第4話 a ray of sunlight
第4話 a ray of sunlight(1)
「あいつやばいよ、どうしよう」
今日、僕と
しかし、誰かがそれに返事することはない。いや、できないのだ。急に現れたどうしようもない程の圧倒的な力をまざまざと見せつけられて、逆に喜ぶやつがいたらそれは異常だろう。でも、僕は一人の顔を思い浮かべていた。
(剛大ならきっとこんな時、笑顔で向かってくんだろうな)
あいつはバカなのだ、バカでどうしようもないくらいホッケーを楽しんでいる。だからこそ僕はあいつとホッケーをするのが…
「おい、キャプテン!どうすんだ」
柳沢先輩が僕に向かって対応策を問いてくる。だけど僕にも何か案があるわけでもない。出せたとしてもとりあえずの妥協策だ。改善はしない
「そんな難しく考えなくてもいいじゃん」
横から隼人が軽い感じで言った。周りはポカンとしている、もちろん僕だってそうだ。だって一番手酷くやられたのは隼人なんだから。
「なんだよ氷太、そんな心配そうな顔して」
「だってお前」
「確かにさっきは負けちゃったけど、次は勝つよ」
「勝算は?」
「やってみなきゃ分からないだろ」
「却下」
「なんで!?」
僕は隼人の提案を即却下した、なにも試合前のことを根に持っているわけでも、キスされて恨んでいるわけでも、まだ殴り足りないわけでもないが、却下した。
僕は案外冷めた人間なのか、他人を信じて賭けに出るのは嫌いだ。とにかく今は対抗策を考えないと…
「とりあえず、2人でマークしつつ、あの選手へのパスコースを防いでなるべく自由にさせない状態を作ります。」
「確実じゃないけど妥協案としてはしょうがないか」
柳沢先輩は少し不満そうな顔をしたが渋々といった感じで了承した、そこで第2ピリオドの開始を告げるブザーが鳴った。行かなくちゃ
「あ、ごめん氷太。次僕も出ていい?」
「え?」
第2ピリオドのお互いのフェイスオフの陣形は、少し先ほどと変わっていた。
バッカスは、後ろの僕も前のめりになり、前衛でセットした。これで後衛は安達君1人になり、守備は薄くなる。が、逆に攻撃力としては相手より1人多い状況だ。
しかし、僕の狙いはそこではない。目前ではブラックバッツが構えるが相手も陣形を変更していた。なんと前衛は1人しかおらず後の4人は後衛に回っている。
こちらとは対称的な守備的な陣形だ。前には先ほど衝撃を与えてくれたあの選手のみだ。
「あれ、ずいぶん攻撃的だね」
「やられたらやり返さないと気が済まないからな」
「そっか、楽しみにしてるよ」
彼の目の前には隼人が構えている。隼人から懇願され、隼人と1人の先輩を交換し1セット目に組み込んだ。そして審判が隼人と超人君の間に入りパックを落とした。
隼人と彼のスティックがぶつかり合う。バチンッという音と共に衝撃でパックがはじけ飛ぶ。そのままパックは氷の上を流れ僕の元へと流れてきた。
「へい!」
隼人はパスを要求し、走り出す。だが、僕はそれを無視し、自分で持ち上がった。
「なんで!」
「ばか!横見ろ!」
言われるがまま隼人は横を確認した。そこにはピッタリと超人君がくっついていた。
あれじゃパスは出せない。なんとか振り切ろうと走る隼人にピッタリとくっつき続ける超人君。
‥‥‥‥
「何やってんだ剛!パックキャリアが、がら空きじゃねーか!」
ブラックバッツのベンチから悲鳴が上がる。超人君は剛という名前らしい。名は体を表すというか、たしかに強そうな名前…マヌケっぽいけど。
今、僕を誰もマークしてない。相手は守備的な陣形になり、剛君以外はみんな下がって自陣の守備を固めている。
つまり、僕たちの
それなのに剛君は隼人にぴったりとくっついているので、後の僕を含めた3人は自由すぎるくらい自由だった。
「あ、やっべ」
「やべーじゃねーんだよ、ゴラァ!」
せっかくのこんな好機そうそうない。遠慮なく行くよ!
元々、前衛寄りにいた僕はNZを超えて
「ナイスパース!」
僕は相手が動き出すのを見てから、僕の横を走る
そのパスは枝葉君をマークするために動いた選手が、ぎりぎり届かないくらいの軌跡を描きながら枝葉君の進む先へ流れる。
そのまま枝葉君はパックを拾うと大きく壁際を回り、スピードを付けながら相手のゴール裏に入り、止まった。
別に何か僕からの作戦があるわけではないがゴール裏というのは僕たちにとって敵地の中にある安全地帯でもある。
なぜならゴール裏はシュートを打たれる心配がなく、失点の危険性は0%となるので、時間に余裕があればわざわざそこまで追ってくることはない。
それにこれはパックを持たない選手を数えるとこちらが少なくなるので人数的には相手が有利となる。ではなぜ入ったのか。
「あー、もう!ちょこまかしやがって!」
これは枝葉君がアドリブで作った作戦だ。パックキャリアではない人はパスを貰うべく動きまくる。
とにかくマークを振り切るように動く、単に動くのではなくパックを貰えばシュートを打てるように。
さらに、これは相手からしたら動き回る人を見ればパックの動きが見れなくなり、パックを見ればマークが外れてしまうため、混乱する。
その隙に枝葉君は一瞬マークの外れた柳沢先輩にパスを出す。そのまま柳沢先輩はシュートを
「危なかった~」
いつの間にか隼人をマークしていたはずの剛君が柳沢先輩と枝葉君の間に現れ、パスの導線を塞いだ。そのまま流れるパックは剛君のスティックに収まる。
「こっちの番だね」
そのままこちらの自陣に向かい剛君が走り出した、僕は慌てて戻る。今僕たちの後ろには安達君1人しかいない。今カウンターを食らうのはまずい!
「戻れえええ!」
みんなに指示を出すが柳沢先輩と枝葉君は唐突な事態に反応が遅れ、出遅れた。だが隼人だけは剛君の横に並ぶように走っていた。
「負けねぇ…」
「いいね!」
そのまま壁側に剛君の体をぶつけて押し込む隼人だったが、剛君は崩れない。
だけど隼人のおかげで行動範囲が狭まってもう直進方向しか道は開いていない。そこへ僕が立ち塞がる。
「通さない!」
剛君は、僕が立ち塞がるのを確認し、スピードを落とした。それに対応しようと隼人もスピードを落とした瞬間、剛君は加速した。
「くそ!」
スピードの緩急について行けず、隼人は一瞬だが遅れてしまった。だが行き先は僕が塞いでいる。その瞬間、剛君の手元からパックが消えた。
「え」
そして、驚きで硬直している隙に剛君は僕を抜き去る。だけど、パックはどこに…振り向いたときには、パックをスティック内に収めて走る剛君の背中が見えた。
だがその背中に追いつくことはできず少しずつ差が開き始める。その瞬間、僕は防具バックを肩にかけ、遠ざかる男の映像がフラッシュバックし、顔は悲痛に歪んだ。
そのまま、後衛に回っていた安達君を軽くあしらうかのように抜き去り、ゴール前まで剛君は独走する。
そして彼はそのままシュートを打った。パックは素早い軌跡を描きながらゴールへと進む…
だがキーパーが間一髪、腕で弾き死守した。が、零れ落ちたパックを剛君はそのまま打ち込んだ。
入った、僕がそう諦めかけた瞬間、ゴールネットに向かい飛ぶパックが弾かれた。そこにはパックの軌道上に飛び込んだ隼人の細いスティックがまるで居合切りをする武士のように振り下ろされていた。
「負けねえって言っただろ」
隼人は諦めていなかった。剛君が打つパックをキーパーが止めてくれることを信じ、走り続けていたのだ。遅れて周りは急に騒がしくなった。
「ナイスだ、隼人!」「まだまだいけるぞ!」「巻き返せ!」
こちら側のベンチは隼人のファインプレーにより一気に盛り上がりを見せる、さらに相手のベンチからも称賛の声が上がっていた。
しかし、隼人はそれに気づくことはなく、ただ剛君だけを見ていた。それは悔しさなどの負の感情はなく、ただ偉大な選手をリスペクトし、憧れ、超えようとする純粋なスポーツ選手の目だった。
「最高だよ、はやとくん」
剛君も食らいつき続ける選手を認めるかのように満面の笑みで隼人を凝視していた。
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