case3-3

 アリスによる攻撃を椿が受けた頃。大犬と東亜は突然目の前に現れた椿と禍辻の偽者と戦っていた。


「東亜!あれは、班長達ではありません!攻撃してください!」


「分かっているよ!でもごめん、班長ちゃん!」


 東亜がミラー椿に狙いをつけて撃つも銃弾はミラー禍辻に防がれる。

 尻餅を着いた彼女を庇うように前に立ったミラー禍辻は左手を突き出した。


 彼は掌から泥のように這い出る影を大量に呼び出す。大犬が纏めて斬ろうとするが、死角から鋭い刃に形を変えた影が襲い掛かる。


「瑞樹ちゃん下!」


 飛びのいて回避する大犬を影は深く追尾しない。彼は大犬に思考時間を与えないため妨害に専念していた。


「やりづらい‥‥コピーみたいなのとはいえ流石禍辻さん。いくつ能力持ってるのよ」


 東亜と大犬は、途中で椿が何もしゃべらなくなり、不審に思って近づこうとすると、いきなり対象の少女が銃弾を受けて、地面に倒れガラスの様に砕け散ったかと思うとアリスと名乗る少女によって、こうして二人と戦わされているわけである。


 突然、禍辻が攻撃してきた為、最初は回避に専念していたが、彼の腕輪の位置とアリスが鏡の魔女と名乗った事で偽物と判断し、戦闘を開始した。


「東亜!班長の方はどうですか?出来ればこっちに‥‥おっと!危ない」


 大犬は耳に嵌めたインカムから東亜に連絡を取る。彼は戦場から逃げ出したミラー椿を追いかけていた。


「班長ちゃんは、ずっと俺から逃げ続けているだけ!元々班長ちゃんに戦闘能力はないんだし。放置してそっち行くよ!」


「お願いします!禍辻さんかなり手ごわいです。私にイメージを作る隙を作らせてくれません。攻撃態勢に移させてくれない」


 本部で大犬と禍辻が模擬戦をした記録はない。


 そもそも、ブレイバー同士の全力衝突の許可は降りない。そのため、禍辻の能力は恋条に渡された資料と本人の簡素な説明程度である。しかし、椿と恋条の評価は適当とも言えるものである。


【なんか何でも出来る人】記載者:枝垂椿


【無数の能力を持つ逸材】記載者:恋条深栗


 その能力は、異端者だらけのオーダーズでも特に異質で最も手の内が読めない。なんせ、自分の能力の詳細を解析能力持ちに見られ、それが記録されるオーダーズにおいて、唯一解析班の担当調査員が匙を投げた人間だ。


 禍辻煌也、固有能力『不明及び解析不能の無限保持』。禍辻ですら全容を語るのに数年単位必要と語るほど説明しきれない面倒さ。


 オーダーズ加入当時。能力調査担当官がどのような能力を所有しているのか尋ねると、彼は「何でも使える」と答えた。


「瞬間移動も発火も凍結も召喚も出来る」


 見栄には思えなかった当時の担当官が興味本位で数をカウントし始めるも2週間を越えたあたり根を上げた程に所有数は多い。


 本人の証言では、この世にありそうな能力は、使える。


 その能力数は椿どころか恋条でも全ては把握しきれてない。


「厄介にも程があります。こんなの反則ですよ!」


 東亜が大犬の所に戻ってくると、彼女は禍辻にかなり押されていた。


「大丈夫?今こっちに注意を‥っ!!」


「東亜、避けて!」


 公園の街灯に照らされた東亜の影から黒い刃が蠢いて飛び出してくる。振るわれた刃を避けようと、東亜は身体を捻って逸らすが、刃はしなやかな鞭のように軌道を直撃寸前で変えてくる。


 大犬は東亜を助ける為に影の刃に狙いを定める。しかし、支給された特製の刀を抜こうとすると、鞘から刀が抜けず引っかかる。

 慌てて確認すると、柄と刀身の中間部分が凍らされていた。


「瑞希ちゃん、こっちは大丈夫だ。平行線なら躱せる」


 東亜が平行線で自分と刃を設定する事で難を逃れようとする。刃が東亜の身体を通り抜ける。


「良しっ!これなら‥‥って、ガハッ!」


 東亜が平行線を使い避けた所にさっきまで隠れていたミラー椿が東亜の腹部に銃弾を浴びせる。


「東亜!!」


 オーダーズ特製の弾丸は、一定時間命中した対象の能力を使。つまり、今東亜の身体を通り抜けている影の刃は、全て命中する事になる。


 大犬は、無理やり剣を引き抜くと、影を急いで斬り裂く。必死の活躍で東亜は助かるが、逆に大犬は刀を抜いた事で、狙われる一瞬の隙が生まれてしまう。


 今まで邪魔していただけの影の刃が四方八方から大犬に向かって襲い掛かる。向かってくる中には、先端を鎖の様に変化させて、大犬の右腕と剣を地面の影と縛り付ける物もあった。

 そのせいで、大犬は全ての攻撃を回避出来なかった。


(あの数はまずい!)


 大犬は直感で悟るが、既に遅く何本かの影の刃が身体に刺さる。激痛と脱力感から刀を手放した彼女は片足の膝を着く。


 彼女の前に悠然と歩んできた男は容赦なく手に影の刃を纏わせて高く振り上げる。


(まだ、能力は使えるのに‥‥この腕さえ動けば)


 大犬は悔やみながら死を覚悟して目をつぶる。


 禍辻の攻撃は、まだ来ない。


 恐る恐る瞼を開けると、禍辻は彼女の目の前で刃先を止めている。同時にミラー椿が大犬に駆け寄り傷の具合を確かめだした。


「何‥‥この状況」


 大犬は現状を理解出来ず、蓄積していた痛みもあって、糸が切れたように意識を失う。

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