少女の力

 名前:シャナン

 性別:女性

 レベル:1

 クラス:????

 ステータス

 体力:2

 知性:4

 筋力:12

 魔力:54

 精神力:40

 魔法

 未習得

 スキル

 ????

 異常耐性

 威圧

 ????

 ????

 明日への希望


「レベル1でスキルが六つもありやがる。おまけに上位スキルの“異常耐性”に“威圧”持ちかよ。なんなんだ、お前?」


 スキンヘッドの男は驚きの色を隠せず、少し上ずった声で話を続ける。


「ん?見えねぇスキルもあるな。このプレートじゃ表示できないってことは最上位スキルみたいだな」


 “最上位スキル”……その言葉につられて皆がシャナンのプレートを見る。その記載内容に一同は驚きを隠せなかった。


 シャナンも遅れて皆の背後からプレートを覗き見る。少女は何も意識せず渡していた自分のプレートを見て、改めて違和感を覚える。


「あれ?前見た時より書いてある文字が少ないよ」

「あん?なんだ、嬢ちゃん。前にも一度ステータスプレートを使ったことあるのか。まあ、組合のプレートは分析アナライズレベル1程度しかないからな。隠れたステータス、適性や成長率それに上位スキルの一部なんかは出てこねぇんだ」

「ふーん、そうなの?だからエクストラスキルとかいうのも見えないのかな?」


 その一言に一同が驚愕の声を上げる。


「「「なにぃ!エクストラスキルだと!」」」


 突然の大声にシャナンは身をすくめる。シャナンは何か変なことを言ったのか少し不安になった。


「な、何…私、何か変なこと言ったの?」

「い、いや、変なことではありませんよ。むしろ本当ならば、とてつもないことです」

「ええ、エキストラスキル持ちなんてね…」

「さっすが、シャナンだな。勇…ムガ」


 不用意な言葉を発しようとしたルディをトーマス達が口を塞いで部屋の隅まで引きずっていく。


 スキンヘッドの男は呆気にとられてその光景を見つめており、一人残されたシャナンは苦笑いでその姿を見送っていた。


「なんだか大変だな、あんたら。しかし、嬢ちゃんよ。もしエクストラスキルを持っているとしたら、とんでもねぇ素質があるぜ。普通はレベル80を超えた上位クラスの奴が持っていれば上等って代物だ。一体、どんな能力だったんだ?」

「分かんない…私には難しくて読めない文字だったの…」


 シャナンは男の言葉に少し残念そうに答える。男は少女の姿を見て“然もありなん”と感じる。


「難しい文字ねぇ……上位のスキルほど能力が複雑だし、子供にゃ難しい言葉を使っていてもおかしくねぇ。まあ、大人になって知恵がつけばわかる様になるさ」

「うん、私、もっと勉強するね!」

「こりゃいい。期待の星だな!」


 シャナンの元気な受け答えに男は呵々と笑う。その笑い顔を見て、男は強面とは裏腹に気のいい人なのではないかと、少女は思い始める。機嫌の良さそうな男は更に話を続ける。


「それに見な、スキルだけじゃねぇ。ステータスも凄いぜ。力関係のステータスは年相応だが、魔法関係のステータスはレベル1とは思えねぇな。クラスが見えねぇってことは、上位クラスか固有クラスかも知れねぇな。このプレートじゃ、そう言ったモンは見えねぇんだわ」


 自信が褒められていることに少女は感じ入り、段々と嬉しくなってきた。少女は自分の考えが誤っていないと確信し、自身のことを更に尋ねる。


「おじちゃん、私ってそんなに凄いの?」

「ああスゲェぜ。もしかすると、英雄(チャンピオン)の素質があるかも知れないな」

「チャンピオン?凄いの?それ?」

「ああ、凄いぜ。勇者の次に強ぇ人間最強のクラスだ。勇者は召喚された奴しかなれないが、英雄チャンピオンはこの世界の人間がなれる最上位クラスだ」


 男が熱っぽく語る。子供とは思えない能力を持つ冒険者の原石を見つけたことで、期待が彼の心を躍らせたのだろうか。


「おっと、いけねぇ。冒険者の手続きだったな」


 男は自身の役目を思い出したのか、書類に何やら書きつけ始めた。一通り書き終わると男はシャナンに話しかける。


「……よし、これで、嬢ちゃんも立派な冒険者だ。頑張れよ!」


 男が手渡した書類を見ると、この世界の文字でシャナンたち全員の冒険者登録が完了した旨が書かれていた。


 これで”自分が冒険者かぁ“と思ったシャナンは少し心が躍るような感じがした。その少女の姿を見て、男がバツの悪いような顔をして話を紡いだ。


「……あぁ、あと。ガキって言って悪かったな……気を悪くしないでくれ。俺はどうも口が悪くていけねぇ」

「うん。おじちゃん、見た目は怖いけど、良い人みたいだもん。許してあげる!」


 シャナンはやはり男が良い人と再認識した。お互いの目を見てニッとした後、二人はカラカラと笑った。


 その二人に近づき、ぐったりしたルディを抱えたトーマスが男に話しかける。


「これで、冒険者の登録は終わりですか?」

「ああ、晴れてアンタらは冒険者だ。この後、ダンジョンに行くんだろ?水薬(ポーション)なら組合で安く買えるぜ。あと、武器なら鍛冶屋のボルボックス、野営道具や雑貨なら道具屋のシールの所に行きな。これが紹介状だ。アイツらは教えたがりだ。新人には冒険のイロハを教えてくれるぜ」

「うん!ありがとう。おじちゃん!」


 シャナンが手を振って別れを告げる。立ち去るその後ろ姿にスキンヘッドの男が思い出したかの様に声を掛ける。


「嬢ちゃん、いや、シャナン!……言い忘れていたことがある」


 なんだろうと思い、シャナンが振り向く。男はシャナンの顔を見て言い辛そうに次に続く言葉を訥々と告げる。


「これは俺が冒険者になった奴にいつも言っていることだが……“死ぬんじゃねぇ”ぞ…シャナン」


 その言葉の深い意味を理解せず、口の悪い男がただ心配してくれただけと思った少女は、大きな声で“またね”と応えた。


 ─

 ──

 ───

 シャナン達が去った後で、スキンヘッドの男がパラパラと本をめくる。


 この男、実はこの組合の長であった。普段は領主との交渉から大規模討伐の指揮までこなすオカバコを代表する冒険者の一人であり、本来は組合の奥でドンと構えているはずであった。

 だが、シャナンが訪れた当日、受付係が急用で早退したため、偶然にも組合長である彼が仕方なしに代わりをこなしていたのであった。


 この男、組合長がめくっている本はスキル名鑑という、古今東西のスキルが載っている辞典であった。


「“明日への希望”ねぇ…見当たらねぇな。ありゃぁ、ユニークスキルかもな」


 ──ユニークスキル────

 それは勇者を頂点としたその下の十の上位クラス──英雄(チャンピオン)竜騎士(ドラグーン)、剣聖(ソードマスター)、鬼武者(イーストガーディアン)、忍者(ダークストーカー)、 賢者(セイジ)、大魔導士(ソーサラー)、神霊術師(ゴッドハンド)、喚者(インヴォーカー)、理知者(ワンダラー)──それに上位魔族が保有している特殊なスキルである。ユニークスキルは一代限りのスキルで個人の性格や生き方が色濃く反映され、他人が同じスキルを覚えることは、ないとされている。


 重い辞典を閉じ、男は天井を仰ぎ見てボソリと呟く


「勇者……かもしれないな。召喚に成功したと噂があったが、あんな小さい娘がなぁ。世知辛いぜ」

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