case1-4

 扉が開いた先には真っ白な通路にガラス張りの部屋。どこかしこも老若男女が世代を超えて集まり会議や作業をしている。

 椿がその光景に唖然としていると、通路の先から1人の男性が歩いてくる。30代半ばくらいに見える彼は椿の前に来る。


「初めまして、枝垂椿さん。今日から貴方の上司になる、『恋条深栗れんじょうみくり』と言います。ようこそ、入界管理局へ」


「え、管理局?」


「はい、表向きは、記録試料係と記載されていますが、それは、カモフラージュです。表向きは存在しない機関ですからね。貴方が配属されたのは、『異世界帰還者入界管理局』通称『オーダーズ』です」


「異世界?帰還者?入界管理局?」


 椿が話を飲み込めずに困惑していると、彼は笑う。


「混乱するのも無理は無いですね。では、歩きながら話しましょう」


 彼が歩き出し始めたので、慌ててついて行く。


「最初に質問なのですが、貴方は異世界転移や異世界転生をご存知ですか?」


(それは、知っている。最近話題の小説テーマで、人気になっている。私も幾つか読んだことはある)


 椿が首を振って頷くと恋条は安心したかのように笑う。


「知っているようですね。ご存知の通り、異世界に行ってしまった主人公がその世界で冒険したり、恋をしたり、魔王を倒したりとする話ですが‥あれ実は、本当にある事なんです」


「本当にあるって‥ノンフィクションって事ですか!?」


「全部がノンフィクションではありませんよ。ただ一部の作品は異世界からの帰還者が食い扶持稼ぎで書いています。一応こちらで検閲して許可は取っていますが」


(ということは、私が読んだ小説の中にもノンフィクションの物語があったかもしれない)


 椿が驚いていると、恋条はしかし、と付け加える。


「しかし、異世界から帰って来る人間をこちらが全て歓迎出来るとは限りません。枝垂さんは、異世界転移小説での主人公達が実在するとして、もしもその人たちが地球に帰ってきたらどうすると思いますか?」


(もしも、か。彼らは、帰りたかった地球に帰ってきたら、やはり家族に会いたいのではないだろうか?)


 彼らが帰る理由は、そんなことしか思いつかない。


「家族に会うためでは?もしくは、静かに暮らしたいとか?」


 彼は微笑みながら聞いていたが、答えは違うらしい。


「基本的にはそうでしょうね、でも事はそう簡単にはいきません。異世界で手に入れた力を持ち込んだままこの世界に帰って来るという事は、地球では核ミサイルを超えた危険扱いになるんです。なにせ、彼らは個人が有するには強すぎる力を持っています。そんな人たちが身近に潜んでいて、いつ国を脅かすかも分からない。そんな人間達を放置できますか?」


(それは、まあ、ありえなくはないけれど……)


 彼らだって、異世界で何か善行をして帰って来るはずだ。そんな、簡単に地球を支配しようなんて考えつくのか?


「勿論、彼ら全員がそんな事をするはずがありませんよ。ですが、世に出回っている物語は、ウチが許可した話と主人公がヒーローのフィクションが多数です。現実には、悪逆非道の限りを尽くして、こっちに来る人間もいます」


 現実的な問題としては、確かにあり得る話だ。殺されて転生した人が復讐しに来るなんて、有りそうな話である。


「ですから、私達は、彼らが帰還する時に交渉して、向こうで得た一切の特典を此方では捨ててもらうよう説得するんです。地球で生活するなら、一般人に戻ってもらわないと危ないので。幸い、ウチの技術者達が封印用の拘束具を製作してくれたため、それを付けて生活してもらうだけで構わないのですが、一番の問題が解決しなくて」


「一番の問題ですか?」


「どうも、転移や転生する人は、得た力に固執する人が多いんですよ。そのせいで、力を封印する契約に同意を得られず、その場から逃げるか、こちらを倒そうとしてくるんですよ」


 異世界で人間離れの力を得た人間が襲ってくるというのか。


「ええ、それ殺されちゃうんじゃ?その時はどうするんですか?」


 椿がそう言った時、彼の足が止まる。慌てて椿も止まると1つの部屋の前に立っていた。ドアの上には『対異世界帰還者係』と書かれている。

 中には、大学生ぐらいの少年少女2人と、椿より少し年上に見える男がくつろいでいた。恋条が部屋の中に入ったので、椿もそれに続くと、中にいた3人の目線がこちらに集中する。


「あれ、係長さん?その子、新人ですか?」


「よく見なさい、東亜。彼女、腕輪付けてないわよ。ということは、もしかして……」


「ええ、その通りです。大犬さん。彼女は、今日から貴方達オーダーズ第三班の班長を務める枝垂椿さんです」


(え、班長?)思わず、恋条の方を見る。


「さっきの質問の答えですが、抵抗して来た場合は、します。その為に、彼ら元異世界帰還者達、別名ブレイバーの力を借りて、対象を下さい」


(何を言われているのか理解出来ない。班長として、異世界帰還者を殺せ!?)


「あなたの事は、何から何まで調べがついてます。学歴、家庭環境、警察官の志望動機、そして、その正義感。実は、今月貴方が、何度も上司を喧嘩しているのを見ていましてね。丁度、第三班の班長の枠が空いていたので、貴方なら相応しいと考えたんですよ」


 椿が固まっていると、恋条のスマホに着信がくる。


「はい、恋条です……分かりました。現場に急行します」


 電話を切ると彼は、椿達に向かって、


「皆さん、3時間後に富士の樹海に個人転移者が帰って来るそうです。脅威度判定はC-。指揮は私が執ります。枝垂さん、今回は、私の補佐としてついてきて、この仕事について見て学んでください」

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