第2話 encounter(2)
「ごめん」
しばらく走った後、開口一番僕は彼女に謝った、しかしなんでこんな目に…
「面白いお友達さんですね!」
彼女は何が面白いのか先ほどからずっと笑顔でニコニコとしている。僕のそんな疑問顔に気づいたのか彼女は手を口元に持っていき、可愛く理由を語った。かわいい
「なんか、ああやって騒げるのってなにも包み隠さず言える仲だからだと思うんですよね、しかもこれから試合だっていうのに」
その言葉を聞き、僕は頭に浮かんだ疑問をよく考えず口から出してしまった。
「なんでここに?」
少しぶっきらぼうな聞き方になってしまったことに気づき、この子に対して最初から少し変な態度をしてしまっているな、と反省した。彼女は、それを聞くときょとんとした顔を一瞬して、そしてまた笑った。かわいい
「そういえば昨日慌てちゃって自己紹介もしてなかったですね。私は
聞いた瞬間少し背筋に変な汗を掻いたが平然を装った。先ほどの「この後試合なのに」というセリフからアイスホッケーに関係している人だとすぐに気づいた。
「びっくりした~、僕は咲場氷太っていいます。もう知ってるかもしれないけどバッカスの選手です」
「やっぱりそうなんですね、ここに居て、うちのチームの人じゃないならバッカスの人なのかなって思って…練習試合に一般客なんて来ないですし」
彼女…柚希さんも僕と同じ考えだったらしい。僕たち大学生が行う試合は大会時に一般客を入れ込み観戦が可能となっている、マイナーなスポーツであっても密かに盛況だったりもするが、今回はその中の2チームが練習試合するだけの話であり、しかもこの話は急遽決まった試合だったため情報を知っている人は特にいないはずだ、そんな時に出会い、顔が分からなければ相手チームの人だって容易に予想がつく。
まぁ…今回の2チームは今季の大会、優勝候補の二角なわけだけど…
「そういえば、輪の中から出していただきありがとうございます。助けてくれたんですよね?」
そんなことを言われると自分でもなんであの時感情的に引っ張ってしまったのか自分でも分からないから困る。
「それとも何かお話がありました?」
僕が返事しないでいると付け足しの言葉が飛んできた、何て言えばいいんだ!
「とっさで何も考えてなかったです。」
僕は考えるのをやめた…彼女は優しく笑ってこう言った。かわいい
「行動派なんですね」
優しさが心に染みる…
「お~い、柚希~」
僕が優しさで涙を流しそうになっている時に彼女の背後から背の高い男の人がこちらに寄ってきながら目の前の柚希さんを呼ぶ声が聞こえた。彼女が声に気づき振り返ると彼もこちらを見つけたようで駆け寄ってきた。
「何してんだこんなところで、とお話し中だったか、どちら様?」
「キャプテン、ちょっと色々あって人に囲まれちゃって…この人に助けてもらったんです」
「はぁ…よくわからんけど揉めてるんじゃないならいいや」
そんな会話をしながら男性は呆れたようにため息をついていた。この人、見たことが…
「あ、ごめんなさい、こちら私たちブラックバッツのキャプテン」
「知ってます。
僕が言い当てたことに柚希さんは驚いた様子だったが、当の本人である狐爪さんは照れたように頭を掻いた。
「そう、初めまして、狐爪恭介です。なんだか柚希がお世話になったみたいでありがとうございます。」
「い、いや。助けたっていうかその囲まれた事件も僕が発端で起きてしまったようなもので」
「へ?そうなの?」
「はい…逆に巻き込んで申しわけないって感じで」
「ん~、まぁなんでもいいや、ところで君は?」
「あ、すみません。咲場氷太って言います、バッカスの選手です。今日はよろしくお願いいたします。」
「ん?咲場ってどっかで」
「氷太くん、前に遊んでる時に出会ったんですけど、その時氷太君の携帯割っちゃって…」
柚希さんに名前呼びされて少しドキッっとしたが、また柚希さんが謝る姿が予想できて
「いやいや、あれは元々忘れちゃった僕が悪いです!」
「でも、私が落とさなきゃ!」
「何お前らコントしてんの?ところで氷太くんってさ、高校って」
声をかけられて狐爪さんに目線をやろうと顔を向けると彼の後ろにある大きな時計が視線に入る。
「やばい!もう試合まで時間がない!」
アイスホッケーは防具を着るため試合にすぐ出れるわけではないのだ。
「え、ちょっと!」
狐爪さんは急に慌てた僕に驚いていたが気にしてる時間は無かった。
「すみません、もうすぐ行かないと、これで失礼します。」
すぐに二人に頭を下げて走り出す。後ろから柚希さんが声をかけてきた。
「間に合いますか?」
「頑張ります!」
僕は全力で走った。さっき狐爪さんが何か言いかけてたけど、大丈夫だったかな…
ーーーーーーーーーーー
氷太君を見送ってから私たちも控え室に戻ろうと歩きだしてから、ふと疑問に思ったことを口にした。
「キャプテン、氷太君に何聞こうとしてたんですか?」
「ん?いや咲場って苗字珍しいだろ?高校の時、インターハイで同じ苗字の奴がいたんだよ」
「へぇ~、確かに氷太君の苗字珍しいですけど案外たくさんいるんじゃないですか?」
「そうかもな」
そう返すキャプテンは何かを思い出すかのように遠くを見ていた。
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