恐怖の威圧
耳をつん裂くような声が聞こえ、思わずシャナンは耳を塞いだ。
「マズイわね…リーダーが何か指示を出したみたいよ。何らかの動きがあったと思うわ。急ぎましょう。シャナン!」
だが、先を急ぐシャナンたちの前に突然、
二人を驚愕の瞳で見つめた猿は一瞬戸惑い、動きを止めた。しかし、状況を理解したのか、声を挙げて仲間を呼ぼうとした。
「……キ……」
「ッフ!」
猿が声を挙げる間も無くセシルが口を塞ぎ、持っていた短剣で喉を搔き切った。血が吹き出てセシルの顔に掛かる。
「ヒッ……」
シャナンが小さく声を漏らす。
今まで倒した魔物とは違い、
日本で生まれたシャナンは動物を殺す、ということに精神的な抵抗があった。平和な日本では殺し・殺されるという事態はほぼ起きない。スーパーで売っている切り身の鶏肉や魚が、その姿になるまでの過程を詳しく知るものはそうはいない。
また、古来より”死“を避けてきた日本では、動物であろうと”死“を感じる行為は社会的に忌諱されてきた。平安時代の貴族は道に犬の死骸があれば物忌として外出を取り止めるほど、死へは敏感であった。昔からの隠れた因習なのか、現代に生まれたシャナンも無意識に死を忌み嫌っていた。
散々植物や昆虫の魔物を殺したシャナンの考えを勝手な都合と思う者もいるだろう。だが、無機質に感じる植物と昆虫は彼女の中では別物と捉えられていた。
「…行きましょう。シャナン」
「……うん」
先ほどまで生きていた猿の亡骸を一瞥し、シャナンたちは
二人がある木の根元まで辿り着き、樹上を見上げる。そこには先ほど
「少し狙いづらいわね……もう少しこちらの方に向いてくれれば…」
セシルが狙撃の機会を伺い呟く。シャナンは先ほどの遭遇のような事態を避けるため辺りを見回す。
その時、トーマスたちの方角から大きな声が上がった。二人はハッとしてその場所を見ると、トーマスたちに多数の
「…マズイわ。もうグズグズしていられない。一か八かやってみるわ」
覚悟を決め、セシルが樹上に弓を構える。弓で上空の敵を射るのは高い技術を必要とする。重力による推進力の減衰を考慮し、且つ本来の姿勢とは違うように体を傾倒して放つ必要があるからだ。
「世界の理に掛けて…」
セシルが精神集中のためか何かを呟く。キリキリと弓を引き絞り力を込める。シャナンも上空の敵力強い目線を送る。
しかし、セシルが渾身の一撃を放とうとした瞬間──相手と目があった──
それは本当に偶然であった。
「!……しまった!」
セシルが自分の失態に声を挙げる。弓を放つより相手の動きが早い。
─"避けられる"─セシルは絶望感に包まれた。
だが、本当に“しまった”のは
この瞬間、シャナンのスキル”威圧“が発動し、"
最初からこのスキルを使用していれば、
だが、今回はセシルと視線を合わせ、敵対する相手を射抜く強い視線が形になり、スキル効果が発動したのであった──
「ウキャー!!」
取り乱した
「チャンス!」
セシルが放つ矢が
急に長の気配が消えた
突然、セシルが大声を挙げて猿たちの注意を引きつける。猿たちが見るその先には息の根が止まった
「キャーキャー!」
「……た、助かった」
死ぬ思いをしたトーマスたちが安堵からその場にへたり込む。
「トーマス、ルディ、カタリナ!だいじょうぶ?」
三人に駆け寄り、シャナンが心配の声を掛ける。三人は答える代わりに手を挙げて無事を伝える。
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