case2-4

 ブレイバーの三人が帰った後、椿は自身の部署でデスクに向かい報告書を作成していた。そこに2人分のコーヒーを淹れた恋条がやって来る。


「今日は、お疲れ様でした。聞きましたよ、大犬さんの事。あの考えが正しくて良かったです」


「恋条さんのお陰です。あれがなければ今回、私は死んでいたかもしれません。送ってくれてありがとうございました」


 椿は、恋条に礼を言いつつも、内心では都合の良さに疑問が残っていた。


「枝垂さんの考えていることは、わかりますよ。タイミングが良すぎる事についてですね?」


 図星を突かれた椿は身体をピクリとさせる。


「あの考えを今まで彼女に言ってなかったというのが不思議で。あの後瑞希に聞いたんですけど、ファイルに載っている実験なんてやってないって言ってましたし‥‥恋条さんは何を知っているですか?」


「さあ?夢で見た内容を現実と勘違いしてあれを作成してしまったのかもしれませんね。仕事柄寝る暇もなくて‥‥では、私はこの後人と会う約束があるので」


 去っていく彼を椿は呼び止めようとしたが、それを押し留め見送ることにする。


「作為的なものか‥本当に恋条さんは何者なんだろ?ただの一般人ではないよね‥‥?」


 今日は、これ以上何を考えても意味がない気がしたので、椿は報告書の作成を再開していた。


 ◇◇◇◇


 午後11時を過ぎた頃、恋条はバーでカクテル『マティーニ』を飲んでいた。店には若いバーテンダーとカクテル『コスモポリタン』を飲む男『大田』とドリンク『牛乳』をちびちび飲む幼い見た目の少女がいた。バーテンダーと少女は異世界帰還者の証である黒い腕輪を付けている。


「最近どうだ?枝垂の奴は上手くやってるか?」


 大田の問いに対して、恋条は笑って答える。


「ええ、班員とも打ち解けているみたいです。確かに彼女、面白いですね。この一ヶ月を見ていると、まだ諦めるつもりもないです。彼女には、黙っていますが最初に交渉なんてするのは例外中の例外ですからね」


「だろう!?俺は、あいつの諦めない所を評価してんだ。普通死の危険を一度体験したら恐怖しか抱かないはずなのに、あいつはまだ帰還者を迎えようとしてる。ああいう奴が増えてくれればいいんだがなあ‥‥‥」


「いずれ彼女の存在が他のオーダーズの人達にいい影響を与えてくれればいいんですよ。そういえば、今月の『異世界移動者』は何人でした?」


 話題が変わると大田は飲んでいたカクテルをグイッと呷る。向かいのバーテンダーに同じ物を注文し、アルコールの回って饒舌な口調で話し始めた。


「転移者は集団組が増えたせいで34人、転生者が77人だ。転生者は基本帰ってこないから心配してないんだが、集団転移は帰ってくる可能性が高くて困る。あぁ転移者の中には、脅威度判定Sの所に行った奴がいたな」


「今月は、このまま進みそうですね。予知のは、今後の予定をどこまでしていますか?」


「詳細は後で送るが、来月末に集団転移で脅威度判定Aが帰ってくるらしい。今月は前と同じでこの辺は三班だけで対応できるだろう。来月に向けて遠征中の所から、どこか呼び戻さないとな」


 新たな脅威に向けて話を進めていると、牛乳を飲んでいた少女が2人の間に割って入り、話に混ざってくる。


「呼び戻すなら一班。絶対亜夏羽あげはの所」


 恋条は少女の意見に納得出来ないらしく、理由を聞き出す。


「なぜです?彼女の所は、枝垂さんと確実に揉めるでしょう。特にとか」


「深栗はわかってない、あの子たちと一緒にやって成果が出せるならそれで満点。ダメなら彼女が折れてお終い」


 恋条の考えていることを椿が実現させるには彼女達との邂逅は必須である。

 だが、確実に椿の負担は今までで最大の物となるだろう。

 せめて、心を折らせないために、もう少し彼女を育てなければと、恋条は考えていた。


「全く厳しいですね、


「私は厳しくないよ、深栗が甘いだけ」


「母さんは甘党でしょ?だったらこれも好きじゃないんですか?」


 幼い少女は、恋条の返しに舌打ちしてグラスに残っていた牛乳を飲み干して睨みつける。


「これ以上つまんない事くっちゃべるなら、その口を縫い合わせるよ?」


「今の母さんでしたら余裕で逃げ切れます」


 余裕の笑みを浮かべる恋条と子供にしか見えない彼の母親は両者向かい合ったまま一歩も譲る気はないようだ。いざこざに巻き込まれたくない大田は、店のバーテンダーに助けを求める。


「この親子、面倒くさい所が似るんだよなあ。お前が止めてくれよ、わたる。家族だろ?」


 亘と呼ばれたバーテンダーは、拭き終えたグラスを棚に片付けると、首を横に振る。


「出来ない事が殆ど無くなった僕でも無理な物は存在する。それは、妻の華凛と息子の深栗だ。流石に親子喧嘩の仲裁に入れないよ。安心しろ、店は壊れない」


 亘のドヤ顔を見て無性に腹が立つ大田であったが、このまま素直に巻き込まれるのは納得いかない為、自らが店を出る事にした。


「じゃあ、また今度な」


「課長、今日は情報提供ありがとうございました」


 大田が店を出た後、恋条はカウンターの向こうでグラスを磨く父の亘にお礼を言う。


「父さん、大犬さんの件ではありがとうございました」


「礼を言われるほどの事じゃない。彼女のいた世界は、巫女の奴が脅威度判定でをたたき出したところなんだろ?だったらそこのブレイバーは、優秀な人材の可能性が高い」


「その割には、もう片方の方は地味な能力よ。設定範囲も小さいし」


 彼女の言葉に、亘がそうでもないといった表情で返す。


「それは決めつけだよ、華凛かりん。深栗の頼みで大犬さんを時、ついでに彼もんだけど、やっぱり並みの能力じゃなかったよ」


「本当ですか?父さん?」


 普段は見せない驚きの表情をする深栗に亘は何枚かに纏めたレポートを見せる。タイトルは『精神的成長によるギフトへの影響』と書かれていた。


「この考えに彼は当てはまるかもしれない。僕たちは何でも有りな人間だ。こんな結末だって有りだろう」


 恋条は、書類を受け取ると亘に礼を言う。


「ありがとうございます。早速帰って検討してみます」


 恋条は、そそくさとバーを出ていった。残された華凛は、で棚からオレンジジュースを移動させるとグラスに注がず飲み始める。


「わたるぅ~深栗が反抗期になったあ~!!わたしもうダメぇ!!母親としてやっていけないぃ~!!」


「どうして深栗の前だと強気になるのかなぁ‥‥‥」


 恋条亘は妻の恋条華凛の泣き叫ぶ姿に面倒くさいと感じつつ、それがまた子供っぽくて愛おしいと思っていた。


「まぁ、今度の件。老害は黙って若者達の成長に期待するとしますか‥ね」


 真夜中のバーで現地球最強のブレイバーは、目の前の妻の愚痴を聞きつつ自身も酒を飲み始めた。

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