第4話 依頼(改稿済)
「うむ。倒して欲しいのは『キラーマンティス』という魔物じゃ。そして出来ればその核である魔石をワシに届けて欲しい」
キラーマンティス、か。
全く容姿が想像出来んのだが。
てか魔石? なんのこっちゃ。
「とりあえず了解。それで、キラーマンティスってのはどんな見た目してんだ? それが分からなきゃどうしようもねぇぞ。てか魔石ってなんだ?」
「キラーマンティスとは、二本の鋭い鎌を振り回す緑色の魔物じゃ。そして魔石というのは……ゴブ郎、見せてやりなさい」
「あん? 自分でやりゃいいじゃねぇか」
「ワシのはもうボロボロじゃなからな。元気な魔物の魔石の方が含有魔力量も多いし質も良い。どうせなら、若い魔物の魔石の方が良い」
「はぁ……ったく、仕方ねぇ。ウィリアム。これ、俺達魔物にとっては弱点だから、本来他人に見せるようなもんじゃねぇんだ、覚えとけ。魔石ってのはこれのことだ」
そう言ってゴブ郎が右手を胸に当てると、ゴブ郎の胸から凄く見覚えのある物体が飛び出してきた。
一体どういう原理なんだ?
てか、魔石を身体から出したのになんで大丈夫なんだ? 心臓じゃなかったのか? 冷静に考えてみると色々と疑問が浮かぶ。
が、予想出来るコトなんて限られてる。
自分で出す分には平気なのか、それとも実物は体内にあるけど不思議パワーで魔石を体外に投影してんのか。
ま、結局は平気ならそれでいいや! の結論に落ち着く。
だって、聞いたって意味ないだろうし。
こんなの、「なんで『あ』は『あ』って言うの?」の疑問と同レベルだろう。
「え、出せるもんは出せるんだけど……」って返ってくるのが関の山だ。
「魔石って……それのコトか。知ってたわ」
「何? つまり既に魔物を殺した経験があるってことか」
ゴブ郎のその呟きに、少し居心地の悪さを感じた俺はつい言い訳をした。
「仕方ねぇだろ、真っ暗な洞窟の中でいきなり焼き殺されそうになったんだ。出来るだけ魔物とか人間とか関係なく仲良くしたい派だけど危害加えてくるような危ない奴とまで仲良くしたいとは思えねぇんだよ」
しかし、俺が予想していたような罵倒はされなかった。
「いや、別に責めてる訳じゃねぇ。俺達だって、生きる為に殺してる。仕方ねぇことさ、殺されそうだったんだろ? なら何も言わねぇよ」
「あ? あ、あぁ……そういや村長」
「なんじゃ?」
「聞くのを忘れてたんだがよ、なんで俺はここに来ちまったんだ? セラフは文明の発達した所を滅ぼすんだろ? なんで転移しちまったんだよ」
「おぉ、そういえば説明するのを忘れておったな。しかし儂とて全てを知っている訳ではない、じゃから噂話程度になってしまうが良いか? はっきり言って信憑性なんぞ皆無に等しい情報しかない」
「別にいいさ、聞かせてくれ」
「ふむ、ワシが聞いた話によると……『
ふむ、セラフの迷子……か。
いざという時の言い訳として覚えておこう。
でも……確かな記憶として存在するコトを、あたかも記憶が混乱しているってことにしてそれを何度も説明する自分を想像すると……なんだか寂しいな。
「まぁいいや、分かった。そのキラーマンティスってのを倒して魔石をアンタに届ければいいんだな? ……でも、なんだってそんなモンが欲しいんだ?」
「簡単な話じゃ、魔石を喰えば魔物は強くなる。老化した肉体も若返るという話じゃからな、ワシもその恩恵にあやかろうと思うての」
そう言った村長に、少し矛盾を感じた。
「なぁ、なんで同じ魔物で殺し合うんだ? ただソイツが問題を起こしてるから鎮めてくれって話なら喜んで依頼を受けたけど。わざわざ殺す必要があるのか?」
「……驚いた、まさかここまで魔物に対して優しい人間がいるとは。ワシの中の人間像が壊れそうじゃわい……しかし、ならばワシはこのまま死んでも良いと言うのかの? キラーマンティスの魔石を喰わねばワシは近いうち必ず死ぬのじゃが」
「んなこと知るか、自分が死にたくねぇからって他人を犠牲にすんな。そもそも生物ってのはいつかは死ぬんだ、それに逆らうのは魂の冒涜になる。それともまだどうしても死ねない理由でもあるってのか?」
理由によっては手伝ってやってもいい。
言った通り、鎮めてくれって話なら喜んで受けた。
それこそグレートでクールなヒーローの役割だと思うしな。
だが殺せって言うなら、情報提供の礼とは別件になる。
元々、爺さんは『最近森が荒れててのぅ……その原因を倒して欲しいんじゃ』とは言っていたが殺してほしいとは言っていなかった。
もし最初から殺してほしいと言っていて俺がソレを受けたのなら仕方ねぇ、契約だからな。
仕事として割り切るほかない。
だが今回は違う、ならば殺す必要は無い。
それでどうしても殺せというのなら、それはまた別の話になる。
人に限らず生物を殺すってのは、相応の覚悟がいる。
自分自身だって罪悪感に傷つくし、殺害対象の家族だって相当傷つく。
復讐に来られて逃亡生活になるかもしれない、もしくはソレも殺して更なる悪循環を生むかもしれない。
まぁ、要するに殺せってんなら、それ相応の礼を貰わないと割に合わないのだ。
だから話し合いで止められるなら話し合いで済ませる。
殺すなんて……出来るだけしない方が良いのだ。
「……ワシには、目に入れても痛くない程に可愛い孫がいる。丁度お主と同じぐらいの年なのじゃが、その娘の未来が心配なのじゃ。ワシの息子が人間の女に産ませた娘なのじゃが……一体なんの因果か、人間としての特徴が強く出てしまったのじゃ。じゃからかあの娘は……同年代のゴブリン達に虐められているらしいのじゃ。ワシの目が届く場所にいる時はワシにビビっておるのか何もせんのじゃが……あの娘一人になった時いつも虐められていると聞く。ワシに心配をかけたくないのか、あの娘は平気そうに振舞っているが……心配じゃ。儂がいなくなったら……あの娘は、今以上に虐められてしまうかもしれん」
はぁ……また差別か。
しかし、人間の特徴が強く出てしまったゴブリン娘……か。
連れにしてもバレないかな? 正直旅をするにも一人は寂しいと思ってたんだよね。戦う力が無くても、俺が守ればいいだけだし。
よし、そうしよう。
「なぁ、爺さん……その娘が心配だからまだ死ねないんだろ? だからキラーマンティスの魔石を必要としている……。そこで一つ提案なんだが」
「なんじゃ」
「その娘、俺に預けるつもりはねぇか? キラーマンティスの暴走は契約通り鎮めてやる。その代償として、その娘を俺にくれないか? 悪いようにはしない、ただ旅仲間が欲しいだけだ。必ず守ると約束するぜ」
「……あの娘次第じゃ、それにまだ契約も果たしていないのに何を言っておる」
「へへ、それもそうだな。分かった、とりあえずキラーマンティスの暴走を鎮めて来る。その間にその娘に話を通しといてくれよ」
「ふん、期待せずに待っておくわい。ワシの可愛い孫に手を出そうとするなど笑止千万。キラーマンティスと相打ちになって死んでしまえばいい」
「へへ、嫉妬すんなよ。男の嫉妬程醜いもんはねぇぜ? まぁ気持ちは分からなくもね……あーいや、多分俺も同じこと言うな。さっきのは無かったことにしてくれ。まぁ、とりあえずその娘に話通しといてくれ。故郷を離れるのは辛いかもしれんが……その娘にとってもその方がいいんじゃないか? 虐められるんだろ? ここにいれば」
「分かった分かった。さっさと行け」
「おう」
「気を付けろよ、ウィリアム」
「ウィルでいい、仲良い奴は皆そう呼ぶ」
「へへ……おっけー、ウィル!」
「おうよ! 任せときな!」
こうして、俺はゴブリン村を離れ暴走キラーマンティス退治へと出発した。
出来れば殺したくはない……だがもしもの時の為に、覚悟だけはしておこう。
いざって時に躊躇うと、命が危ないからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます