case2-1

 椿が第三班に配属されてから一ヶ月。部下の禍辻とは最初の案件で共に行動した事もあり、仕事以外で少し話す事もあったが、東亜と大犬とは、中々話す機会がなかった。


 また、彼らは現役の学生でもあるため、日中本部に待機しているわけではなく、週に何日しか来ない。

 帰還者警報が来れば、彼らも現場で合流するが、仕事が終わると帰ってしまうため、椿には現場以外で話した記憶が無かった。


「それでね、どうしたらあの2人と話せるか分かんなくて…」


「どうして、自分にそんな事相談するんですか?煌也さんに相談すればいいじゃないですか」


 現在椿の話し相手をしているのは、オーダーズ整備班のスタッフ白丸であった。

 整備班では、主にオーダーズの武器や移動用車両の整備を行なっている。白丸は椿より歳下だが、職場では先輩に当たる。


「禍辻さんに相談しても仕事仲間なんだから一線引け、しか言わなくて。個人的に連携を取るためにもある程度は、仲良くしたいから。白丸君二人と年近いでしょ?なんか彼らの事知らない?」


「そうですね…いつも風峰は、街で遊んでますよ。それを大犬さんが見つけたらしばき倒して、ここに連れてくるのが平常運転の2人です」


「東亜君とか来てたの!?私全然見かけないんだけど」


「そりゃ出入り口は他にもありますからね。東亜とか警視庁に入れませんから‥」


「た、たしかに‥」


 学生がそうホイホイと警視庁に入れるはずもない。聞くところによると、都内の至る所に出入り口が存在しているらしい。


「いつも、下にあるトレーニングルームに行ってますよ。大犬さんなんて毎日見かけますし、枝垂さん見に行ってないんですか?」


 椿は未だにオーダーズの全体的な施設の構造が分かっていない。恋条や禍辻に聞いても地図は、秘密性故に存在しないと言われ、必要になったら教えるとしか言われてなかった。


「白丸君、そのトレーニングルーム何処にあるの?」


「地下7階です。このガレージが地下2階なんで、5つ下ですね」


「そんな下まであるの!?」


「自分も全何階まであるかは知らないです。前に先輩が地下8階までは確かにあるって言ってました」


(まで確かってなんだ。もっとあるの!?)


「この先にあるエレベーターなら8階まで降りれますよ」


 オーダーズの謎は深まるばかりだが、白丸の話の通りなら、今現在も大犬達がいる可能性は高い。白丸に礼を言った椿は急いでエレベーターに乗ると地下7階に向かった。地下7階で扉が開くと、開口一番に大犬の怒鳴り声が聞こえてくる。


「東亜!!真面目にやりなさい!!」


「え〜能力使ってないんだから、これで本気だよ〜」


 椿がトレーニングルームの前まで来ると、部屋の中では、東亜と大犬がプロテクターを付けずに竹刀を使って模擬戦をしていた。

 身体中に痣ができている東亜は部屋の外で見ている椿に気づくと、急に顔を輝かせた。


「あれ?班長ちゃんじゃん。瑞希ちゃん、休憩、きゅーけー入ろー?」


 大犬は窓の外にいる椿を見て仕方ないと言って、竹刀を片づけに行った。


「サンキュー、班長ちゃん。お陰で死なずに済んだよ。瑞希ちゃん、街で遊んでいる時に見つかると防具無しスパルタモードで扱かれるから大変なんだよね」


 東亜は口では大変だの言っているが、よく見ると汗一つかいてない。単に面倒くさがりな性格なのだろう。そこへ竹刀を片付けた大犬が戻ってくる。


「班長、何か用ですか?」


「あ〜用って程の事じゃないんだけど私2人の事あんまり知らなくて、色々教えて貰えたらと‥」


「能力については、本部で閲覧出来るはずですが?」


「違うよ、瑞希ちゃん。班長ちゃんが言ってるのは、能力じゃなくて俺たち自身の事だよ」


 東亜に言われて勘違いに気づいたのか大犬は、直ぐに頭を下げる。顔は伏せているが耳が赤い。


「瑞希ちゃん、真面目すぎるんだよ。もっと気楽にしてないと」


「東亜は、楽天的過ぎるんです!普段から何もしないで、帰還者相手にちゃんと戦えるわけないでしょう!」


「大丈夫、大丈夫。俺の能力は、初見対応不可能だし、禍辻さんの援護出来れば仕事になるしね」


「東亜君の能力って要は、自分で決めた物が好きな物をすり抜けるって事だよね?」


 椿はここに配属された後、東亜たち班員の能力は、資料を通して確認している。


「そ。物体透過系統で俺は平行線って呼んでる。絶対に交わらないからね」


 東亜の能力は、『平行線ゴーストライン』。設定した物体Xに対して、もう一つの物体Yに干渉出来なくさせる事ができる。

 

 例えば、東亜が野球のピッチャーだとして、バッターのバットを物体X、ボールを物体Yと設定すると、バットはどう振ろうとボールに当たる事はない。ボールをすり抜けるだけである。先日の、山田亮太郎の聖剣に対しても、聖剣を物体X、銃弾を物体Yとして設定する事で、弾丸を命中させていた。


「因みに、この能力はあらゆる存在に対して使う事ができる。例え神様でも設定可能」


「凄っ!チート能力じゃない?」


 椿が能力に驚愕すると、自慢げだった東亜は鼻を擦る。だが、嬉しそうな東亜を尻目に大犬は欠点を挙げる。


「ですが、弱点として一度に一つずつしか設定出来ない制限があります。なので複数相手だと使いづらい能力です」


「瑞希ちゃん、痛い所つかないでよ。俺が凄いムードで終われたのに」


「東亜君って向こうでも勇者とかしてたの?」


 椿の頭の中では昔読んだ小説の内容が浮かびが上がる。

 しかし、東亜の表情は逆に固くなっていった。


「いやー俺の能力あれだからさ。一応それっぽい事して、戦ってます雰囲気は出してたよ。俺達の転移はクラス単位だったから1人くらいサボってても大丈夫だったんだよ」 


「サボってたんだ……」


 誤魔化し笑いをする東亜に苦笑いの椿は、次にもう一人の班員である大犬の能力を確認する。


「で、大犬さんの能力は、同じ動きをすると2回目以降から威力が増すんだよね?」


 大犬の能力は、『練習成果レベルアップ』。同じ目的の動きをする時、過去の同じ動きの数だけ威力や速度などの全体的スペックが向上する能力である。能力封印時でもカウントだけはされるため、毎日訓練するだけで実戦ではどんどん強くなる。能力が定める定義が大犬にも全て分かっておらず、かなり曖昧なため、右手でパンチする練習をどんな体勢でやってもカウントされる。また、歩行する分には全く影響が無いのに対し、走る時には、能力の影響が出る。


「概ねその解釈で大丈夫です。欠点としては、スペック向上値が一回では誤差程度である為、日々の努力が必要な所です」


「でも瑞希ちゃん、剣道、空手、護身術やってたし、向こうでも修行ばっかだったから、既に剣の振りとか光速だし、衝撃波が周りに広がって邪魔になるから、基本は銃使えって言われてるんだよね」


 大犬が恥ずかしそうに顔を伏せる。


(一回じゃ誤差程度なのに、衝撃波出るほど素振りしたって事!?)


 椿からすれば、たゆまぬ努力の結果である為、恥じる事は無いのにと思っていたが、大犬にとってはそうでは無いらしい。


「自分の努力が迷惑になっているのが申し訳なくて‥うぅ」


(努力する事で悩むなんて、辛すぎる)


 椿は何とか解決できないかと考えを巡らせる。


「そうだ、武器を変えればカウントはリセットされてるんじゃない?例えば、警棒とか」


「それだと、逆に帰還者相手には通用しなくて‥」


 椿は、大犬の能力の実戦での弱点に気づいた。どうしても極端になってしまうのだ。

 丁度いい強さを見つけてもいずれ度を超えてしまう。新しい武器や動きは、帰還者に対して効果的ではない。

 かといって、得意武器だとオーバースペックになるので、バランスが悪すぎるのだ。


「大犬さん、向こうではどうしてたの?」


 椿は何気なく異世界ではこれに対してどんな対策をとっていたか気になり聞いてみた。


「向こうでは‥その‥」


「あ!班長ちゃん、俺運動して、喉乾いたからちょっとコーラ買いに行かない?瑞希ちゃんは烏龍茶でいいでしょ?よし決まり!早速行こう」


 突然、話を切り上げた東亜に押され、椿はトレーニングルームから半ば追い出されるように出ていった。扉を潜る瞬間、振り向きざまに見た大犬は、暗くどこか陰を感じさせる雰囲気なのが、椿にとって心残りであった。

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