case2-2

 背中を押された椿が自動販売機の前に着くと、東亜は気まずい表情で話を切り出す。


「班長ちゃん、ちょっといい?」


「何? 東亜君?」


頭を掻いて椿に目線を合わせない東亜。落ち着く為に唾を飲み込み息を吐いている。やがて、決心したのか大きく息を吸い込んだ。


「瑞希ちゃんに向こうでの事はあんまり聞かないであげてくれ。あっちでも制御出来なくて瑞希ちゃんずっと除け者にされてたんだよ‥」


除け者。一人の少女を称するには、これ以上ない侮蔑の言葉。東亜の口から語られたのは彼等転移者の裏側であった。


「向こうでラスボス倒した時も瑞希ちゃんがほぼ一振りで倒した様なもんだったのに、周りに被害が出る災厄の魔人って言われてて辛い思いしてたと思うんだ」


聞いている椿は胸が苦しくなる。けれど、それ以上に話している東亜の方が辛そうであった。彼だって話したくて話しているわけではない。大犬がもう苦しまないように語っているのだ。椿が先に耳を塞ぐわけにはいかなかった。


「帰還することになったのも向こうから追い出されたようなもんだよ。結果は、恋条さんのお陰で普通の人間として暮らすことが出来るようになった。今は、その恩返ししてるんだ」


(知らなかった。異世界でチートを貰ってもそういう理由で苦しむ子達もいるんだ…)


 椿には、ブレイバー達は向こうでも英雄として持て囃されたり、幸せになる事が当たり前だと思っていた。少なくとも、東亜と大犬の二人は幸せでも英雄でもなかったのだ。


「迂闊だった。これから気を付ける。ありがと、東亜君!」


 椿は、東亜に礼を言い大犬に会いに行こうとする。すると、携帯から恋条から呼び出しの電話が来る。

 椿が第三班の部署に行くと、恋条と禍辻が待っていた。


「枝垂さん、帰還予測情報です。今日の夜9時頃に神奈川県の高校に脅威度判定A−の帰還者、魔白悟が現れます。第三班で対応に当たって下さい」


 椿は、毎回伝えられる脅威度判定について気になっている事があった。


「恋条さん、前から気になってたんですけど、脅威度判定って何を基準にしてるんですか?」


「基本的に向こうの世界のレベルで判断しています。脅威度Cは、枝垂さんも知っているような強さが限界の世界。対して、今回のA−は、脅威度Cの帰還者なら向こうでは平凡と見なされる程度です」


 椿が担当した今までの5件は、A以上の帰還者ではなかった。つまり、今回の帰還者は、彼らの誰よりも危険な相手となる。


「実際、脅威度は本人の強さよりも世界を基準に測る。同じ脅威度Aでも一切戦闘経験がない無能力帰還者の時もあった」


 椿にとっては、平和解決で済めばそれでよかった。

 椿が、神奈川に向けて出発する時、恋条から携帯にメッセージ付きで、一つのファイルが送られてくる。タイトルは、『大犬瑞希のイメージ処理能力検討』とある。ファイルの中には、大犬の能力を制御する為に行った実験と、恋条の考察が載せられていた。ファイルの添付メッセージには、貴方が大犬さんを助けなさい。と書かれていた。椿は、移動の間ファイル内の実験データと恋条の考察を目が渇くまで読み込んだ。


「すごいや‥恋条さん。これなら、確かにいけるかも」


 しかし、恋条の結論は、現状では制御を行うには大幅に時間が必要となっていた。椿からすれば、今回、大犬の力が必要になるかもしれないと考えていたので、何とか時間を短縮出来ないかと考える。

 現場に着いても椿は、これについて考えていた。


「おい、班長。今回の作戦についてだが——何をそんなに考えてるんだ?」


 禍辻に心配された椿は、大犬の話をする。


「恋条が大犬の為に動いてたのは知っていたが、無理に今日、大犬に制御させる必要はないだろう。今言っても混乱させるだけだ」


「でも、これ以上悩むのはダメなんです」


真剣な椿を見た禍辻は頭ごなしな否定はしない。


「理由は?」


「彼女の悩みは劣等感から来た物じゃありません。自分の長所なんです。努力した事を悩む‥そんなの、あまりに残酷じゃないですか」


「——わかった。今回は俺と風峰でなるべく抑える。どんと任せて大犬と話してこい」


「はい!ありがとうございます!」


 帰還予定の場所に到着した椿は、大犬の所に行き能力制御について話す。


恋条曰く、大犬の能力が練習した分スペック向上する能力ではなく、頭にイメージした動きを再現化する能力と推察していた。向こうでの大犬は、歩行には、影響がないと証言している。

つまり、制御は本来出来るはずだったのだ。だが、練習したらスペックが向上する能力と本人が思い込んでいたせいで練習したのだから威力はこのぐらい上がるというイメージを頭に焼き付けてしまう。

それが現在の状況になった原因ではないか?というのが結論であった。


「…というわけで、大犬さんの能力は、脳のイメージに引っ張られた現象に限りなく近い結果がでる能力だと思うの。つまり、意識的に威力は下げられるはず。だから、今回はそれを念頭に入れて能力使用をしてみて」


 椿の話を聞いた大犬は喜びでなく、諦めの境地に入った冷め気味の声で答える。


「いいんですよ、班長。私の能力についてそこまで考えなくても。今回も、後ろで牽制役に徹してますから、禍辻さんと東亜だけで脅威度A−なら対処出来ます。それに、私は、向こうを追い出されましたけど、こっちに戻って来て良かったと思ってるんです」


 確かに彼女は、地球なら能力封印されて生活出来るため、制御は関係ないかもしれない。そう言って笑う彼女の眼は雪のように冷たく脆い心が姿を見せる。

椿は彼女の本音に被さる雪を溶かす。


「——でもね。恋条さんは今日私に託してくれたの。何か意味があると思わない?」


「恋条さんは、一般人ですよ?そんな予知能力持ってませんよ」


 そんな事は分かっているのだが、椿には心のどこかで運命的にも感じていた。


「なら‥‥なら、命令にしちゃう。これを頭に入れて私を助けてね?」


 椿は、自身のスマホを大犬に押し付けるとゲートが開く予定地に向かう。大犬はその後ろ姿を見ながら、ふと呟いた。


「私には無理ですよ‥‥」


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