に頭をめぐらす。
(こういう、早くて小さくて、数が多い敵は本当に苦手だ……。どうする、泡魔法で盾を出したとしても、全方位は防げないし。陰魔法はまだ使ったことがないけど、語感的には補助系だろう。後は……)
俺は、第二波も何とかやり過ごす。再びイド生体変化で全身を回復させる。
一部の黒いスライムがまた、落下していくのを尻目に、俺は一つの装備品を取り出す。
その間に、黒いつぶつぶスライム達の第三波。
俺は全身がスライムで覆い尽くされたようになった瞬間、その装備品を強引に振るう。それにあわせて、ありったけのイドを注ぎ込む。
紫電の光が走り、一瞬にして黒いスライム達を焼き付くしていく。
紫電の光は周囲へと拡散し、次々に空中にいた黒いスライムへ通電し、次のスライムへと移動していく。
俺は子供がよく工作で使うようなトンカチを振り切った姿勢でそれを眺める。トンカチ、もといミョルニルからは雷が、断続的に周囲へと放電を行っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます