第27話
さっきのようにまた衛兵が吹っ飛んできたのかと思ったが、今度は人ではなかった。
シルエットは人の数倍大きく『十』の形をしている。
翼を広げた鳥――例の飛行型のオドだ。そいつが翼をひるがえして広場に向けて降下し始めた。狙いをつけたのは獲物は――
「リルハ、上だっ!」
屋根に上ったリルハもそれに気がついた。
勢いをつけ掠めるように頭上を通りすぎる大きな魔鳥にリルハはバランスを崩し悲鳴を上げて屋根の傾斜を転がり落ちていく。「ヒゃッ!」という尻尾を踏まれた猫のような悲鳴だった。
彼女を受け止めようと昂雅は一歩踏み出し、上からの気配ですぐに後ろへ飛び下がった。
そこに勢いよく翼を持つオドが着地してきた。衝撃で砂ぼこりが舞い篝火が大きく揺れる。
昂雅の鼻先二メートル。そこにドリルのような尖ったくちばしがあった。
足先以外は黒い羽毛に覆われており、鷹か鷲のような雄々しい顔をした怪物だ。
体の大きさ自体は昂雅とさほど変わらなかったが、翼が片方だけでも三メートル近い大きさがあった。
広げた両翼の長さは七メートル。この広場の端から端まで届く大きさだ。
そばで篝火が燃えているというのにオドの体はその光を吸い込んでいるのか真っ黒なまま。まるで風景の中に黒一色の立て看板を置いているようだった。
鳥型オドは前傾姿勢で昂雅を睨み付けると甲高い奇声をあげ、石畳を叩きつける勢いでその大きな翼を振りおろした。
全身からあの黒いオーラが吹きあがり、翼を中心に風が巻き起こった。かなり強い、砂埃を大量に含んだ突風だ。
積まれていた木箱が崩れ、壁に立てかけていた丸太が派手な音をたてて石畳の上を転がっていく。
昂雅は両腕で目元を庇いながら、突風を真っ向から受け止めて、目は閉じずオドの動きを見据えていた。
攻撃につなげてくる様子は無い。威嚇だけの動作だ。
転落しかけたリルハは屋根の縁にぶら下がり梯子へ脚をかけている。とりあえず大丈夫のようだ。
昂雅を案内してきたシシルも素早く路地に隠れ、森でやっていたように手にドングリのような首飾りを巻き付けてこちらを覗き込んでいる。
シシルが教えてくれたのだがあの首飾りは『魔除け』ならぬ『オド除け』らしい。
リルハもシシルもそれを首にぶら下げている。戦っている街の兵士たちも装備しているだろう。
今戦っている者たちのなかでこれを身に着けていないのは昂雅だけ。この鳥型オドの標的は屋根の上のリルハではなく最初から昂雅だったようだ。
願ったりだ。
こいつの他にオドはもう一体いる。そして死神の使い魔ともやり合うことになるかもしれない。
「手早くいくか」
昂雅は胸の前で両腕をクロスさせるとその動作に反応してオドが威嚇の声をあげた。
その甲高い声を打ち消すように向こう側の通りからも野太い咆哮が響いた。
ビクッ! とオドが顔をそちらに向けた。
昂雅も思わず視線を向けた。
その視線の先でリルハのいる三階建ての家屋が大きく揺れた。
轟音を立てながら家が目で分かるほど大きく振動している。屋根の近くにいたリルハが悲鳴をあげて梯子にしがみつくのも見えた。
一瞬、地震かと思ったが揺れているのはこの家屋だけ。
その家がまた鳴動し、一階、二階部分の壁が内側から破裂した。
吹っ飛び散乱する無数の木片がショットガンのように広場の石畳と向かいの建物の壁を打ち付け、窓から顔を出していた住人たちが大慌てで頭を引っ込める。音に驚いた子供の泣きだす声も聞こえた。
昂雅は素早く退き破片をかわしたが、オドがいくつかの破片を受けて空いた壁の穴へ攻撃的な奇声を放った。
壁の穴は直径四メートルほど。
その大きな横穴の中に、穴より大きな異形がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます