第9話 お買い物【前編】
と、いうハイル国王の依頼で私は今城門前に来ている。
この世界に来ているプレイヤーは『引きこもり』『社畜』『鬱病』『心中未遂経験者』『イジメ被害者』などなど。
「基本的にプレイヤーさんは病んでおられますわ」
とキャロラインが笑顔で言っていたので、そりゃそうでしょうよ、という表情で応えた。
だってブーメランになるから言葉には出せないわ。
そうして少し待ってると、一人の騎士が近づいて来る。
赤い髪をポニーテールにした、プレイヤー。
持ってるのは槍。
「えーと、あんたが新規プレイヤー?」
「シアです。はじめまして」
チャラそう。
第一印象はそんな感じ。
紫の瞳。
私も大概変な色だけど、この人は普通の感覚のプレイヤーなんだな。
すごいイケメンにアバター作り込んでる。
「俺はルーズベルト。この国の騎士見習いだ!」
ウインクどうも。
……見た目通りの人っぽいな。
というか。
「騎士、見習い……なんですか」
「ああ。あんまり真面目にやってなくてさー。でも別に怒られないしいっかなーと思って」
「…………」
「でも、あんたよりは戦えるぜ☆」
「………………」
今語尾に星マークかなにかついた?
いいや、無視しよう。
「そうですか。じゃあ護衛よろしくお願いします」
「え、つめたーい? シアちゃん、ネカマだったりする?」
「…………」
え、えぇ……? 最初に聞く事が、それ?
「……違いますけど」
「マジ? じゃあリアルに女の子⁉ 実は現役JKだったりしてー?」
「……あの、町に案内してもらって良いですか?」
「あ、ごめんごめん! さあ行こうー!」
……なんなのこの人。
本当にこの人も自殺志願者のプレイヤー?
ヘラヘラ笑って、気持ち悪い!
悩みなさそうなのになんでここにいるの?
嫌だなぁ……もっと大人しめな人が良かったな。
今から頼めば替えてくれるかな?
「この町ってお城を中心に五本の大通りがあってさー。あ、星型? うん、星型のイメージ! 大通りのうち四本の通りは商業区に面してるんだ。それ以外が民家かな。で、残りの一本は一ヶ月に一度市が開く! その他に生産系のお店が並んでる。今から行くのは武器屋や防具屋のある商業区ね!」
「……はあ」
地図で見た通りか。
地図……うん、冒険するなら地図は必須よね。
アイテムボックスは通行証しか入ってないし、メニューにも地図はない。
普通なら斜め上とかに表示される地図もないから、多分地図は自分で購入しないといけないんだろう。
難易度高い。
という事は……財布、地図、あと、装備はあまり高くないものを買って節約。
旅に必要なものといえば水や食料だと思う。
あと、やっぱり野宿とかするのかな?
だとしたら寝袋? テント?
チャッカマンとか?
うーん、さっぱり分からない。
「あの、旅とかした事ありますか?」
「ないよー!」
…………使えない。
この人はアテにならないな。
「……というか商業区に来るのも初めてだし」
「え?」
「ゲームを始めてから一番安全な下町の施設にいたんだー。いやぁ、でもさすがに半年引きこもってたらなにかしたくなってさー。お城の人に相談したら、騎士見習いはどうかって勧められたんだよー。町から出なくて済むし、真面目にやらなきゃ『騎士』に上がらなくて済むし!」
「…………」
明るい笑顔でなに言ってるの、この人……。
でもそうか、キャロラインが言っていたのはこういう事なのか。
確かに『暇は人を殺す』って思ってた。
この人は引きこもりが暇を持て余して出てきたものの、全然真面目に働けてない結局働いてる気になってるだけの引きこもり!
「あ、ここが商業区だよ」
「……わあ……」
思っていたよりも賑わいがある。
武器屋さん、防具屋さん、装飾品屋さん、雑貨屋さん……。
まずは雑貨屋さんかな。
財布と地図を買わないと。
お店の人に旅に必要なものを聞けば、分かるかな?
「やっぱりまずは武器屋だよね!」
「いえ、雑貨屋へ行きます」
「ふぁ⁉」
店先に色々なものが並ぶお店に入る。
『チーカのアトリエ』と、看板が出ていた。
中に入ると綺麗なお姉さん。
茶色い髪を後ろでお団子にまとめ、柔らかな印象のお化粧。
ん? 頭の上のカーソルが緑色……これって……。
「いらっしゃいませ。あら、新規プレイヤーさん?」
「「プレイヤーだ!」」
「ええ、そうよ」
ルーズベルトさんと声が被ってしまった。
というかなんでルーズベルトさんも驚くの?
あ、ハイル国王が「買い物の仕方を教えてあげてくれ」って言ってたし、引きこもっていたと自白しているから、お店に入った事なかったのね?
「はじめまして、私はチーカ。この雑貨屋さんの店主よ。なにをお求め?」
「……あ、ええと……お財布と地図を……。それから旅をするのに必要なものってどんなものがあるか教えてくれませんか?」
「! まあ、あなた冒険者を選んだの? すごいわね」
多分私の格好を見てそう思ったんだろう。
でも、私の方はチーカさんのお店の方がよっぽどすごいと思った。
「いえ、チーカさんの方がすごいと思います。キャロラインから王都にお店を出すのはすごく大変だって聞いたので!」
「! キャ、キャロライン様にお会いしたの?」
「え?」
「えええ! シアちゃん王妃様に会ったの⁉」
「え?」
え? ……え?
キャロラインは、新規プレイヤーのお出迎えが仕事……って言ってましたけど? え?
「すごい。なんという強運……」
「え?」
「いいなぁ! 王妃様にお出迎えしてもらえるプレイヤーってなかなかいないんだよ⁉ 大体はその部下のNPCが対応してて……」
「ええ、私の時もそうだったわ。キャロライン様にお出迎えしてもらえる人はレアなのよ? 噂だとアバターを作る時のアバター素材が増えるとか! レアなアバター素材が入るとか!」
「そうそう! どうなの、そこんとこ! アバター作る時にどんな素材があったか教えてよ!」
「え、ええ……? そ、そんな事言われても……」
なにかグイグイと顔を近づけられる。
確かに種類はかなり多かったように思うけれど、それがなんなの?
アバターって顔立ち以外は後から自由に変えられるって言われたわよ?
「見せて見せて!」
「見たい見たい!」
「……じゃ、じゃあ、はい……」
ステータス画面を開いて『メイキング』を選択、開示する。
ステータスって、他人からも見えるの?
「閲覧申請!」
「え?」
「あ、許可ちょうだい。そうすると一定期間人のステータス画面を見えるようになるの」
「あ、はい。許可」
やっぱり普通は自分にしか見えないのか。
許可を出して、手持ちのアバター素材を見せると……ふ、二人の顔がなんか怖い事に……?
「す、すご! なにこれ三百種類以上ある!」
「うそー! キャロライン様にお出迎えしてもらうと多いって聞いてたけどこんなに多いのおおぉ⁉ ああぁ! うら! やま! しいいぃ!」
「…………」
チーカさん、出会って三分で外見と中身のイメージが乖離した。
「私がこの顔にたどり着くまでどれほどの苦労を積み重ねた事かぁぁぁ!」
「え、あ、な、なんかスミマセ……?」
「うわぁ、色味まで自由に変えられるんだ? 俺の時はなかったよ〜?」
「え? そ、そうなんですか?」
「お化粧アバターを重ね合わせ、ようやく理想の顔に近づけた私の努力!」
「え、あ……な、なんかスミマセ……」
え? あれ? カスタマイズ可能って言ってなかったっけ?
でも、なんか言うともっと怖い事になりそうな予感がするから飲み込んでおこう……。
もしかしたら最初だけの機能なのかもしれないし?
カスタマイズ可能=髪の色や目の色の変更の事、とかかもしれないし。
「……いいなぁ、大事にしてね、そのアバター素材。あーあ、アバター素材の売買機能とかつけばいいのに〜」
「それはないって言ってたよなー。リアルでそんな事出来ないだろって一蹴」
「美容整形とかあるじゃない〜。……まあ、化粧アバターを重ねれば理想の顔にはなれるけど……その苦労とアバター素材を集める労力とお金〜」
「…………」
なんか大変なのか。
そうか。
黙っておこう、話が長くなりそうだから。
でもアバター素材って集めるものなのね。
キャロラインに出迎えてもらうとこんな特典がついていたのか。
私ってラッキーだったんだ。
…………まあ、ラッキー、だったかな、確かに。
この世界に来て最初に出会ったのがキャロラインで良かったって、本気で思うもの。
アバター素材の事を抜きにして。
「あ、あの、財布と地図を……」
「あ、ごめんそうだったわね! お財布はこっち、地図は……どのサイズをご所望? 世界地図は高いから『エレメアン王国』にする? それとも『中央大陸』?」
「えっと、先に財布を選んでも良いですか?」
「じゃあ用意しておくわね」
「ありがとうございます」
奥の棚の三段目。
そこに手作りらしい財布が並んでる。
可愛いのからカッコいいデザインまで、多種多様だ。
それに形もがま口から折り畳みまで。
……がま口。
「がま口財布可愛いですね」
「でしょう? 私のスキルで声に出した金額や指定した金額以上は出てこない仕様になってるの!」
「わあ! それは助かります!」
今ポシェットに入っているお金は、袋から出して選ばないといけない。
まだ千円も五千円も硬貨、という状況に慣れてないから、それは助かる。
「ねぇ、ねぇ、シアちゃん……なんで真っ先に財布? 普通は武器じゃないの?」
「え? お金は財布に入れないとジャラジャラうるさいし、危ないし、重いから財布は最初に買っておいた方が良いって言われなかったんですか?」
「え? 俺は言われなかった、けど……」
え? あれ?
「私も言われなかったわ。きっとキャロライン様だったからじゃない? 王族のNPCは特別なAIを積んでるから、他のNPCより人間みたいだって聞いた事があるわ」
「そ、そうなんですか……」
キャロラインって、本当にすごい人だったんだ?
私本当にラッキーだったんだなぁ!
「私も盗賊に襲われて全財産盗られてから財布買ったの。本当、最初に買っておけばと……! だから作ったんだけどね!」
「そ、そうなんだー……」
「そ、そうだったんですか。そ、その失敗をバネに、こんなに可愛いお財布が生まれたんですね!」
「そうよ!」
キラン! と、チーカさんの目が光った気がする。
転んでもただでは起きない。
見事な商売魂を見たわ。
「では、これをください」
選んだのは肉球のデザインが入ったがま口財布。
ピンクの肉球が可愛い。
「はーい。三十円になります」
「!」
安い!
あ、けど物価は現実よりも安いって言ってたっけ。
ポシェットを開けて、その中の布袋から千円硬貨を取り出す。
中身は全部千円の硬貨。
それを手渡すと、お釣り硬貨を渡された。
五百円と、百円が三枚。
もともと硬貨の千円以下は分かりやすいな。
「早速使わせて頂きますね」
「ええ、もちろん! もし良かったら使い心地とか教えてね」
「はい」
商品に対する使用者の声ですね。
では早速、ポシェットの中の布袋の中身と、今お釣りでもらった分をぺーい、とがま口のお財布に投入!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます