第77話 集合体

 無数の意思を持った、黒いつぶつぶ。俺は泡魔法で酸の泡を複数つくる。宙に浮かしたそれらを、つぶつぶが濃そうな部分めがけ、打ち込んでいく。隣では江奈の七色王国が火を吹く。


 明らかに、回避の意思を見せ、つぶつぶ達は、俺たちの攻撃を避けていく。もちろん、数匹のつぶつぶには俺の酸の泡が当たり、どろどろに溶かしていく。全部で、十数匹は溶かしたであろうか。

 しかしほとんどのつぶつぶは、攻撃をかわしてしまう。


「数が多すぎて、狙いが定めにくい……」と、思わず漏れる俺の愚痴。


(それでも、倒れた一匹が、装備品化したのが見えた。でも、残念ながらつぶつぶの中に埋もれてしまった。こうなると回収はすぐには無理だろうな。)


 新しいスキルが状況打破に有効か不明な以上、無理をして回収するにはリスクが高すぎる。現状出来る最善を尽くそうと決意する。


「面制圧するしかない、か。」


 俺が意を決して大量のイドを引き出そうとしたときだった。盾の形の泡魔法の応用で、広域範囲型の酸の泡をイメージする。しかし、俺が発動する前に、事態が動く。

 ミズ・ウルティカがゆっくりと、つぶつぶの集合体に向かって歩みを進める。


 即座に援護にまわる江奈。ガンスリンガー同士のあうんの呼吸とも言うべき、それは、的確にミズ・ウルティカがつぶつぶを処理のしにくそうな場所に七色王国を打ち込んでいく。

 地面で蠢き、空間を跳ね回るつぶつぶ達。しかし、七色王国を避ける過程で、ミズ・ウルティカの必殺の領域に誘い込まれていく。


 ミズ・ウルティカの歩みが、つぶつぶ達のいる空間へと到達。そのまま立ち止まったときだった。蹂躙が、開始された。


 銃剣の一振り。

 それだけで、その軌道にいたつぶつぶ達は弾け、死んで行く。

 また一振り。そしてまた、一振り。


 まるで優雅なダンスのようなミズ・ウルティカに動き。しかしそれは無駄を極限まで削減された、虐殺の舞。

 あっという間に個体数を減らされていくつぶつぶ達。


 危機を感じたのか、ミズ・ウルティカに攻撃を集中していくつぶつぶ達。しかし、ミズ・ウルティカは逆に歓喜の表情を浮かべ、銃剣の動きを加速させていく。


 すべての黒いつぶつぶが、切り裂かれたのは、それから僅かばかりの時間がたった頃であった。


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