case2-3

 午後9時を少し過ぎた頃、椿の前にゲートらしきものが出現する。椿は、三人の能力使用許可を出して構える。暗く先の見えないゲートの中からは、想定していた魔白悟ではなく、何故か女性が出てくる。

 彼女は、背中に黒い悪魔の翼を生やし、頭からはヤギのような巻き角が特徴的で露出の多い格好をしていた。その姿は日本人どころか地球人にすら見えず、椿は混乱してしまう。


「え‥‥あなた誰?」


 女性は、椿達に気づくと質問してくる。


「ねえ、ここってチキュウって場所かしら?」


「そうだけど…あなたは、魔白ましろさとる君の関係者?」


(おかしい、データでは魔白悟は転移時16才の少年だったと記載されている。目の前の女性は明らかに別人だ)


 椿は嫌な予感がし始めていた。すると、彼女の後ろから集団が現れる。先頭には、日本人の少年らしき人物が立っている。


「違うわよ、私は『モナーク』の魔女メルクス。此方が魔王サトル様」


 魔王と紹介された日本人の容姿は、データに載っていた少年の姿であった。 

 椿がマズイと判断した時、既に禍辻は、魔白に対して攻撃していた。しかし、魔白はそれが分かっていたかの様に回避する。


「ちっ、予知能力持ちか。やりづらいな」


 援護で魔白に発砲した東亜の銃弾も一歩も動かずに身体の捻りだけで全て回避する。


「成る程、お前の能力は物体に貫通能力を付与させるのか。拳銃だと厄介だな」


「こいつ、単純に速っ!マトリックスかよ!?銃弾程度じゃ避けられる!」


 椿には、一連の動きが全く見えず一人取り残されていた。魔白は、今の攻防の中で椿がこの中で一番弱い事に気づく。


「ん?貴方は、もしかしたら一般人かな。なら、ちょっと邪魔だ」


 魔白は剣を抜き左手に魔力を集める。


「やばっ、これはやばいヤツ!班長ちゃん、逃げて!!」


 東亜の声が聞こえ、椿が足を引こうとすると、メルクスが椿の目の前に瞬間移動する。


「逃がさないよ〜」


 メルクスの指に嵌められた指輪から白い鎖が現れ椿を縛り付ける。サーカスの曲芸の様にその場で飛びながら反転して椿の背後へと移る。

 途中、椿の額と重力に沿って垂れたメルクスの髪が交差した瞬間に指を引き、椿の身体を縛り付けていた白い鎖が強力な力で締め付けられる。


「あはは、これで締めても死んじゃいそー」


「班長!風峰、お前が班長の方に…っ!?」


 禍辻が東亜を向かわせようとするが、東亜は魔白の取り巻きに囲まれており、救助に迎えそうにない。


「くそっ!こうなったら恋条の空想をやるしかないか。大犬!あの悪魔女をぶった斬れ!!」


 大犬は、禍辻に指示され剣を抜き振ろうとするが出来なかった。


「何やってる!?このままだと班長が死ぬぞ!」


 大犬にとってこれは、自分の能力を変えるキッカケになるかもしれない一回であった。


(ダメ‥どうやっても最後の一振りが離れない)


 頭の中に映るのは、この世界で最後に振った一振り。海を裂き、海底火山を複数破壊し、無人島が世界地図から幾つも消えた。椿の説明に対して、大犬自身に確証はない。もし外れであれば東亜達も死ぬだろう。彼女は、恐怖に包まれていた。手に震えが出ていた。


(剣を振った衝撃波で班長も東亜も必ず死ぬ、無理‥無理よ)


 椿は、鎖で縛られて床に叩きつけられており、身動きが取れなかった。顔を上げると、魔白の魔法が撃たれる直前だった。禍辻の声が聞こえた時、大犬が動けなかったら間に合わないのだろうと思ってしまった。


 だから、最後の機会と思って彼女に伝える。


「瑞希‥死んでも信じてるから」


 大犬の震えが止まる。


(今日‥‥私の鍛練は、誰かに怖がられる地獄は、先の見えない迷宮の終わりは‥今日の為? 班長、信じていいの?)


 大犬は、手に持っていた剣を強く握りしめる。同時に魔白の広げた左手からビームのような魔力の塊が発射される。それが椿に向かって撃たれ直撃‥する事は無かった。


 ビーム発射の瞬間、椿が瞑っていた目を開けると、ビームの攻撃は跡形もなく消えており、魔白の左手が切り落とされて地面に落ちていた。

 同時に、椿を縛っていた鎖が消える。椿が起きるとメルクスは、上半身と下半身で真っ二つに裂かれていた。


「くそっ!なんだ今の剣速、予知で見えなかったぞ!何で俺の魔法が無かった事になるんだ!」


 魔白が失った左手を押さえながら言うと、大犬が涼しい顔をして答える。


「簡単です。そこで転がっている女も、貴方の予知も、腐った左手も、全部纏めて斬るイメージを作っただけ。斬撃で真っ二つに斬り、魔法を打ち消し、左手を切り落とす。それだけ考えて真っ直ぐに斬るだけ」


 大犬は、次に東亜を囲んでいた取り巻き達の方を向く。彼らは、魔白の腕が斬られたことで動揺していた。大犬は、剣を横一閃に振る。すると、東亜以外の魔白の部下だけ身体中に大量の斬撃の跡が残る。


「なんだ‥お前。なんでそうなるんだ‥斬撃は一直線だった‥嵐のような傷痕なのに」


「イメージしただけ。東亜以外の敵が斬撃の嵐で死ぬことを」


「化け物‥」


 大犬は、息を吐いてから剣を構え直す。


「脅威度A-程度の世界で最強になったからって調子のんじゃないわよ。


 大犬が剣を振り抜くと、魔白は、木っ端微塵に斬り裂かれる。後に残ったのは、立っていた場所にある血しぶきだけであった。


 椿は、ホッとして、地面に座り込む。


「終わった‥私生きてる‥」


 座り込んだ椿に大犬が抱きついてきた。彼女は涙目になっている。


「班長!良かった‥‥」


 東亜と禍辻が歩いてくる。二人とも苦戦はしていたようだったが怪我はしていなかった。


「大犬、制御できるようになってたな。というよりは、能力の詳細を理解出来たって感じだが‥‥でも喜ばしい結果だ!恋条の奴も喜ぶだろう」


「今日の瑞樹ちゃんは、向こうで勇者してた時のカッコイイ瑞樹ちゃんだったよ!」


 大犬は、仲間の二人に褒められて照れていた。彼女は生まれて初めて自分の力を素晴らしいと思えたのだ。


「ありがとう‥‥ございます」


 椿は、彼女が前を向けるようになった事が何より嬉しかった。


「今日は、皆さんお疲れ様でした。瑞希も最後かっこ良かったよ」


 大犬は、満面の笑みで答える。


「はい!」


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