第5話 VSキラーマンティス(改稿済)


 ゴブリン村を出て、暫く。

 俺は村から東に位置する山を登っていた。

 名前とかは特にないらしい。

 だが、判別に困るからと個人的にゴブリンの山でゴブ山と呼ぶことにした。

 

 ……もしゴブ山って奴がいたらどうしよう? てかゴブ郎がいるんだからゴブ山もいるよな多分。

 んー、まぁいいか別に。


「そろそろ村長が言っていた位置だと思うんだが……可笑しいな。そんな暴走した緑色の二鎌にれんモンスターなんて見当たらないんだが」


 いや、ずっとそこにいるって方が可笑しいか。

 暫くここら辺を彷徨さまよってれば多分出てくるでしょ。

 そういえば、キラーマンティスって東方語で殺人カマキリって意味になるんだけど……大丈夫かな? 

 てか、西方語が使われてるってコトはここ100年後の西方大陸なのか?

 転移前にいたバロン王国は中央大陸なんだけど……。

 ってことは、100年の時間を渡った衝撃で着地点がズレたのか? 爺さんが滅んだとか言ってたから、あの仮称暗黒洞窟が円形闘技場跡地なのかとか思ってたが。

 

 そんなコトを考えながら、辛抱強く森の中を彷徨ってみたのだが……


「広い、広すぎるッ! ってか、早く出てきてくんねぇかな? もう腹減ったよ」


 既に日も暮れて、辺りはオレンジ色に染まっている。

 そして俺の腹では、グーグーと腹の虫が鳴いている。

 そういえば、先生が腹減った時にお腹の虫がどうたらって言ってたから俺も使うようになったけど、なんで腹の虫なんだ?

 本当に腹の中で虫が鳴いてるのか? だとしたら……

 

「おろ゛ろ゛ろ゛ろ゛!!!」


 やべぇ、メチャクチャ気持ちワリィ……。

 想像力があるって、こういう時困るんだよなぁ。


「あ゛ー、やっちまった……くっさ」


 何故あんなにも鮮明に映像が浮かびやがるのか。

 思わず吐いちまったじゃねぇかッ! 


 ってか、そういえばどれぐらいのサイズなんだ? キラーマンティスって。


「キョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョ!!!」

「んあ?」


 突如として聞こえてきた奇声の方へ振り向く。

 するとそこには……


「ほああああッ!? で、デケェェェ!?」


 身体中に薄緑のひびみたいなのが走った、巨大カマキリがいた。

 あれ、でも……あの線は一体? いきなりの登場にビビりつつ、俺はその場から飛び退いた。

 さっき吐いたばかりだからか(いや、確実にそうなのだが)、若干の体調の悪さを感じながらも己の内に生じた疑問を解消する為、巨大カマキリの鋭い鎌による攻撃を避けながらその身体をくまなく調べる。

 最低限の動きで避けるコトを心掛けている為、ちょくちょく避けきれなかった鎌の切っ先が頬を傷付けたりするが、かすり傷なんて気にしない。

 放っておけば治るからだ。

 それよりも、今重要なのは何処かにある筈のひびの源流を見つけること。

 

「ん?」


 見つけた、薄緑のひびみたいなのの源流っぽい所。

 そこには……短剣が刺さっていた。

 それも、明らかになんか呪いありますよーみたいな見た目の。

 これは……ふ、勝ったなッ!!


「ぬあーはっはっは! これ以上暴れるのはこの偉大なるウィリアム様が許さん! しかし俺様は出来る限り殺しはしたくない、よって助けてやることにした! 大人しくしろ、直ぐにソレを抜いてやる!」


 フフフ、決め台詞もクールに決まったんじゃあないか? これで、俺もグレートでクールなヒーローに一歩近づいたなッ!  

 

 ……よし、決め台詞も言ったしさっさと巨大カマキリを助けてやろう。

 多分アレが刺さってるから痛くて暴れてるんだろうし。

 分かる、痛いと暴れまわりたくなるよね。

 例えば小指をどっかの角にぶつけた時とか! アレ痛いんだよなぁ地味に。

 日常生活で不意に訪れるから戦闘中と違って痛みを耐える覚悟を決めてないから余計痛いんだよ。

 つい床とかでゴロゴロ転がりまくっちゃうんだよな。

 そんで挙句の果てにその辺にとりあえずでたたんで積んでおいた洗濯物とかぶちまけて結局もう一回たたみ直すコトになるんだよな~うん、あるある。

 

 何故俺がこんなにのほほんとしているか? 爺さんから聞いた話によると、そこまで被害は酷くないらしいからだ。詳しくは聞いていないがな。

 死者とかが出てるなら流石にこんなちんたらやっていない。


「んぐッ!? ぬ、抜けないだと!」


 短剣の柄を左手で軽く握り抜こうと試みるが、ダメだった。

 いや……サクッと抜けるだろうとか考えていたから、あまり力を込めていなかっただけだ。グレートでクールなヒーローはこの程度でへこたれはしないのだッ!

 つまり、皆に愛される人気者なヒーローを目指すこの俺も、この程度でへこたれてはならんのだッ!


「ソイヤーッ!」


 絶対に成功するよう両手で強く握りしめ、引き抜く。

 二度の失敗はダサいと思ったからだ。


「よっしゃ抜けたぁッ! ぬあーはっはっは! ふっふっふ、やっぱこの俺様が本気になればこの程度余裕なんだなッ! てか、カマキリ君大丈夫か?」


 抜いた短剣をとりあえず地面に置いて、カマキリに右手を差し出す。


「うん、もう平気。ありがと人間」


 え……え? 言葉が、分かる? 俺ってば、いつの間にかカマキリ語まで使えるようになってたのかー。いやー、流石俺ッ! ……なんて冗談はさておき。

 マジかカマキリ……お前、喋れんのかよ。


「喋れたの?」

「うん。魔物は皆喋れるヨ……唯の動物は無理だケド」

「へぇ~、そうなのか。なんでなんだ?」

「さぁ、僕も分からなイ。魔力のおかげカナ?」

「ふーん、まぁいっか。とにかくカマキリ君!」

「なに?」

「もう無闇に暴れちゃダメだぞ! 山の麓に住んでいるゴブリン達が困っていた」

「それは……御免なさイ。あのナイフ、凄い痛くテ。それにずっと聞こえるんだヨ……殺せ、壊せっテ。だから僕、あの声を聞かないようにずっと叫んで暴れてタ……。そんな時声が聞こえたんダ。何故かは分からないケド、気付いたら僕は君に向かって走り出してタ」


 む、やはりあの短剣が全ての元凶か。

 あの薄緑のひびもすっかり消えてるみたいだし。

 

 てか、声が聞こえたって……もしかしなくても俺の嘔吐音だよな? もしあの時吐いてなかったらカマキリ君は出てこなかったかもしれねぇってコトか?

 うわ~、ゲロから始まる友人関係とか……なんか嫌なんだけど。

 

 ……うん、考えないようにしよう。

 過去の俺に良くやったぞと内心で一言吐き捨てた後、俺はそれについて考えるのをやめた。


「それは大変だったな、よく頑張ったぞ。このウィリアムが褒めてやるのだ! そんな声に耳を貸してやる必要は無い、逆にクールにこう言ってやれ! 『嫌だね』ってなッ! 嫌なことは嫌ってハッキリ言う! それが勝者の道なのだ!」

「そうなんダ……うん、頑張ル」

「それでその……なんだ、俺の友達になってくれないか?」

「え……?」

「い、嫌なら別にいいんだ! 俺がさっき言った通り、ハッキリ断ってくれればいい。寂しいし悲しいけど……」

「いやいやいや……全然嫌じゃないヨ! でも、僕は魔物で君は人間なんだヨ? いいノ? それに僕……君を沢山傷付けちゃったの二」


 ってことは……


「つまりオッケーってことなんだな? 嬉しいぞ! 傷については気にするな! 俺は頑丈だ!」

「で、でも……」

「だー! 選択肢は二つ! YESかNO! 俺の友達になりたいならYES! なりたくないならNO!」 

「い、イエス! なる、なるヨ! 君の友達になりたイ!」

「ぬあーはっはっは! それでよいのだ! 魔物だの人間だの難しいコトは気にしなくて良いッ! 感情に素直に行こうぜ!」

「う、うん! あはは!」

「それで、お前の名は何て言うんだ?」

「僕、ルードゥ」

「ルードゥか、俺はウィリアムだ! ウィルでいい、仲の良い奴は皆そう呼ぶ」

「うん、分かったヨ。ウィル……あ、そうダ」

「む、なんだ?」 

「エへへ……ちょっとした、ジョークなんだけどネ」

 

 ジョーク? ダジャレでも言うつもりか?

 そんなコトを考えていると、ルードゥはおもむろに草を編んで顔にかけた。

 手先器用だな……鎌なのに。


「『シュルードゥマン』……て、言うんだ。どう、面白イ?」


 シュル―ドゥマン? 賢い男……か?

 そっか! だからあの草を顔にかけたのか。つまりアレは眼鏡だったんだ!

 あ、なんかスッキリした……。

 まぁ分かる、眼鏡をかけた人ってなんか賢そうに見えるよね!


「あぁ、面白いぞ! 賢いを意味するシュル―ドゥ、に自分の名前であるルードゥをかけたんだろう?」

「そう! お母さん全然笑ってくれないから、つまらないのかと思ってたケド……分かってくれる人もいるんダ!」

「おうとも! では、笑いのセンス溢れるこの俺からも一つ! 俺は将来皆から尊敬されるヒーローになる"つもり"だ、"will"だけにな!」

「あはは! うん、君ならなれるヨ。魔物である僕すら友達にしちゃった君だもん。

 それに、精神面を抜いて考えても……ウィルって普通に強いでしょ?」

「え、まぁそれほどでも……あるけど? へっへっへ」

「……君は、ヒーローになりたいんだよネ?」

「ん? あぁ、皆に大人気なグレートでクールなヒーローになるのが俺の夢だ」

「じゃあ、魔導王朝に行くといいヨ。あそこは今……ヒーローを求めてる」


 またか、んー魔導王朝って有名なのか?

 向かうつもりではあるけど……。

 てか、今更かよって自分でも思うが、何故魔物達が人間の情報についてそこまで詳しいんだ? 可笑しくね? スパイでも出していらっしゃる? もしかして。

 いやいや、ないない。

 ない、よな? ない、筈だ。うん。

 一抹の不安と共に、問いかける。 


「なぁ、なんでそんなコト知ってるんだ?」

「……『天使セラフノ迷子』って、知ってル?」

「知ってるも何も、俺がそうらしいぞ」

「えぇッ!? ま、まぁその話は後で聞くとして……『天使セラフの迷子』ってネ? 何故かは知らないけど、必ずここの近くにある『裁定ノ祠』って所に運ばれるんダ。だから、割と頻繁に人間がここら辺を通りかかるんだよ」


 裁定の祠? なんか気になるな。

 裁定……あ、もしかして! 裁定祭の会場跡地のことなんじゃ!? あれ、じゃあここはやっぱり中央大陸? 

 んー、良く分からんが西方語も東方語も使っていいのは楽だな。

 長い間の習慣のせいか、自然と混ざるようになっちまったからな。


「なぁ、俺を裁定の祠ってとこに連れてってくれよ!」

「え? 別にいいけど……何もないよ?」

「良いから良いから!」


 俺の予想が当たっていれば、アレらがそこにある筈だ。

 裁定祭優勝者に配られる、神器ゴッズアイテムが。 

  


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