case1-3

 ここは、表向きには存在しない機関。異世界転移者や異世界転生者といった普通の人間が対処出来ない事案専門で、構成員の殆どが元異世界転移者や転生者で構成されている。


 私、枝垂椿しだれつばきは、一ヶ月前にこの部署に配属された新人である。

 尚、私自身は異世界など行ったこともないただの一般人だ。

 とはいえ、この部署に来るまで警察官だったのでただの一般人とは言えないが。

 それでも、異世界なんて小説によくある設定だと信じていた。


《一ヶ月前》


「はあああ……また、やっちゃった……」


 椿は、警視庁の食堂でため息をついていた。すると、反対側で珈琲を飲んでいた先輩の萩原が声をかける。


「あんた、また、大田さんと揉めたの?これで、何度目よ?」


「うう……だって、納得行かなくて。今回の捜査にも加えてもらえなかったんですよ?理由は、また『若い』からって、言うだけだし。こんなのパワハラですよ!」


「でも、あんたまだここ来て、一か月の新人でしょ?いきなり大事件の捜査には、加えてはもらえないって」


「これじゃあ、何の為に警察官になったのか分からないですよ……」


 椿は、警察官を夢見て努力し、今年晴れて、念願の警視庁刑事部配属になった新人だが、何故か上司である大田の命令で今日まで事務仕事ばかり続いており、捜査には一切加えてもらえなかった。


「私だって、国民の為に働きたくて、ここに来たのに‥‥」


 椿が嘆いていると、後ろからスーツ姿の40代後半男が声をかけてくる。


「なら、君にピッタリの部署があるぞ」


「げ、大田さん……」


「げ、とはどういう意味だ?何か私に聞かれたら不味い事があるのか?」


「い、いえ!なんでもないです!それで…ピッタリの部署って…」


 大田は、椿の前に封筒を差し出す。


「ここに書かれている場所に行け。異動の話だ」


「異動ですか!?それって、捜査一課とか……」


「残念ながら私は、中を閲覧する権利がなくてね。これは、警視総監直々の推薦だ。良かったな」


 椿は、大田から封筒を受け取ると中を見ようとする。


「おっと、今言っただろう?私に閲覧権限はないと。それは、ここで開けず1人で中身を見てくれ。では、また君と会える事を祈っているよ」


 そう言って、大田は去っていった。

 去りゆく大田の背中を見ながら椿はケチをつける。


「なーにが、また君と会える事を祈っている、よ。もう会いたくないわ!」


「でも、良かったじゃない。警視総監直々なら、大事件の捜査に関係ある所かもよ」


 それはそうだ。推薦者は、あの警視総監なのだ。どんな部署なのだろうか。椿は萩原に別れをつげると、一人トイレの個室で封筒を開ける。中に書かれている異動の知らせには、こう書かれていた。


「異動辞令:枝垂椿 殿 本日付で警視庁刑事部刑事総務課刑事資料係に異動を命ずる」


「な、何よ、これ!」


 異動は異動だが、これでは左遷みたいなものだ。何が警視総監の推薦だ。あの上司め、私に対する嫌がらせであんな芝居をしたのか。

 予想外の内容にトイレの外まで響く大声が出てしまう。


 「こんな日陰部署からどうやって、捜査に関われるのよ‥」


 椿は落胆するが上の辞令には逆らえない。仕方なく荷物をまとめて、指定された場所である記録倉庫室に入った。人気のない静かな部屋の中を歩いていると、奥に事務仕事をこなしている50代の男が居た。椿は一応確認のために尋ねた。


「すみません、ここって記録倉庫室で合ってますか?」


 だが、男は椿を無視して事務処理をしている。

 耳が遠いのだろうか、聞こえるように精一杯に声を張る。


「すみません!今日からここに配属された枝垂椿です!ここって、記録倉庫室ですよね!」


 それを聞いた男は驚いた様に、こちらを見上げる。椿の姿を見た男は顔を遠ざけたり近づけたりしながら幻覚でないことを確認している。嘗め回されるように見られる椿にはとても失礼である。


「今なんて言った?君がここに配属された!?冗談でしょ!?こんな若いのに!?」


 こんなに若いのにここに来る事になったんだよ。


 椿は心の中で言い返すも口には出さない。

 営業用のスマイルを崩さない彼女に資料室の男は驚いたまま尋ねる。


「一応聞くけど、異動辞令持ってる?」


 椿は先程見た辞令書の入った封筒を彼に手渡す。彼は老眼用の眼鏡を取り出して、封を開けると一字一句じっくり観察する。

 やがて、本物だと判断すると、目を見開いた状態で声を出した。


「驚いた、こりゃ本物だ」


 本物も何も嘘書いてまでこんな所来たくないわ。


 何度も何度も感慨深く辞令を眺めていた男は、傍にあった電話を取ると、何処かに連絡し始める。それが終わると席から立ち上がった。


「ついておいで。部署に案内する」


 彼の後をついていくと、埃だらけの部屋の隅にある荷物置き場にたどり着いた。椿に見えないように手で隠しながら男がパスワードを入力すると、荷物ごと壁が回転して隠されていたエレベーターが姿を現す。


「これに乗って降りて行って。下がウチの部署だ。後は下に居る奴が何処に行くべきか教えてくれる」


「はあ、わかりました」


 彼に言われた通りに、隠しエレベーターで降りていく。どれだけの階層を降りた頃だろう。ようやく開いた扉の先には、椿にとって予想もつかなかった光景が広がっていた。


「何ここ‥‥?」











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