case3-1 

 魔白悟の件から三週間後のある日。椿は大犬と東亜と一緒に街中のカフェに訪れていた。大犬とは先日の一件から打ち解けており、今日はショッピングに出かけている最中であった。買い物を大体終わり、残るはSNSで見かけた有名カフェに寄るのみ。


 本来は、もう少し買い物を続ける予定であった。

 だが、12店舗目に入る時の事。遂に荷物係が悲鳴を上げる。


「班長ちゃんと瑞希ちゃんさあ、まだ買うの?もう平行線でも隠し切れない量なんだけど!」


 荷物持ちの東亜が泣き言を言い始めたので、仕方なく休憩に入ったというわけだ。


「てか、こんなことの為に能力使用許可出さないでよ!立場的にいいの!?」


「大丈夫、大丈夫。恋条さんに許可もらえたし、東亜君の能力だけ限定的に解除するならいいって」


「なんか‥‥俺の能力って無害みたいに見えるんだな‥‥」


「それはそうですよ。東亜の能力は、一対の物体にのみにしか干渉しません。今だって荷物ほんの少ししか軽くなってないでしょう?それに使っている間は、普通の人と変わりませんし」


 東亜はちょっとショックを受けていた。大犬が能力を制御できるようになったのはうれしいのだが、それに対して自分の能力が全く変化しない。

 いや、これが異世界で貰ったチート能力の限界なのかもしれないが、同じ異世界に飛ばされた人間で自分より弱い能力をもらっていたのは、たっただけであった。

 その彼は、東亜にとっての当時唯一と言っていい友達であるが、最後まで自分の能力は大したものでないと言いはっていた。

 東亜達が飛ばされた異世界では、ステータスを見ることが出来なかったため、自分のチート能力は、使っていくことで理解するしかなかった。


「はあ、俺も自分の能力を勘違いしてんのかな?」


 椿は、東亜の悩みは真剣そうに見えていた。先程、大犬に言われた時、落ち込んでいるように見えたからだ。


「東亜君、恋条さんに可能性がないか聞いてみようか?もしかしたらあの人なら何か掴んでるかも」


「班長ちゃん‥ありがとね」


「全く、東亜は心配性ですね。だったら訓練して強くなればいいじゃないですか。もしもの時は私が守ってあげます」


 椿には、東亜が今の言葉で更に落ち込んでるように見えた。


 椿は二人と別れた後、一人オーダーズに向かった。今日は、休日であったが恋条ならもしかしたらいるかもしれないと思ったからだ。いつもの様に、椿が記録倉庫室に入ると、事務仕事をしている男『湯島』がいた。


「すみません、湯島さん。ちょっといいですか?」


「あれ?椿ちゃん、今日は休みじゃなかったっけ?」


「そうなんですけど、今日恋条さんがいたら話したいことがあって……」


「あー、今は取り込み中かもしれないから待ってて。一応連絡してみる」


 湯島は、受話器を取ると慣れた手つきで電話をかける。


「おー深栗か。実はな、椿ちゃんが上に来てて――お、そうか。伝えとくよ」


 湯島は受話器を起き、椿の方へ顔を上げる。


「今は、暇だそうだから話せるってよ。第三班の部署にいるってさ」


「ありがとうございます。湯島さん」


 椿は湯島に礼を言い、オーダーズの施設へ降りて行った。第三班の部署に行くと恋条は、珈琲を飲みながら待っていた。


「こんにちは、枝垂さん。それで、私に何か相談ですか?」


「実は……」


 自分の中にあるモヤモヤを解消すべく、椿は事の顛末を話す。


「成程、それでしたら一つ可能性があります」


「本当ですか!?」


 恋条は、手早くモニターを動かして、椿にとある報告書を見せる。そこには、『精神的成長によるギフトへの影響』と記されていた。


「恋条さん‥‥これって?」


「今は、海外で活動しているブレイバーの一人が、地球に帰って来てからの方が能力が強くなったというので、様々な人を対象に検証したレポートなんですが‥‥」


 相変わらずピンポイントなレポートを持っている。一体何処から入手しているのか椿は疑惑の視線を送る。


「そんな風に怪しまれると見せられませんよ?」


「す、すみませんでした!」


 慌てて頭を下げる椿に、恋条は冗談です、と優し気に笑う。


「でも、これの出自に関しては詮索しないで下さい。元々極秘資料ですから」


 恋条に言われた言葉に緊張しながらモニターに映るスライドを進めていく。そこには、アメリカ出身のブレイバーが帰還した当初の能力測定で測ったチート能力『瞬間移動』の効果範囲が6年後に測定した時には、1.7倍の範囲になっていたというデータであった。

 次の検証ではインド出身のブレイバーが、『発火魔法』の能力と本人は認識していた物が本来は『物体の温度操作能力』だったことで『発火と凍結』の両方を扱えるようになった、というデータである。


「この様に、能力の成長の可能性は0ではないんです。そんなのブレイバーでは当たり前の考え方らしいのですが‥」


 椿にとってはその場合、東亜は喜ばないだろうと容易に想像出来た。何故なら、彼が求めているのは他の二人のように前に出て戦える力。大犬がトラウマを克服した以上、自分の居場所を失いつつある現状に焦りを感じ始めている。


 魔白悟の件の後にいくつか椿は帰還者の対応を続けている。どれもが納得のいく結果にならないバッドエンドではあった。その中で、脅威度判定:Cの帰還者『持田裕一郎』相手に東亜が能力を使用した時、平行線で指定した鎧以外にも相手はバリアを貼っていた。それが、原因で東亜の銃弾が弾かれたのだ。


「しまった!こいつ鎧も装備できんのかよ!」


「トーアは、下がってて下さい。私が纏めてはがします!」


「よし、頼む、大犬!」


 そのまま大犬が防御を崩して禍辻が止めをさしていた。終わった後、東亜はどこか悔しそうにしていた。

(最近は、瑞希が活躍するようになって自分の役割がない事に焦り始めてるんだろうな)


 椿は東亜の考えをそう予想していたが、自分に出来る事は東亜に役割を与えることしか出来ないと思い、椿の護衛に回ってもらうように頼んでいた。しかし、これは東亜に遠まわしに戦闘に参加するなと言っている。前と違って一人だけ何もしないように思えてきて不満なのだろう。


 もしも、平行線の概念がひっくり返るような強化があれば、東亜の活躍の場はぐっと広がるだろう。


 それが椿には分かっていたため、今と変わらない可能性がある距離の増加の成長は、東亜には言えそうになかった。


「ふむ……これでは風峰さんが喜ばないですか……なら、とても低い可能性ですがこっちかもしれませんね」


 恋条にとっては、東亜の能力は地球上何処にいても使えるようになれば良かった

 。前々から、それで十分に使い道があると考えていたからだ。


 事実、彼の能力は帰還当初に比べて、約1.1倍の範囲になっていた。けれど、部下が納得出来ないなら恋条もスッキリしない。そこで、恋条が次に見せたスライドは、脅威度判定:D-の勇者『佐藤太郎』の能力『聖剣使い』が帰還してから七年後にいきなり『重力魔導士』になったというレポートだった。


「なんですか、これ?」


「枝垂さんがそう言いたくなるのも無理はありません。このレポートによると帰還当初は、15歳の一本の聖剣のみしか使えなかった人間が22歳になった途端にオーダーズで活動していたわけでもないのに聖剣が使えなくなって魔法を使えるようになったという物です。これは、信じたくありませんが、能力によっては本質すら変わる場合があるそうです」


「もう、何でもありじゃないですか!」


「有識者曰く、なのがブレイバーとの事なので、私はそう思うようにしています」


 椿には、改めてブレイバーの可能性と異常性について分かったが、東亜をこれで前向きにさせられるかは微妙な所であった。


「とりあえず‥東亜君には、明日色々話してみます。このままだと不安で……」


 椿は、恋条にレポートについて礼を言い、その日は、家に帰った。恋条は、一人でスライドを見ながら、情報提供者の父を思い浮かべる。


「父さんの話が本当なら、あれはどういう意味だったんでしょう?あの人は、全部は教えてくれないのがズルい所ですし――まあ、本当に今の風峰さんが限界でない事しか分からなかっただけかもしれません」


 恋条は、ブレイバーでもない自分には想像することが限界かと、ため息をつきながらモニターを消し部屋から出ていった。

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